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文春野球コラム

2019年のスワローズを“スポーツ紙の見出し”で振り返る【前編】

文春野球コラム 日本シリーズ2019

2019/10/23
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3年目を迎えたスポーツ紙のスクラップ

 文春野球がスタートしたのが2017(平成29)年シーズンのこと。この年からヤクルト監督を襲名した僕は「二つの課題」を自分自身に課した。一つは「年間シートを購入して、(できるだけ)神宮球場で観戦すること」、そしてもう一つは「日々の試合結果をスクラップすること」の二点だった。17年と言えば「96敗」に沈んだ辛く陰鬱なシーズンだ。

 この間、神宮に通うのが辛かったこともあった。新聞記事を開こうとするたびに原因不明の吐き気や片頭痛に悩まされたこともあった。それでも、何とかこの1年間、神宮に通い、ハサミとノリを手に持って新聞記事のスクラップを続けた。この試みは、文春野球2年目の昨年も続けた。そして、両年とも、「新聞記事から振り返る今シーズン」を原稿にまとめた。

2019年のスクラップノート ©長谷川晶一

 ということで、今年もやります。好評なのか、不評なのか、読者の反響はわからないけれども、勝手に「恒例企画」と思い込むことにして、「日刊スポーツの見出しで振り返る2019年」を一挙にご紹介。今年一年、どんなことで一喜一憂、いや一喜二憂していたのか? 改めて、みなさんとともに振り返りたい。

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 今シーズンの幕開けは、開幕日である3月29日付の「6番村上」という大見出しからスタートした。その隣には「今夜セパ開幕!! YS55年ぶり高卒2年目スタメン」という文字が躍る。結果的に「19年は村上の年だった」と僕は考えているのだが、それを予感させるような紙面であり、今季の始まりだった。しかし、31日の開幕3戦目にしてすでに「坂口死球 長期離脱も」という不吉な前兆も。まさに波乱の幕開けだった。

19年は村上の年だった

 4月に入ると「おかえり五十嵐 10年ぶり神宮1勝」の文字が躍り、五十嵐亮太の古巣復帰を祝福する記事が掲載された。この日の神宮球場では「もこもこパーカー」が配布されたことも明記しておきたい。翌6日は「青木代打サヨナラ弾」! 延長12回裏、この日は休養日だった青木宣親が代打で登場。引き分け濃厚だった二死走者なしの場面でレフトへ劇的すぎる一発。プロ15年目にして初となる代打サヨナラホームランだった。

 そして、4月11日付では今季初となる一面。そこには「広島ファン泣かせた ヤ首位タイ 12点」と大書されている。マツダスタジアムで行われた対広島2回戦。3対3で迎えた延長10回表、ヤクルトは一挙12点を奪って劇的な勝利を飾る。さらに次の日は「寺原 再生1勝」とあり、「4年ぶり単独首位」と書かれている。単独首位ですよ、奥さん! この時点では本当に幸せだったよなぁ……。そして、寺原隼人投手。わずか1年ではあったけれど、どうもありがとうございました。本当にお疲れさまでした。

「広島ファン泣かせた ヤ首位タイ 12点」 ©長谷川晶一

5月から6月にかけてはまさかの16連敗……

 さらに快進撃は続く。4月15日付ではまたも一面。村上のタイムリーを報じる記事の脇には「ヤ 平成最後の10勝一番乗り」と踊っている。平成最後ですよ、奥さん! 20日のナゴヤドームでは「川端今季初安打が1000安打」というめでたい記事があり、26日付では忘れもしない「青木 山田 バレ3連発」が堂々の一面。平成最後の「TOKYOシリーズ」で見せた怒涛の三連発。強かったなぁ、優勝すると思ったよなぁ。ちなみに、この日はスアレスが初勝利。たくさん勝ってくれると信じていたよ。何も疑うことを知らない青年だった。純真だったよ、このオレも。

 28日、神宮の対広島戦でも「青木弾 バレ弾 山田弾」! 中2日で主軸の三連発だよ。優勝すると思っても仕方ないよ。だって、日刊スポーツには「ヤばい競演」って書いてあるんだから。結局、4月終了時点では16勝11敗1分で、首位巨人とは0・5ゲーム差の2位。堂々たるスターダッシュを切ったのだった。特に五十嵐は4月だけで何と5勝。「いつか、この反動が来るのではないか?」、そんな不安を払拭しようと、忍び寄る暗い影に気づきつつも、僕らは明るい未来だけを思い描いていたのさ。

 しかし、転落の予兆は5月14日付の小さな記事から。そこには「西浦抹消」とのベタ記事。これ以降、僕にとって人生で一番嫌いな四字熟語は「西浦抹消」となる。……さぁ、読者のみなさん、覚悟はいいですか? いきます。25日付の「YS10連敗」を皮切りに、28日付には「2年ぶりYS12連敗」と続き、「4番村上弾でもダメ ヤ13連敗」、「ボッコボコ14連敗」。……読者のみなさん、大丈夫ですか? 気を確かに持ってください。僕はもう失神寸前です。

 泥沼はなおも続く。セ・リーグワースト記録タイまであと一つとなった31日付では「ヤな予感… 15連敗」。このダジャレにイライラしてくる。そして、上茶谷大河にプロ初完封を喫した6月1日の対DeNA戦では「セ49年ぶり最悪メロメロドラマ ヤ16連敗」とある。でも、朝の来ない夜はない。6月3日付では久しぶりの一面。見出しは実にシンプルだ。「ヤ勝てた!!」のみ(笑)。「ヤな予感」「メロメロドラマ」と来たのなら、ここは「ヤっと勝てた!!」でしょ、ニッカンさん。それにしても、長かった、辛かった。「もう、勝てないんじゃないか……」と眠れない夜は、これで終わりとなるはずだった。

「ヤ勝てた!!」 ©長谷川晶一
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