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マンチェスター・シティ、絶望の未来か否か。CL除外、さらに4部降格なら…まもなく下されるFFPの処分【粕谷秀樹のプレミア一刀両断】

UEFA(欧州サッカー連盟)はマンチェスター・シティがFFP(ファイナンシャルフェアプレー)に抵触したとして、2シーズンのUEFA主催大会の出場禁止と2500万ポンド(約36億円)の罰金が言い渡した。もしこの処分が軽減されなかった場合、ペップ・グアルディオラ監督や選手たちはどのような未来を選ぶのか。とりわけ、選手キャリアの後半に差し掛かった選手たちの動向には注目が集まる。(文:粕谷秀樹)

シリーズ:粕谷秀樹のプレミア一刀両断 text by 粕谷秀樹 photo by Getty Images

現時点ではシティが不利

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【写真:Getty Images】

 UEFA主催の大会から2年間も締め出されるのか、それともお咎めは一切なしか。ファイナンシャル・フェアプレー(以下FFP)に抵触したとされるマンチェスター・シティに対する処分は、6月8日からの3日間で決定する見通しだ。この問題を取り扱うCAS(スポーツ仲裁裁判所)が、新型コロナウイルスの感染拡大でストップしていた審理の再開を明らかにしている。

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「われわれにやましいところはない。すべての証拠書類を取り揃え、潔白であることを証明してみせる」(フアン・ソリアーノ/シティCEO)

 スポンサー収入の水増し請求を疑われているシティだが、強気の構えを崩していない。たしかに怪しい。ただ、同じような金銭の動きでも嫌疑をかけられていないクラブは多々ある。

 また、FFPはミシェル・プラティニ体制下のUEFAが掲げた〈正義の御旗〉だが、エリートといわれるクラブに甘く、新興勢力に厳しい。かつてペナルティーを科されたパリ・サンジェルマン、チェルシー同様、シティもオーナーの経済力でのし上がってきた。

 ちなみにパリSGのナセル・アル・ケライフィ会長がUEFAの執行委員に就任すると、このクラブに関するFFPの話題が突如として報じられなくなった。いったい、どこがフェアプレーなのだろうか。政治的なにおいがプンプンする。スペイン・プロサッカーリーグ機構のハビエル・テバス会長も疑問を呈していた。

「シティを徹底的に取り調べると同時に、アル・ケライフィ会長と彼のクラブも逃がしてはいけない。カネの動きが不自然すぎる」

 とはいえ、現時点でシティは不利だ。ソリアーノが潔白を訴えても2年間の出場停止は避けられない、というのが一般的な見方だ。そしてUEFAが科したペナルティー(2年間の出場停止と36億円の罰金)をCASが受理すれば、プレミアリーグも追随するに違いない。勝点の剥奪や補強禁止、4部へ降格など、いくつかの厳しい処分が噂されている。

「監督や選手に罪はない」

「なにが起きてもシティに残る」

 ジョゼップ・グアルディオラ監督の発言は頼もしかった。サポーターも「監督が残ってくれるのなら大丈夫」と胸を撫でおろしただろう。しかし、UEFA主催の大会から2年間も締め出されると、選手たちの士気は低下する。

「1年なら我慢するけれど、2年は長い」(ケビン・デブライネ)

 偽らざる心境だ。6月28日でデブルイネは29歳になる。悲願のチャンピオンズリーグ優勝に向け、時間を無駄にはできない。35歳のフェルナンジーニョ、32歳のセルヒオ・アグエロ、30歳のカイル・ウォーカーなども、おそらく同様の考え方だろう。やはり2年は長すぎる。移籍、が視野に入ってきた。

 デブライネは引く手数多だ。彼を不要と言い切れるクラブがあるとしたら、捏造と偏向と煽りが横行する日本のワイドショーよりも見識が浅い。アグエロとウォーカーも、1年契約であればビッグクラブが触手を伸ばすかもしれない。フェルナンジーニョが祖国ブラジルに戻ったとしても不思議ではなく、ダビド・シルバは今シーズン限りで退団することが決定している。

 カブリエウ・ジェズスはアグエロの後を任せられるまでには成長していない。シルバが「私の後継者」と高く評価するフィル・フォデンは存在感が薄くなってきた。ジョン・ストーンズは軽率なチャンレンジや判断ミスが目立ち、グアルディオラ監督の信頼をすっかり損ねてしまった。

 前述した主力が移籍した場合、現有勢力でやり繰りするのは難しい。強化に関してはペナルティーを科されず、オーナー企業のADUG(アブダビ・ユナイテッド・グループ)が莫大な投資を約束しても、UEFAが見張っている。リスク満載の補強プランは慎まなければならない。

「監督や選手に罪はない。彼らが犠牲になるようなペナルティーだけは避けてほしい」

 宿敵を慮るリバプールのユルゲン・クロップ監督のこの言葉が正義のようにも感じられる。実際、グアルディオラ監督と選手たちに罪はなく、くどいようだがシティ以外にもFFPに違反しているクラブはいくつもある。しかもUEFAは、ハッキングによって不正の証拠をつかんだ人間の情報に基づき、シティを訴えている。ハッキングも不正ではないか。

「われわれが提示した証拠書類よりも、UEFAは盗み取られたEメールを信用した」

 ソリアーノCEOが怒りを露わにしたように、UEFAの調査方法には首を傾げざるをえない。

再提訴も辞さない姿勢

 それでも処罰の撤回はありえない、という。シティがFFPに抵触したのは、14年に続き2回目。いわゆる再犯だ。CASも「反省していない」と判断し、UEFAが科した条件(先述)がすべて通る可能性は決して低くないようだ。シティにすれば「われわれは潔白で、グレーゾーンはすべてのクラブにある」と主張し、処分の撤回ではなく軽減を求めるしかないだろう。1年間の出場停止と3000万ユーロ(約36億円)の罰金で済めば御の字である。

 本稿執筆時点でグアルディオラ監督は残留の姿勢を崩していない。しかし、現行の契約は2021年6月30日までだ。チャンピオンズリーグの扉を閉ざされた場合は退団も考えられ、彼を慕うベルナルド・シウバ、ラヒーム・スターリングの心にもさざ波が立ちはじめる。

「ボスが辞めるのなら俺も……」

 圧倒的な経済力によってヨーロッパのトップに登りつめようとしていたシティが、そのストロングポイントでみずからの首を絞めた。6月上旬、CASはどのような処分を下すのだろうか。グアルディオラ監督は、デブルイネは、スターリングはどのような進路を選択するのだろうか。

 なお、シティはCASへの提訴を「公平を求める第一手段」としている。不利な判決が下された場合は、さまざまな法律に順じてスイス最高裁判所(最上級の司法機関)への再提訴も辞さない構えだ。早期決着を目論むUEFAだが、問題解決までに長い時間を要するかもしれない。

(文:粕谷秀樹)

【了】

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