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中島翔哉、トップ下で無双の要因。ポルト移籍後初ゴール、ようやく見つかった輝ける場所

中島翔哉が本来の輝きを取り戻している。現地19日に行われたポルトガルカップの5回戦に先発起用されると、移籍後初ゴールを決めてポルトを準々決勝進出に導いた。急速にパフォーマンスを上げ、評価を高めている理由とは。苦しみ続けた背番号10は、自由を得て力強く羽ばたき始めた。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

ようやく決まったポルトでの初ゴール

中島翔哉
中島翔哉はポルトで本来の輝きを取り戻し始めた【写真:Getty Images】

 土砂降りの雨でピッチには水が溜まる悪条件の中でも、軽やかに飛び回る背番号10は輝いて見えた。現地19日に行われたタッサ・デ・ポルトガル(ポルトガルカップ)の5回戦、サンタ・クララ戦に先発出場したポルトのMF中島翔哉がチームを勝利に導いた。

 待ちに待った瞬間が訪れたのは29分のことだった。MFルイス・ディアスからのパスを受けたFWゼ・ルイスがペナルティエリア手前で前を向き、相手ディフェンスを釘付けにしながら右に走ったMFヘスス・コロナへ展開する。

 コロナは目の前のDFとの駆け引きを制すと、ゴール前に鋭いラストパスを送った。そこにディフェンスラインの背後から飛び込んだのは、中島だった。背番号10の日本代表は倒れこみながら、自身のポルト加入後初ゴールをねじ込んだ。

 結局、この1点が勝利の決め手となった。大雨でそこら中に水たまりができたピッチでは両チームともポテンシャルを十分に発揮しきれず、ポルトを率いるセルジオ・コンセイソン監督が試合後の記者会見で「後半は正直、ゴールへのシュートを覚えていない」「試合開始前からピッチが後半のような状態だったら間違いなく延期すべきだった」と語った通り、後半は決定的なシーンが明らかに減ってゴールも生まれなかった。

 中島は公式戦2試合連続の先発出場で、トップ下に近い役割を担った。現地16日に行われたポルトガル1部リーグ第14節のトンデラ戦では、2つのゴールに絡んで3-0の快勝に大きく貢献。最近になってポジションが中央に移ったことで、もはや無双に近い状態にある。これほどまでに評価が一変したのは、正直に言って驚きだった。

 シーズン序盤から左サイドを中心に起用されてルイス・ディアスと競争を繰り広げていた中島は、ずっと控え選手の1人にすぎなかった。だいたい後半の途中から、ゴールが欲しい場面や攻撃を活性化したい局面で起用される。出場時間も毎試合10分前後で、短いとはいえ決定的なプレーが少なかったのも事実だ。

加入から半年…いきなり躍動しはじめた理由

 守備での献身性は認められていたが、攻撃になると窮屈そうな動きになり、得意とするドリブルやミドルシュートを披露する回数も少なかった。ポジショニングの悪さから不用意なボールロストを繰り返すことも、コンセイソン監督が先発起用を渋っていた理由の1つだろう。

 パフォーマンスのレベルが格段に向上した背景として、やはりポジションを中央に移したことは見逃せない。これまでのポルトは左右非対称な布陣で動き、右サイドに入るMFオターヴィオが、広範囲に動き回ることで攻撃の組み立てに難のあるセントラルMFコンビをサポートしてゲームメイクを担っていた。

 逆に左サイドはプレーエリアが限定され、中央に入っていこうとするとオターヴィオと動きが被ってしまうこともしばしば。純粋なウィンガータイプのルイス・ディアスは持ち味を発揮しやすかったが、中島はどうしても窮屈そうなプレーになってしまっていた。

 そんな中、キャプテンを務めるMFダニーロ・ペレイラが急速に信頼を失い、トンデラ戦はベンチ外、サンタ・クララ戦はベンチスタートとなる。それによってオターヴィオがセントラルMFへと活躍の場を移し、両サイドにはウィンガータイプの選手が起用されるようになる。2トップの組み合わせも屈強なストライカーを同時起用するのではなく、トップ下に近い役割の選手を1人配置するようになった。

 コンセイソン監督の戦術変更によって、各選手のプレーエリアが再度整理され、トップ下の中島には広く動き回れるスペースができた。守備面での規律はそのままに、中盤と前線をつなぐだけでなく、時にはサイドのサポートにも回る。ある程度の「自由」が確保されたことで背番号10が輝き始めた。

