コロナパンデミックで映画会社と映画館業界にバトル勃発

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コロナパンデミックで映画会社と映画館業界にバトル勃発
Image: shutterstock

新型コロナウイルスで需要の高まるものがある一方で、トドメを刺される業界も。

映画を見るなら映画館派? お家派? どちらもそれぞれに魅力があり、長年の論争に終わりが来ることはありません。いや、ないと思っていたけど、にわかに論争の着地点が見えてきました。最近はお家派が優勢になりつつあるのです。その理由は、世界をパンデミックに陥れた新型コロナウイルス。

映画館をすっとばすという特権が映画スタジオに与えられた

アメリカ最大の映画館チェーンのAMCと映画製作大手のユニバーサルピクチャーズは、映画館での公開とストリーミング配信で常にもめてきましたが、新型コロナ勃発で、はからずも映画スタジオ側に映画館をすっとばすという特権が与えられてしまいました。これは映画のあり方を永遠に変えるかも。

ここ5年ほど、Netflixの存在によって、大手映画スタジオはストリーミング配信業界を無視できなくなってきました。今やユーザーは数回クリックすれば、お家でハイクオリティなコンテンツを見ることができる時代です。そこで、映画スタジオもオリジナルコンテンツを配信すべく自社サービスを立ち上げています。

一方、映画館は通常、映画スタジオと一定期間映画館のみで公開するという契約を結んだ上で営業しています。DVDや配信がスタートするまでの数ヶ月が待てない、すぐ見たいという人は、とにかく映画館に足を運ばなくてはいけません。しかし今、コロナパンデミックによりその流れは一変。映画スタジオは、映画館をすっ飛ばして配信サービスで消費者にコンテンツを直で提供=POVD配信しています。もちろん、数ヶ月待つことなく配信するので、ちょっとお高い価格で提供できます。これは、新型コロナによる映画館閉鎖が長引けば長引くほど、映画館業界は窮地に追い込まれるということ。

表面上はお互いの関係性を維持してきた

しかし、正直なところ映画館ビジネスの終わりは驚く話ではありません。たとえば、ディズニーがHuluの筆頭株主になるなど、垂直型統合は近年進んでいます。権利交渉コストや、映画館での上映料や権利などさまざまな交渉ごとにコストをかけるよりも、利益を分配することなく全部自分で決めて全部自分で総取りできたら最高でしょう。しかし、Apple(アップル)、Netflix、ディズニー、NBCUniversalなどが統合を進めてはいるものの、どの企業もそれはあくまでビジネス戦略のひとつにすぎず、映画館で映画を公開するという姿勢をとっています。映画館側も、配信サービスを統合していく企業の存在は、別に脅威ではないしというスタンス。映画館でのチケット売り上げが少しずつ落ちているにもかかわらず、長年、お互いは敵ではないという立ち位置を守ってきました。顔に営業用の偽スマイルをはりつけて、お互いの関係性を維持してきました。

そんなお互いの努力(?)をぶっ壊したのが、コロナパンデミックです。

新型コロナの影響で映画鑑賞スタイルが大きく変わった

新型コロナが映画館ビジネスを直撃するのを横目に、映画スタジオは独自配信で売り上げを得ることにしたのです。そうでもしないと、映画がお蔵入りしてしまう可能性もあるわけで。2ヶ月前、外出自粛・禁止になる前、少なくとも私は、家で映画を見るのに20ドル払うなんて考えられませんでした。映画館でコーラとポップコーンつまみながら、またはビールを飲みながら見てこそ! と思っていました。それが今、非日常の今、新しい映画を家でレンタルするという、ちょっと前なら考えもしなかったことを実践しています。そして、きっとそれは私だけじゃないはず。

トロールズ ミュージック☆パワー』は、コロナ禍で映画館公開をすっ飛ばして配信され、大成功を収めました。映画を手掛けたNBCUniversalのJeff Shell氏は、Wall Street Journal紙(WSJ)のインタビューにて「期待を大きく上回った。PVOD配信はいけると証明してみせた」と答えています。WSJによれば、『トロールズ ミュージック☆パワー』のレンタル開始3週間での売り上げは9500万ドル。これは、シリーズ1作目『トロールズ』の公開5ヶ月の興行収入よりも多いのです。Shell氏はこう付け加えています。

映画館が営業再開したら、映画館とPVOD配信の両方で作品を公開していきたい

映画会社 vs 映画館の抗争勃発!

Shell氏のこの発言は映画館業界にとって爆弾となりました。AMC Entertainmentの社長とAdam Aron CEOは、ユニバーサルスタジオのDonna Langley会長あてに「ユニバーサルの映画は今後うちの劇場では上映しない!」と激怒の手紙を公開。また、手紙ではユニバーサルに限らず、その他の映画会社も映画館スルーしたら同じ処置をすると宣言しています。

これには、劇場所有者協会(NATO)が、ユニバーサルは劇場スルーの理由にコロナパンデミックを利用すべきではないと仲裁に入りました。また、アメリカで第2の映画館チェーンRegal Entertainmetが、当然ですがAMC側につき「映画館オンリーの公開期間を尊重しない映画は上映しない。経済的にも利点はない」とユニバーサルを批判しています。

映画というビジネスは映画館ありきではない

コロナ規制が緩和されはじめ、映画館も段階的に営業再開するでしょう。感染防止のため劇場の席数を減らすなどの対応が求められ、再開後も売り上げが即座に戻ってくるわけではありません。何よりも、コロナ前とコロナ後では世界が、人々の感覚が変わってしまうでしょう。その新しい世界で、映画館の最大のライバルがPVOD配信となる可能性は十分にあります。もしかしたら、ユニバーサルが態度を改め映画館に詫びを入れて今まで通りなんてことになり、映画館という業界を守ろうという流れになるかもしれません。

ただ忘れてはいけないのは、映画というビジネスは映画館ありきではないということ。最大の存在は映画そのもの、コンテンツにあるのです。とすれば、PVOD配信に強気になれる。コロナパンデミックは、映画会社にとって便利な免罪符、映画館業界にとっては長期的悪夢のきっかけとなるのです。