2ストロークと排ガス規制:2ストローク消滅の原因となった問題点【バイク用語辞典:2ストロークエンジン編】

■2006年の排ガス規制強化で2ストロークエンジン搭載バイクはほぼ消滅

●吸気、圧縮、燃焼、排気、掃気行程が重複することが燃費と排ガス性能悪化の根源

バイクの排ガス規制は、自動車の規制から30年以上も遅れた1998年に初めて施行されました。2ストロークエンジンは、原理的に4ストロークに対して排ガス性能が大きく劣るため、排ガス規制に対応できず新型国内モデルは市場から完全に消え去りました。

バイクの排ガス規制の経緯と現況について、解説していきます。

●2ストロークエンジンの排ガス特性

混合気の吹き抜け
混合気の吹き抜け

2ストロークエンジンは、軽量コンパクトで高トルク(出力)特性というメリットがあるものの、排ガスと燃費性能には致命的な問題があります。

2ストロークは、掃気行程で混合気と燃焼ガスが混じり合うため燃焼が不安定になります。また、混合気が排気ポートから抜けてしまうので、燃費と排気ガス特性が4ストロークに比べて大きく劣ります。さらに、混合気中にエンジンオイルを混合してエンジン各部を潤滑することも、排ガスにとって悪い材料です。

●1998年排ガス規制

バイクで排ガス規制が初めて施行されたのは、自動車に比べて30年以上も遅れた1998年でした。

最初の規制は、以下の通り4ストロークと2ストロークは別々の規制値が設定され、2ストロークに厳しい規制でした。

・CO値(g/km) :13.0(4ストローク)/8.0(2ストローク)

・HC値(g/km) :2.0(4ストローク)/3.0(2ストローク)

・NOx値(g/km):0.3(4ストローク)/0.1(2ストローク)

三元触媒の働き
三元触媒の働き

この規制に対応するため、バイクでも自動車と同様、三元触媒を使った空燃比(吸入空気重量と供給燃料重量の比)制御と精度の高い点時期制御が採用され始めました。

排気系に搭載する三元触媒は、空燃比を理論空燃比(=14.7)に設定すると、有害排ガスの3成分CO、HC、NOxを同時に低減できます。空燃比制御とは、排気管に装着した酸素(O2)センサーを利用して吸入空気と燃料量を調整して、空燃比を理論空燃比に制御する手法です。

原付バイクや小型スクーターなどは排気量が少なく販売台数が多いので、上記の三元触媒を利用した排ガス低減手法によって規制に対応しました。

一方、排気量の大きい125ccや250ccクラスは、規制対応による出力低下や開発コストの上昇などの問題から、多くは排ガス規制対応を諦めて生産を中止しました。

●2006年排ガス規制

2006年には、規制値は1998年の最初の規制値から50~85%削減されました。

・CO値(g/km) :2.0

・HC値(g/km) :0.3

・NOx値(g/km):0.15

さらに排ガス試験の計測条件が、暖気モード(暖気後試験)から冷態モードに変更され、対応がより厳しくなりました。この規制によって、従来のキャブレター搭載エンジン車、空冷エンジン車、2ストロークエンジン車はほぼ消え去りました。

●最新の2016年排ガス規制(EURO4)

排ガス規制経緯
排ガス規制経緯

2012年から、日本でもWMTC(World-wide-harmonized Motorcycle Test Cycle)という国際基準に準拠した排ガス計測法と基準値を導入しました。

計測法とともに、クラス分けも3つに変更されました。

・クラス1(アーバンクラス):50~150ccかつ最高速度100km/h未満

・クラス2(ルーラルクラス):150cc未満かつ最高速度130km/h未満、もしくは150cc以上かつ最高速度130km/h未満

・クラス3(モーターウェイクラス):最高速度130km/h以上

2016年の排ガス規制値は、2012年規制値の約半分、いわゆるEURO4相当の規制です。

EURO4では、新たにOBD(車載式故障診断装置)が導入されたため開発の大きな負担となり、4ストローク車でも数多くの名車が消え去りました。

・CO値(g/km) :1.14(クラス1)/1.14(クラス2)/ 1.14(クラス3)

・HC値(g/km) :0.3/0.2/0.17

・NOx値(g/km):0.21/0.17/0.09

2020年12月には、さらに厳しいEURO5相当の排ガス規制が予定されています。


自動車の技術は、段階的に強化されている排ガス規制に対応するため、技術淘汰されながら進化を続けています。

バイクも同様で、排ガス規制の強化で2ストロークエンジン、空冷エンジン、キャブレター搭載エンジンが消え去り、自動車技術に追走するように新しい技術が採用されています。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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