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資産投げ売りや国内回帰、日本関連M&Aに変化の波-コロナ禍が迫る

  • 4月の金額ベースのM&Aは10年ぶり低水準、企業の様子見広がる
  • M&Aのパイプラインは豊富、上場企業の私募増資も増える可能性

新型コロナウイルス禍で企業の経営環境が激変する中、日本企業が関連する企業の合併・買収(M&A)市場にも変化の波が顕在化している。鍵となるのは「ファイアーセール」(資産の投げ売り)や国内、アジアへの回帰だ。日本関連のM&Aは足元で落ち込んでいるものの、案件自体は豊富といい、今後の回復が見込まれる。

  ブルームバーグのデータによると、4月の日本関連のM&Aは322件、4509億円と金額ベースで2010年11月以来、約10年ぶりの低水準に沈んだ。ゴールドマン・サックス証券の投資銀行部門M&A統括責任者、矢野佳彦氏は「買収も売却も様子見の企業が多い」との認識を示す。

4月は10年ぶりの低水準に

日本企業が関連するM&Aの月別総額推移

出所:ブルームバーグ

注:単位はドル、Bは10億 

  一方で、もともと問題を抱えていた企業となると話は別だ。ドイツ証券・投資銀行統括本部長の梅野哲郎氏は「例えば再建途中で債務が大きい企業などは、コロナ禍を契機に売却を考えざるを得ない事態が出てくるかもしれない」と予測する。小売りやデベロッパー、観光業などの業種で、不動産などの資産売却や会社自体が出資を受けたり身売りしたりするケースもありそうだと語る。

  兆候は出ている。都心の不動産に強い日本リテールファンド投資法人が開いた4月の決算説明会。取得検討案件が急激に増え、20物件以上、1200億円程度の情報が積み上がっているとの言及があった。背景には一部不動産所有者の現金化ニーズ、決算に向けた売却ニーズが想定されるという。UBS証券の竹内一史アナリストは「投げ売り、物件を処分したいという人が出てきていることを示唆しているのだろう」と述べた。 

PEファンドが「救世主」にも

  こうした投げ売りが起きた時に、有力な資金の出し手とみられているのがプライベート・エクイティ(PE)ファンドだ。日本で活躍する大手PEファンドは、平時には過半出資などで経営改善を主導することが多いが、ドイツ証の梅野氏によると危機下の今、上場企業の緊急の私募増資に応じるケースも増えそうだという。

  私募増資について米カーライル・グループの山田和広日本代表は、大企業を含めて資本を大きく毀損(きそん)した先などからの「案件はすでに入ってきている」と認めた上で、ファンダメンタルズが悪化している企業は難しいとしつつも「一時的に資本が必要だというケースは積極的に見ていきたい」と述べた。

  また、様子見ムードの中でも、大型買収を実施した企業が独占禁止法上の懸念や膨らんだ負債削減のために行う事業売却は時機を待たない。製薬大手シャイアーを約7兆円で買収した武田薬品工業は大衆薬子会社を売却する方針。売却金額は30億ドル(約3200億円)超とみられる。日立化成を9641億円で買収した昭和電工の森川宏平社長は「従来になかった大規模な事業売却を断行する」と表明している。

  一方、物理的な制約の影響はゼロではない。ゴールドマンの矢野氏は欧州などで交通や交易の制限が続いたり、国が企業の買収防衛措置を講じたりする可能性に触れ「グローバリズムの流れを断ち切る動きで、クロスボーダー案件は難しい環境になってくるかもしれない」と懸念を示す。

  ドイツ証の梅野氏は、直接交渉相手と会えないことで既存提携先などなじみの企業との交渉が選好されやすいとし「この機会に懸案だったが優先順位が低かった案件を解決しようという動きも出てきている」と指摘。「長い外出自粛を経験し、デジタルやITサービス、電子商取引、物流などは成長の可能性を秘める」として、国内やアジア太平洋地域での案件増を見込む。

Sony Corp. CFO Kenichiro Yoshida Announces Earnings Figures

ソニーフィナンシャルホールディングスを完全子会社化するソニー

  5月以降、ソニーが上場子会社のソニーフィナンシャルホールディングスを約4000億円で完全子会社化することや、新生銀行が豪ANZ銀行グループ傘下ノンバンクを約500億円で取得するなど大型案件の発表も相次ぐ。

  大和証券グループ本社の中田誠司社長は、M&A助言業務のパイプラインは豊富だとして「ある程度経済が再開してくれば動くと思う」と期待を寄せる。ゴールドマンの矢野氏は「新たな枠組みの案件が業界をまたいで起きる可能性がある」との見方も示した。

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