「恭子さん、美香さんおふたりからの差し入れです」
取材陣一人ひとりに、六本木の老舗寿司屋「おつな寿司」の寿司折りが配られるところからスタートした、映画「イヴ・サンローラン」(ジャリル・レスペール監督)のトークイベント。ゲストはタレントの叶姉妹。揃ってイヴ・サンローランのドレスに身につけ、登壇した。

いずれも胸元が大きくあいたセクシーなドレスだったが、とりわけ姉・恭子のドレスはサイドがほぼレースで肌が透けて見えるという大胆なデザイン。MCがおずおずと「下着のラインがまったく出ていないんですが…」と質問すると、「もちろんです。何もつけておりません」(恭子)、「そうですね。こちらは何もつけられないタイプ」(美香)と語った。

映画「イヴ・サンローラン」は21歳の若さで故クリスチャン・ディオールの後継者に指名された天才ファッションデザイナー、イヴ・サンローランの伝記映画。その半生を公私ともにパートナーだったピエール・ヴェルジェとの愛を軸に描く。

美香 「イブが光り輝いたのはベルジュがいたおかげ。並々ならない忍耐力を身近に感じました。天才は何かしら支えなくてはならない。でも、どんどんハードルが高くなり、忍耐強くなっていく……。そういう過程が描かれているので、観ていただけるとわたくしの気持ちもちょっとわかっていただけるかなと」

恭子 「美香さんがいなかったらわたくし自身もありのままでいられないんじゃないかなといつも思います。悪いことしてしまったわと思ったときは、『ごめんなさいね』って謝ったりするんですが、美香さんはいつも『そんなこといいのよ』って受け入れてくれる。その意味でも、この映画で描かれているイヴとベルジュの関係はとても身近なものでした。

半世紀にわたり、「モードの帝王」として君臨したイヴ・サンローランは、その輝かしい経歴とはうらはらに、凄まじい孤独やプレッシャーに苦しめられ、やがて薬物やアルコールに依存するようになっていったという。

孤独と上手につきあうにはどうすればいいのか。恭子の答えは明快だ。
「孤独は自分の中の一人の時間で愛していつくしむとても大事な時間です。私自身は友人と呼べる相手は世界に数人程度です。でも、孤独だと感じたことはありません」

さらに、人間関係を海洋生物に例え、こう諭す。
「同じ海の中であっても、くじらもいれば、イカやイワシ、いろんな生き物がいます。くじらにはプランクトンの気持ちもわかりませんし、イカにはイワシの気持ちはわかりません。それはそれとして、みなさん一緒に漂っているわけですから、それでいいのではないでしょうか」

本作品のもうひとつの見どころは華やかな衣装の数々。史上初のイヴ・サンローラン財団公認作品であり、ピエール・ヴェルジェが全面協力し、財団所有のアーカイブ衣装を貸与。イブが手がけた本物の衣装が次々登場する。

この日のトークイベントでは、叶姉妹が膨大なコレクションの中から持参したという、ドレスとジャケットも披露された。

「用意してくださったトルソーがあまりにもここ(胸)がなかったので、わたくしがティッシュを詰めました」(恭子)というグラマラスなトルソーが身にまとっていたのは、華やかなピンクのドレス。じつはこのドレス、もともとはイブニングドレスだったという。

恭子「わたくしが勝手に切りました」
司会「ええ」
恭子「もともとはロング丈だったんです」
司会「えっ?」

イブニングドレスの場合、同じドレスを着られるのは一生に一度きり。「毎回同じものを着るぐらいなら、いっそ持たないほうがいい」というのが夜会服(ソワレ)のルールだとか。金かかるな……。

「もう少し着たいなとおもうお洋服は裾を短くして、カジュアルにするんです。じつはこれも切りました」(恭子)と指さしたのはこの日、恭子が着ていたドレス。司会者はポカーン。会場もどよめく。

じつは今回のトークイベントは当初、美香が一人で参加する予定だった。恭子のドレスはイベント登壇用として着てきたわけではなく、ちょっとした外出着。「スタッフの方に『これなら大丈夫』『素晴らしい』とおだてられまして……」と急遽、登壇することになったという。

「そんな大胆に切ってしまっていいものなのでしょうか……」と、他人ごとながら心配そうな司会者に、恭子の回答は「自分のものですから、どうしようと勝手だと思います」。あまりにあっけらかんとした物言いに、会場からは笑い声が上がった。

さらに、トークショー後の囲み取材では、美香の恋愛がさらりと暴露される一幕も。
恭子「この映画ではなくて申し訳ないですけど、美香さんが出演しております『TOKYO TRIBE』の方みたいですよ。連絡を取り合ってるみたいです」
美香「まだこれからなので、あまり言ってしまってそのまま立ち消えになってしまうと困りますので……」
恭子「出演者の方でも250人くらいいらっしゃいますし、その周りの方たちもいっぱいいらっしゃいますしね」

いやはや、恭子さんの大胆不敵ぶりは圧巻。この自由すぎる魂を支え続ける美香さんの懐の深さって一体……!

映画「イヴ・サンローラン」は9月6日より角川シネマ有楽町、新宿武蔵館、シネマライズほか全国公開。
(島影真奈美)