パワハラは部下にされることも

「これ、前にも教えたよね?何度言ったら分かるんだ!」

パワハラ(パワーハラスメント)と聞くと、立場が上の上司から精神的・身体的苦痛を与えることをイメージする人は多いことだろう。一方で部下から上司へのパワハラも、もちろん存在する。

厚生労働省の指針においても以下の2点について、6月1日から施行された改正労働施策総合推進法で規定する「優越的な関係を背景とした“言動”」に含まれると明記されているのだ。

・同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの。

・同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの。

部下からの集団による行為がパワハラになることも(画像はイメージ)
部下からの集団による行為がパワハラになることも(画像はイメージ)
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しかし、一般的なイメージとしては部下が上司にパワハラをするのはレアケースのようにも思えるが、実際は多かったりするのだろうか? あるとすれば、デジタルに疎い上司が部下から見下されるというようなケースが考えられるものの、具体的にどのようなものなのだろうか?

ハラスメントマネージャーⅠ種などの資格を持ち、多くの労働事件を扱ってきたレイ法律事務所の近藤敬弁護士に話を聞いた。

正当な業務命令をパワハラだと訴える“パワハラ冤罪”が増加

ーー部下からのパワハラ、今は具体的にどういうものが多い?

いわゆる“パワハラ冤罪”や“逆パワハラ”と呼ばれているものです。中間管理職である上司としては正当な範囲内で業務命令をしているのですが、これを部下がパワハラだと訴えるパターンです。この相談がとても増えています。

この場合、現在の風潮として企業は社内のパワハラを厳しく対処しようとする傾向にあります。

すると今度は、パワハラを訴えられた中間管理職が上司に呼び出され、「あなたの部下がこんなこと言っている。パワハラをしたんじゃないか?」などと問い詰められることになり、その手続き自体が新たなパワハラを生むという構造になっているのです。


――いわゆる、部下が上司をいじめるようなパワハラはあまりない?

例えば部下が、パソコン操作に慣れていない上司に「こんなこともできないの?」などと罵声を浴びせるような、みなさんがイメージするような典型的なパワハラは意外と少ないです。

あるとすれば、部下全員から無視をされ、業務に支障が出る状態になったというパワハラですね。

(画像はイメージ)
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コミュニケーション能力が高くない人が“パワハラ冤罪”をする傾向

――そんなパワハラ冤罪をする部下や、される側の上司に特徴はある?

部下の傾向で言うと、コミュニケーション能力があまり高くない人に多いようです。パワハラに関しての知識が豊富な一方、会話が得意でないという印象があります。上司からの些細な言動をパワハラと感じて会社に訴えるのですが、よくよく聞いてみると上司の正当な業務命令や指導という場合が多いです。

職場の中できちんとコミュニケーションが取れているのであれば、ちょっとした冗談を言ったとしても理解してもらえると思いますが、そういう雰囲気がないと発言だけを切り取られて「これはパワハラだ!」となってしまうのではないでしょうか?

一方、相談者で多いのはすごく真面目な人ですが、上司自身の性格などの属性というよりは職場環境の方が大きいと考えています。


――パワハラ冤罪を受けたらどうすればいい?

まずは企業内に設置されているハラスメント相談窓口等に相談するのが良いでしょう。ただし、企業によっては相談窓口が機能していないこともあります。

私が経験した事例では、窓口の担当者が他部署などの第三者ではなく、相談者と同じ部署の同僚や上司ということがありました。この場合は客観的な判断をされる可能性は低くなってしまいます。

もし相談員が、話をきちんと聞いてくれず一方的にパワハラをやったと決めつけてくるようであれば、相談窓口自体が機能しているとはいえず、会社内での解決は困難となります。

このような場合は、直ちに外部の弁護士や専門機関への相談を勧めます。

コミュニケーション能力が高くない人にパワハラ冤罪の傾向も(画像はイメージ)
コミュニケーション能力が高くない人にパワハラ冤罪の傾向も(画像はイメージ)

パワハラ対策は会社全体で取り組むことが重要

――企業としてはどのような対応が重要となる?

社内で警鐘を鳴らしたり、研修をしたりするのも大事です。そもそもパワハラという言葉を知っていても、具体的な中身を知らない人も多い。自分がパワハラだと感じたら全部パワハラとなると思っている人もいますが、実際はそうではありません。

正当な業務上の必要があり、その態様が相当であればパワハラにはなりません。平均的な労働者がパワハラと感じるかどうか客観的に判断をするもので、パワハラという言葉だけがひとり歩きしている印象もあります。


――対策としては、上司だけでなく社員全員に研修を受けさせることが必要?

今回の改正労働施策総合推進法も「労働者もパワハラに対して関心と理解を深めて下さい」という規定があり、管理者だけでなく部下や上司もパワハラについて関心を持ち理解する必要があります。

そのためには研修もそうですが、まずは相談できる部署の設置や対応する人のスキルの向上などを会社全体で取り組むことが重要です。

近藤敬弁護士
近藤敬弁護士

パワハラ冤罪が起きる要因の一つは、上司・部下の持つ固有の性格の問題ではなく職場環境の方が大きいということだった。

企業はこれを理解し、円滑なコミュニケーションが図れる環境を作るとともに、社員全員にパワハラへの理解を深めさせることに努力してほしい。
 

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プライムオンライン編集部
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