AMDとNVIDIAの熾烈なグラボ戦争、劣勢のAMDから起死回生の一石が投じられそう!
NVIDIAのライバル企業であったATIを買収したAMDでしたが、ここのところGPU競争に負け通しです。コンサルティング企業のJon Peddie Researchによると、NVIDIAは2016年の終わりまで、ビデオカードのシェアで70%以上を占めていました。AMDは遠く及ばず、シェアは29%...。どうにか一発逆転の一手を投じたいAMDは、9000円で買えちゃうRadeon RX 550といったコスパ重視の低価格カードに重点を置くことにしました。
しかし今回、AMDの発表したVegaシリーズは、6万5千円ほどするNVIDIAのハイエンド・ビデオカード、GTX 1080のシェアを奪還する事を目指して開発されました。しかしVegaがCESで発表されたときの注目度はそれほど高くはありませんでした。NVIDIAが最新のGPU開発に数百億円も費やしていると発表した時のような、人々を惹きつけるネタがAMDにはなかったのです。AMDのアドバンテージといえば、「夏には発表するよ」という早さくらいのものでした。
8か月の時を経て、Vegaシリーズは約束通りやってきました。Vega 64は500ドル(約5万4千円)、下位モデルのVega 56は400ドル(約4万4千円)という価格設定。両方ともメモリは8GBで、両者の大きな違いといえばcompute units(CPUでいうところのコアみたいなもの)の数です。Vega 64は64基、Vega 56は56基搭載しています。
VegaシリーズとGTX 1080を比較しても、期待していたような差異はなく、状況によってはVega 64のほうが1080よりも速いかなーくらいのものでした。車で例えるならホンダのシビックとトヨタのカローラ。両方とも同じくらいの値段で良く、ヤバいとこまで似てるんです。
本当に驚いたのは、Vega 56のパフォーマンスがえらいこっちゃなんです。64や1080よりもけっこう安価にもかかわらず、『オーバーウォッチ』や『シヴィライゼーション VI』の動作はわずかばかり遅い程度のものでした。『オーバーウォッチ』を最高画質でプレイした時のfps(秒間フレーム数)は1080が112、64で114、56は99と、2万円も安いなんて信じられない結果! 『シヴィライゼーション VI』にいたってはその差はさらに縮まり、1080や64と1.5フレームしか変わりません。
さらに衝撃的なことが、Blenderで起きてしまいました。Blenderは3DCGを作るアプリで、以前自分の身分証明証の写真をBlenderで作ちゃったアーティストがいました...。なんとこのBlenderの処理速度では、1080よりも56の方が速かったのです! 1080で9分34秒かかったフレームが64では9分28秒、56では9分29秒でした。あえて56ではなく1080や64を買う理由はないんじゃ?
とはいえGPUも車もスピードだけで判断するものじゃないですよね。いくら速い車だって燃費が悪いんじゃ考えもので、GPUも同じです。1080は180Wで動作するのに対し、56は210W、64は295Wも必要になります。その結果1080は8ピンコネクタ一つであるのに対し、Vegaは両方とも二つ必要となっています。
Vegaシリーズはこの電源の問題解決に複数のソフトウェアを用いました。一つ目の、もっとも注目すべきソフトが、Radeon Chill! Radeon Chillは動作に応じてフレームレートを調整する機能です。つまり、プレイヤーが操作しないときはフレームレートを抑え、電力効率の向上・温度の低減を実現するのです。またRadeon Chillではfpsの上限と下限を調整する機能も付いています。他にも消費電力を150Wに抑える省電力モードや、fpsを制限するFRTC(フレームレート・ターゲット・コントロール)といった対策が用意されています。
Vegaシリーズの性能は十分に満足できる性能であり、AMDらしいコスパの良いGPUという印象です。でもNVIDIA信者たちを振り向かせるほどのGPUかと問われれば難しいところ...。1万円も安いと捉えるか、1万円しか変わらないと考えるかですねぇ。
Image & Photo: Aran Cranz via Gizmodo
Alex Cranz - Gizmodo US [原文]
(瀧川丈太朗)