もはや止める術なし。トップ下で無双

 サンタ・クララ戦で決めた初ゴールの場面では、起点となるパスを出したルイス・ディアスが左から中央へ斜めにドリブルを始めたが、中島はその動きを利用してDFの間を抜け、左サイドにポジションを取り直している。視線がポルトの右サイドに向いたことで、逆サイドから走り込んだ中島の動きは相手ディフェンスの視界の外に。裏をかく一連の巧みなポジショニングとゴール前に飛び込む泥臭さが光った。

 トップ下としてのチャンスメイクにも、中島らしさが随所に見られた。序盤の7分、相手の中盤とディフェンスラインの間にポジションを取ってオターヴィオからの縦パスを引き出した中島は、反転して4人に囲まれながらペナルティエリア内まで侵入した。惜しくもシュートはブロックされたが、この一瞬が後々のプレーへの伏線となっていく。

 17分には左センターバックのDFジオゴ・レイチから縦パスを引き出すと、スムーズに反転してすぐにゼ・ルイスへとスルーパスを通し、GKと1対1のビッグチャンスを作り出す。ここで中島は相手ディフェンスラインの手前、かつ4-1-4-1のアンカーの脇、インサイドハーフの背後という絶妙なポジションにフリーの状態でポジションを取ってパスを要求した。両ウィングはアウトサイドに張り出し、相手サイドバックの注意を引いていたことも見逃せない。

 先制ゴールを決めた直後の31分にも中島は決定機を演出した。今度は17分の場面と逆サイドで、相手ディフェンスラインと中盤の間にできたスペースを取り、中央に引いて縦パスを受けたルイス・ディアスからボールを受ける。そして素早く反転して、相手に背後から寄せられながら、右アウトサイドを狙ったコロナにスルーパスを通した。

 中島が反転した瞬間、相手の4バック全員の視線がポルトの背番号10に集中し、その外側から走り込んだコロナはフリーになっていた。シュートは残念ながらGKにセーブされてしまったが、追加点が決まっていてもおかしくない完璧な決定機だった。

ドリブル封印。それでも中島は輝く

 今季3度目のサンタ・クララ戦で、中島は意識的に相手の4-1-4-1の布陣で穴になりうるセンターバック、アンカー、インサイドハーフのちょうど中間のポジションを取っていたように見受けられた。そして無謀にも見えるドリブルでの仕掛けは最小限に、よりシンプルかつ効率的にゴールへと向かうパスを心がけていた。

 プレーの判断が変わると、チーム全体に与える影響力にも変化が出てくる。ようやく秘めていたポテンシャルを存分に披露できる環境が整ったと言えるかもしれない。

 今季のポルトには戦術的柔軟性が豊かな選手が少なく、どちらかと言えば個性の尖ったタレントの集団だ。故に規律でガチガチに固めたサッカーでもある程度結果は出るが、相手の対策も進むので、どこかで限界が見えてくる。コンセイソン監督は、そのたびに選手の組み合わせを少しずつ変えて何とか結果を残してきていた。

 だが、それにも限界はある。そこで選手のプレーエリアを再び整理し、システムや役割を変えることで中島にチャンスが巡ってきた。しかも中島にとっては自分の力を発揮しやすい場所と役割が与えられた。規律正しい集団の中で、どこか異質だった存在が、その周りとは質の異なる才能を活用できるような環境になったのである。

 今までのチームになかった創造性や意外性は、当然相手チームにも警戒されるが、中島がいい形でボールを持ったらもはやファウルで止めるしかないのが現状。特別な才能を持った背番号10は無双に近い状態で躍動している。

 選手の組み合わせ変更と、プレーエリアの整理によって輝きを増す中島は、ポルトがシーズン後半戦も勝利を積み重ねてタイトル獲得を目指す上で重要な存在になっていくだろう。年内に残された22日のタッサ・ダ・リーガ(リーグカップ)のシャベス戦は相手が2部の格下かつ過密日程ということも考慮すれば、出番が訪れるのかは微妙なところだ。

 逆に言えば、今まで主戦場だったチーム内優先度が最も低いリーグカップでベンチスタートになるということが主力定着の証明にもなる。ポルト加入から半年、苦しみ続けた才能がようやく本来のポテンシャルを解放しようとしている。中島は最高の状態で2020年を迎えることになるだろう。

(文:舩木渉)

【了】

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