僕はおじさんが大好きだ。
僕も37歳のおじさんだが、僕の好きなおじさん達の前では僕なんて子供だ、いや赤子だ。

おじさんといっても、バリバリ働く世界を飛び回るタイプのおじさんじゃなくて、世界を飛び回らないタイプのおじさんが大好きなのだ。
羽のないタイプのおじさんだ。スーツタイプのおじさんじゃなくて、ジャンパータイプのおじさん、ポケットが無駄にあるタイプのおじさんが大好きなのだ。

18歳から24歳の6年間をほぼ京都のパチンコ屋で過ごした僕の周りにはいつもそうゆうおじさんがいた。
どんなに負けても絶対怒らない常に笑顔のおじさん、通称ガンジー。毎日6時ピッタリに来る人間時報おじさん、通称6時爺。
4年間帽子をとったところを誰も見た事がないおじさん、通称帽子。
帽子に至っては、帽子とったら直接脳だったと嘘つきおじさんが言ってた。

24歳から2年間、地元福井県の何を作ってるかわからない工場で働いた時もおじさんがいた。貰いタバコだけで一日2箱吸う豊田さん、小指ないボケをめちゃくちゃやってきてウケないとキレる鈴木さん、理由は教えてくれなかったが東京が出禁の小幡さん……。
みんな一癖も二癖もあるが、とても魅力的なのだ。

僕は今日から知らないおじさんと飲みに行く


よく若者はタトゥーをいれたり、奇抜なファッションで個性を表現するが、おじさんの前では無力だ。半世紀近く生きてガッチガチに固まった個性、これこそがおじさんのおじさんたる所以なのだ。
羽のないおじさんは最高に愛おしくて格好悪くて格好いいのだ
なので僕は今日から知らないおじさんと飲みに行く「オジスタグラム」を始める。

とゆう事で、記念すべき第1回目のおじさんは、みつおさん。WINS後楽園の喫煙所で出会ったアーノルドパーマーのポロシャツが似合う、毛と歯が少なめの47歳だ。最終レースを終え、中古のスクーターが買えるくらい負けてた僕に、みつおさんが煙草を一本くれねぇかと言ってきたのがきっかけで意気投合した。
朝は存在も知らなかったおじさんが今は目の前にいる。
不思議な感覚だ。コンパで女性をお持ち帰りするのはこうゆう感覚なのだろう。
みつおさんは僕の祖父と同じ名前である僕の祖父は、岡野三男。三男と書いてみつおなのだが、次男なのだ。親の一世一代のボケなのか何かはわからないが、次男なのに三男なのだ。

同じ親滑りパターンだったら凄いなと思い、みつおさんにどんな漢字なのか聞くと、47歳のみつおさんの顔が一瞬で少年のような顔つきに変わった。
僕はどうやらいい質問をしたらしい。みつお少年がにやけながら聞いてくる。

「どんな漢字だと思う?」
「えっと、」

みつおさんは僕の返事を待たずに、御自身の剥き出しの前頭葉あたりをペチッと叩き、
「見たらわかるだろ!え~!?光る男だよ!ガハハ!ガハハ!」「わかりやすい!ガハハ!ガハハ!」

光男が今の姿になってから、何千、何万回と職場や飲み会を盛り上げてきたボケなのだろう。心なしか叩いた部分も他の部分より少しへこんでいる気もする。言い方も間も完璧だった。

「おい、笑いすぎだろ!え~!?」
「いや、自分で言ったんでしょ!」
「ガハハ!ガハハ!」「ガハハ!ガハハ!」

控えめに言っても最高だ。

正直知らないおじさんと飲みに行くのは楽しみな反面、不安もかなりあったが、光男さんはそんな不安を一瞬で取り除いてくれた。
僕の大好きなおじさんのタイプは二種類ある。ひとつは人になんと言われようと我が道を行く個性爆発のハードパンチャータイプのおじさん。そしてもうひとつは、どんな相手にも自虐などでマウントをとらせて下から闘う柔術タイプのおじさんだ。光男さんは後者のおじさんだ。
たまにこの柔術タイプのおじさんを自分より下の人間だと勘違いして見下す人間がいるが、柔術タイプのおじさんがその気になればいつだってあなたを三角締め出来る事を忘れないで欲しい


肝に銘じて欲しいことがある


光男さんとビールとハイボールで乾杯する。

「カァ!うまい!」

朝から晩まで働いた御褒美の一杯のようにCMばりにうまそうに飲む光男さんだが、我々は働いてもないし、光男さんに至っては一杯目でもない。出会った時には出来上がっていた。おまけに二人あわせて、犬が買えるくらい負けてる。
しかし、ビールは皮肉にも今日も最高にうまい 光男さんが一気にハイボールを飲み干し、二杯目を頼んだその口で反省会を始める。

「いや、ほんとによ、今日よ、あのレース戸崎の馬が来てればよ10万だったんだよ!」
「えー!まじすか?」「まじよ!まじ!後、京都6レースだったかな、2ー4ー13は持ってたんだよ……、8番の馬も買えたよあれは」
「そうですよねぇ。僕もあの東京のメインでデムーロ来てれば……」

よくタラレバの話は意味がないからやめろとゆう、成長意欲のバケモノみたいな人間がいるが、あれはやめて欲しい。我々からタラレバを取ったら絶望しか残らないことを我々は知っている。
光男さんの名言をお借りするなら、我々はニラレバとタラレバをあてに酒を飲む生き物なのである。皆様、肝に命じて欲しい。おじさんからはお金とタラレバをとってはいけない。
光男さんと色んな話をした。光男さんが自動車整備工だった話、娘にベタに洗濯物一緒にするなと言われた話、岐阜には何もないと言う話、一億あったらハワイでたこ焼き屋をやる話……。
帰り際に光男さんはダービーで絶対に来る馬を教えてくれた。以降、光男さんの姿を僕は見ていない。
(イラストと文/岡野陽一 タイトルデザイン/まつもとりえこ)


連載開始記念エキレビ!からの「おまけ袋」


岡野陽一から編集担当アライに連載第一稿が届くまでのリアルLINEをダイジェストでお見せします。

最初の締切は、今年のGW10連休明けでした




ライブなどで忙しそうな岡野。落ち着いて書いてほしいので、思い切って月末まで締切を伸ばし、岡野も編集も鬼になることを誓いました。そして5.31当日。

本業の都合じゃしょうがない、いったん鬼の角はおさめて待つ。週が明けたら……



このあと、どどどどどーっとLINEが原稿で埋まり、何回かのやりとりで原稿は完成し、こうやって「岡野陽一のオジスタグラム」がはじまりました。
どうぞよろしくおねがいします(毎週木曜日更新予定)。
連載の人気が出て、書籍とかになって、売れて、パソコン買ってくれるといいなあと鬼は願っております。(エキレビ!/アライユキコ)