天海祐希主演の医療ドラマ「トップナイフ──天才脳外科医の条件──」(日本テレビ系・土曜22時~)第4話。

今回のテーマは“記憶“。
「逆行性健忘」と「前向性健忘」という、それぞれ記憶にまつわる障害を抱えた患者が登場した。

「記憶喪失」にも色々ある


「逆行性健忘」は発症以前の記憶を思い出すことができなくなる障害。

東都総合病院に運び込まれた女性患者(中尾ミエ)は、頭から血を流しながらパジャマ姿で徘徊しているところを発見され救急搬送。自分の名前すら覚えていないという。

「前向性健忘」は逆に、発症以降の出来事を記憶できない障害。

幼なじみの山口清(本田博太郎)に連れられて病院を訪れた内田正(綾田俊樹)は、3分間経つと何もかも忘れてしまう。しかも30年近く前、33歳の時点で記憶が止まっているのだ。


「記憶喪失」はドラマでもたびたび取り上げられるモチーフだが、同じ「記憶がなくなる」という症状にも色んな種類があったとは。さすが脳外科専門ドラマ、勉強になる!

多くのドラマで扱われるのは「逆行性健忘」の方だろう。いわゆる「私は誰、ここはどこ!?」パターンだ。

一方、映画「メメント」の、10分間しか記憶がもたず、覚えておくべきことをメモしまくる主人公は「前向性健忘」ということになる。

今回の患者・内田の場合は、さらに短い3分間しか覚えていられない。ちょっと前に話したことをすっかり忘れてしまうという、コントのようなやり取りが続いていたが、こりゃ大変だ。


本田博太郎の熱演に深読みし過ぎてしまう


内田はかつて投資会社に勤めており、色んな企業を買収して潰してきたという過去を持っていた。

その中には、山口の父親が経営する温泉旅館も含まれており、おかげで山口の父親は自殺しているのだ。

当然、内田はまったく覚えておらず、無邪気に“おじさん”と称する山口に懐いていたが、山口の方は恨みを募らせており、いつか復讐しようと出刃包丁を持ち歩いていた。

だいぶ長期的な計画であるはずなのに、復讐の手段が「出刃包丁でぶっ刺す」という、脳みそを一切使ってなさそうなスタイルなのは大丈夫かと思うが……。

そこへ“みんなの先生”深山瑤子(天海祐希)がなぜか通りがかり、山口を説得する。

内田は、山口が誰なのかは理解していないが、感情の記憶だけは扁桃体が覚えているため、「大好きな人」という感情だけは残っているという。

子どもの頃、ふたりで農園からりんごを盗んだことを思い出しつつ、内田を刺すはずだった出刃包丁でりんごの皮をむくシーンは圧巻。
本田博太郎、綾田俊樹という名優ふたりの演技がすごすぎた。

ただ、熱演過ぎて本田博太郎の微妙な表情から感じ取れる(余計な)情報が多すぎる! 和解してからも「まだ何か企んでるんじゃ……!?」など色々と勘ぐってしまった。
天海祐希「トップナイフ」4話。記憶を喪失しても感情は覚えている脳の不思議「大好きな人」は変わらない
イラストと文/北村ヂン


目覚めた母親の第一声がひどい


一方、「逆行性健忘」の女性は“二刀流“西郡琢磨(永山絢斗)の母親・喜和子だった。

かつて女性心臓外科医の第一人者だった喜和子は、脳内の非常にややこしい場所に腫瘍が出来てしまい、西郡が摘出手術をしたものの、手術後「逆行性健忘」の症状が出てしまったのだ。

西郡は小さい頃から出来のいい兄たちと比較され、母親との折り合いが悪かったようで、妹(三浦透子)からは「母を殺すつもりだったんじゃないか」なんてヒドイことを言わてしまう。

以降、手の震えが出るようになったようだ。

“トップナイフ“黒岩健吾(椎名桔平)は「元へ戻す自信はある」と言うが、西郡は自分の失敗を認めたくないのか、それとも、いつか自分の手で治そうと考えているのか、手術を頼むことができなかった。


結局、めちゃくちゃプライドの高そうな西郡が黒岩に頭を下げ、手術を行うことになる。

「兄貴たちのことしか見てない、自分を捨てた母親」の記憶が戻ったら、「見えてるか? オレが」と言ってやるつもりだと語っていた西郡だが、目を覚ました喜和子から「琢磨か?」と声をかけられると、ものすごく安心した表情を浮かべていた。

しかし、その後の言葉をどう受け取めたらいいのか。

「やっぱり才能ないねえ」

喜和子のために黒岩に頭を下げたというのに……。

内田は記憶を戻すことで、かつての幼なじみ・山口と和解できたが、喜和子は記憶を元に戻したことによって、西郡と関係の悪かった時代に戻ってしまったのか。

家族の問題を抱える医師たち


「オペオペオペで家族を犠牲にした。
それがトップナイフだ。俺たちは 外科医だ」

と黒岩が語っていたが、西郡以外の医師たちも、それぞれ家族との問題を抱えているようだ。

「母親に捨てられた」という黒岩。仕事にかまけてきたせいで、娘から「私を捨てたくせに」と言われてしまった深山。妻との関係があまり良さそうではない今出川孝雄(三浦友和)。

小机幸子(広瀬アリス)……は、家族についての言及はなかったが、目下「バー・カサブランカ」のマスター・来島達也(古川雄大)への恋心に脳を支配されているようだ。


毎回、聞いたこともない病気が登場するだけではなく、その患者周辺の人間ドラマも丁寧に描かれ、見応えがある本作。

ただ、2組の患者が同時進行している上に、医師たちの事情も描かれていくため、どれがメインエピソードなのか、若干とっちらかっている感がある。

シリーズ後半には、医師側のエピソードが整理されて、ストーリーがもうちょっと分かりやすくなるといいのだが。
(イラストと文/北村ヂン)

【配信サイト】
TVer
Hulu

「トップナイフ─天才脳外科医の条件─」(日本テレビ)
原作:林宏司『トップナイフ』(河出文庫刊)
脚本:林宏司
音楽:横山克、鈴木真人
主題歌:JUJU 「STAYIN' ALIVE」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
医療監修:新村核、岩出康男、谷川緑野、本田俊哉、松本尚、中村光伸
看護指導:石田喜代美
医療CG:奥山正次(デキサ)、横山敦子(GAIN)
医療担当助監督:竹中修
医療協力:セコメディック病院、第一会若葉クリニック
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:鈴木亜希乃、茂山佳則
演出:大塚恭司、佐久間紀佳、茂山佳則
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