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「効率的だからドリブルよりパス」は正解なのか。聖和学園高校、打開力を養うための育成論

東北に徹底してドリブルにこだわる高校サッカーチームがある――。ここ3年、連続で全国の舞台に立っている聖和学園高校(宮城県)だ。2015年度の高校サッカー選手権では、ライバル野洲高を7-1で下し、見るものに衝撃を与えた。しかし、時には「ドリブルしかない」「足先のテクニック」ばかりだと揶揄されることもある。それでも加見成司監督は「個」の育成を重視したスタイルを変えるつもりはない。11月7日発売の『聖和の流儀』では、ドリブルスタイルにこだわる理由や育成論について、さまざまな思いが綴られている。今回は、先んじてその一端を紹介する。(文:加見成司)

text by 加見成司 photo by Shidu Murai

パスの選択を否定しているわけではない

ドリブルにこだわった指導をしている聖和学園高校
ドリブルにこだわった指導をしている聖和学園高校【写真:Shidu Murai】

 もちろん、パスのほうがドリブルよりも効率良く相手の守備を崩せる方法だと考える人もいるかもしれません。

 例えば、パスで守備陣2人のギャップを突けば、相手の守備陣を2人同時にやっつけられます。相手守備陣のギャップを突くパスは普通に練習すればできるようになりますし、選手たちに導入しやすいものであることは確かです。逆に、そこでドリブルで相手2人を抜こうと考えるのならば、徹底してトレーニングしないと難しいと感じるかもしれません。

 守備陣が果敢にボールを奪いに出て来てくれれば、パスだけでも相手2人の守備を突破しやすい側面もあるでしょう。しかし実際には、今はブロックを作ってしっかりと守ってくるなど、色々なディフェンスを試行錯誤して対抗してくるチームがあり、パスだけでは守備陣のギャップを突きづらい状況があるのも事実でしょう。

 相手守備陣が体重を前にかけずに、慎重に構えて1対1の守備をしてくる局面もあります。ですから、こういう状況のときに、パスで崩しづらい相手をどれだけ個で打開できるか。それがとても大事になってくるのです。

 パスを出せるチームはいつでもパスを出せると思います。しかし、パスを出せる状況で敢えてドリブルを仕掛けることによって、色々な選択肢ができ、それにより相手守備陣を困らせることができます。ドリブルで仕掛けることはできず、選択肢としてパスしか無い、というチームは、相手の守備側はパスだけを意識すれば良いので、正直、守りやすいでしょう。

 では、聖和学園ではパスを禁止しているのか。パスを選択肢として否定しているわけではありません。選手個々の判断でパスが良いとなれば決して否定はしません。近い距離を保ち、パスでリズムを変えられるのであれば、それでも良いと思います。

 また、2016年の代のように、ドリブルよりもパスで崩すことが好きな子どもたちが多数集まった年もありました。当然、パスを禁止することはしませんでした。それも選手たちの大事な判断の一つです。選択肢として、ドリブル以外のプレーを否定しているわけではないのです。パスもドリブルも選択肢の一つです。ドリブルを活かすためのパスにする。パスを活かすためのドリブルにする。この考え方も大事でしょう。

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