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2017.11.14

新たなVCの形? 仏発「コミュニティ型VC」の姿

ジェリー・ヤン、Hardware Club ゼネラル・パートナー(写真=小田駿一)

欧米中日でコミュニティを形成するハードウェア特化型ベンチャーキャピタル「ハードウェアクラブ」は、新ファンドを約31億円でファーストクロージングしたがその狙いは。


ハードウェアクラブは2015年1月、仏パリを本拠として始動。17年7月までの2年半、コミュニティへの加盟申し込みは3000社を超え、審査を通過した30カ国260社が会員企業となっている。さらに、その内の10社─、自走プロジェクターのKeeckerやインスタントカメラのPryntなどへハードウェアクラブは投資してきた。

同ゼネラル・パートナーのジェリー・ヤンは「今後は年間3000社をレビューして、毎年200社にコミュニティへ参加していただく予定です。仏スタートアップにポジティブな雰囲気が広がっていることも、シリコンバレーをはじめ、他国・地域との共同投資をしていくうえでのアドバンテージです」と話す。

アイデアからプロトタイプまでを支援する一般的なハードウェア系アクセラレータに対し、ハードウェアクラブではすでにプロトタイプをもつスタートアップへの製造・流通支援を手がける。製造面では、鴻海精密工業をはじめとした60社以上の製造業者とパートナーシップ契約を結んだ。ハードウェアクラブから量産体制に入る前の優れたスタートアップだけが紹介されるので、製造業者側のメリットも大きい。

一方の流通面では、アマゾンなど55社以上の流通業者とパートナーシップ関係を構築。欧米中日の市場に関心を抱くスタートアップは、ワンステップで切り込める。このほか、例えば16年11月の英国ロンドンにおいては、ハードウェアクラブが自らポップアップストアを英国老舗百貨店ハロッズで手がけ、厳選したスタートアップ25社の商品を販売している。

「スタートアップのアップルストアという目線です。ストアに行けば面白いベンチャーの商品をスタッフが親切に説明してくれる、という確固たるブランドを構築したい。他のアクセラレータに対し、我々は逆のアプローチ。全世界に体験式のストアも展開し、長期的にスタートアップの売り上げへ貢献していきたい」

17年6月、ハードウェアクラブは新ファンド『Hardware Club Fund I─』を約31億円(2500万ユーロ)でファーストクロージングした。大手LPとして、台湾の鴻海精密工業、日本ミスルトウ、仏Bpifrance、仏大手保険会社 Credit Mutuel Arkeaなどが出資している。

「なぜ大手保険会社が出資したかというと、彼らがもつ環境や人間のデータと、ハードウェアスタートアップの医療系センサーを組み合わせた、オープンイノベーションに期待しているからです。今回、日本の方々にLPとして参画いただきました。我々はこのファンドで、日本の大企業やベンチャーを巻き込んだオープンイノベーションを手がけたいと考えています」


ジェリー・ヤン◎Hardware Club ゼネラル・パートナー。起業家としての4年間を含み、10年以上アナログIC設計エンジニアとして台湾・シリコンバレーで勤務。渡仏しベンチャー投資に転じたのち、2015年1月より現職。台湾・高雄市出身。

文=土橋克寿

この記事は 「Forbes JAPAN No.40 2017年11月号(2017/09/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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