知られざる親日国「サカルトヴェロ」ってどこにある国?

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「サカルトヴェロ」という国名を聞いて、すぐに場所や国柄を思い浮かべられる日本人はそう多くないだろう。しかし、じつは日本とも大変に縁の深い国なのだ。

 たとえば、同国は柔道が非常に盛んで、大相撲の関取も3人輩出している、大の親日国である。また、世界史に名を残す独裁者の出身地としても知られ、日本は第2次世界大戦の最終盤で彼が率いる国に侵攻され、貴重な領土を奪われている。

――とここまで書けば、ピンとくる読者もいるかも知れない。「サカルトヴェロ」とは、現在は「ジョージア」と呼ばれている、ヨーロッパ東部の小国の正式名称である。かつてのソビエト連邦の構成国で、かの独裁者スターリンは同国で生まれ育っている。

 国際協力機構(JICA)理事長の北岡伸一さんは、2017年にジョージアを訪問した。以下、北岡さんの新著『世界地図を読み直す:協力と均衡の地政学』(新潮選書)から、同国に関する記述を再構成して紹介しよう。

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 まず国名については、下記のように説明されている。

「ジョージアは、以前はグルジアと言った。ただし本当の国名は『サカルトヴェロ』であって、グルジアもジョージアも他称である。ロシア風のグルジアは好まないというので、アメリカ風に変えたわけであるが、もともとの名前まで変えたわけではない。日本が英米でジャパンと呼ばれていて、それをジャポンやハポンにしても、日本という国名に変更はない、というようなものである」

 また、教科書にも載っているスターリンという名前は、じつは「筆名」なのだという。

「ジョージア出身でもっとも有名な人物は、スターリンだろうが、これは『鋼鉄の人』という意味の筆名であり、元来の姓はジュガシヴィリである。ジョージア人の名前は、……シヴィリ(かつてチョチョシヴィリという柔道チャンピオンがいた)、あるいは……ゼ(初代大統領シュワルナゼのように)が断然多い。一目でジョージア人とわかるのである」

 そして、日本との関係については、以下のように書かれている。

「ジョージアでは、国全体が外を見ているし、日本のこともよく見ている。元来、レスリングや重量挙げの強い国であり、武道には関心が深い。ヨーロッパ出身者で最初に大相撲の関取になったのは、黒海である。現在も栃ノ心と臥牙丸(かがまる)の2人が、現役の関取である。

 首都のトビリシには、かつて満州からソ連によって連れ去られた日本人がいたと言われており、亡くなった方々のための慰霊碑が建てられている。彼らは日本を良く知っているのである。コーカサスの小国に、こうした親日国を見出すことは嬉しいことである」

 北岡さんがジョージアで特に感銘を受けたのは、そのアイデンティティの強さだという。

「かつてはビザンチン、イスラム、モンゴルに侵略され、さらにトルコ、ロシア、イランという大国に挟まれて、現在まで続いているのはすごいことだと思う。彼らは何度も独立を失ったが、民族のアイデンティティは失わなかった。1918年、ロシア帝国が崩壊したとき、一時独立を宣したが、またソ連に併合され、1991年、ソ連崩壊とともに独立したのである。

 彼らの民族のアイデンティティの根源は、宗教(ジョージア正教)、言語(ジョージア語。コーカサス語族に属するが、言語も文字も独特で、他に似ている国がほとんどないらしい)、そしてワインだという。

 かりに日本人が外敵に侵略され、あるいは離散することになったら、われわれはジョージアのようにたくましく、そのアイデンティティを保持して生きて行くことができるだろうか。

 その核は、1つは日本語だろう。国際社会で生きて行くために、今程度の外国語能力では話にならないから、英語教育に力を入れるのは当然だが、日本語を十分大切にしているようにも思えない。

 もう1つ、宗教に代わるものは皇室だろうか。しかし、日本国憲法のもとでの皇室のあり方については、これまでほとんど何も手が打たれていなかった。最近、天皇退位についての特例法が定められたのは、1つの進歩である。しかし、まだまだ不十分なことは誰でも知っている。皇位継承権を持つ50歳以下の男子は、現在、悠仁(ひさひと)親王たった1人である。

 長期の展望の中で、日本人のアイデンティティを考える取り組みが必要である。その際、よき伝統を保持するためには、すべてをそのまま維持するのではなく、必要な改革をすることが不可欠である。ジョージアの実情を見て、大いに考えさせられた」

デイリー新潮編集部

2019年5月23日掲載

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