先日、人間ドックで胃カメラ検査を受けたところ、胃と食道の接合部が軽度の「バレット食道」になっていると言われました。毎年様子を見ていればよいとのことでしたが、食道がんのリスクが高まるという情報もあり少々心配です。胸焼けなどの症状は特にありません。バレット食道の治療法や生活上の注意点などあれば教えてください。(福井県福井市、40歳男性)

 【お答えします】渡邊弘之・福井県済生会病院内視鏡センター長

 ■3センチ超える症例や異型性は定期観察必要

 バレット粘膜は、胃から連続的に食道に延びる円柱上皮化生であり、バレット粘膜を有する食道を「バレット食道(BE)」といいます。胃食道逆流症(GERD)により、炎症と修復を繰り返すことにより、扁平上皮から、食物の消化吸収が役割の酸環境に適した円柱上皮に置換された状態と考えられています。

 名称については、1950年に英国の胸部外科医バレットにより、下部食道が円柱上皮で覆われた食道潰瘍症例を報告したことに由来します。

 日本のBE基準では、円柱上皮化粘膜の全周性の部分が3センチ以下のものをショートセグメントバレット食道(SSBE)、3センチを超えるとロングセグメントバレット食道(LSBE)と定義されています。発がんリスクが明らかなのは、腸上皮化生をもつLSBEのみであり、欧米でLSBEの年間の発がんリスクは0・4%と報告されています。

 日本での食道腺がんの頻度は食道悪性腫瘍全体の1~3%と極めて低く、また食道腺がんの95%はBEの既往がないとされています。従って定期的な経過観察が必要と考えられるのは、LSBE症例や生検で異型性を認めた症例のみです。

 日本でも食生活の欧米化や肥満の増加、ピロリ菌感染率の自然低下や除菌率の普及などの時代背景の変遷により、胸やけ、喉のつかえ感、心窩部痛などのGERD症状の患者が増加しています。生活習慣病予防も含めた肥満防止やプロトンポンプ阻害薬の内服によるGERD治療は、BEやバレット食道腺がん(BEA)の予防に期待されます。

 ■バレット食道腺がん、国内ではまれ 

 欧米では、BEからの腺がんの発生率が高いことから、発がん母地であるBEに対する内視鏡治療として、食道粘膜焼灼術が行われています。一方、日本ではBEAの頻度が極めて低く、BEに対する積極的な治療は疑問視されています。

 日本では、BEA治療として、深達度が粘膜固有層までの早期がんならば、内視鏡下粘膜切除術(EMR)や粘膜下層剥離術(ESD)をします。粘膜下層深部浸潤以深例や脈管侵襲陽性例など転移が強く疑われる病変には、リンパ節郭清を伴う根治手術が一般的です。