インターネットアート vs アートの世界

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  • author Whitney Kimball - Gizmodo US
  • [原文]
  • Rina Fukazu
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インターネットアート vs アートの世界
Gif: Anthony Antonellis (putitonapedestal.com)

アートとマーケットと…。

インターネットアートに注目してきた米Gizmodoでは、これまでにもスーパーマリオの雲のほか、ネットアーティストたちのインスピレーション、それからニューメディアアーティストとして知られるJeremy Baileyや、動画アーティスト/ディレクターのPeter Burrへの取材内容を紹介してきました。

今回のインタビュイーは、ネットアーティストAnthony Antonelliさん。ネットアートがひとつのアートのかたちとして認められるまで、さまざまな逆境があったことについて語っています。

アートと市場の問題

トップ画像は、初期のウェブサイトputitonapedestal.comを使った一例。アイコンをギャラリースペースに移動させると、GIFを配置することができるようになっています。

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Gif: Anthony Antonellis (Document)

いっぽう、上のGIF画像は「Document」という作品。これを実演すると、インク切れするまでカラフルな用紙がプリントされ、見込み客のコレクターがお金を使うように強いるという皮肉的なものなのだとか。同氏は次のように説明しています。

消費者向けインクジェットインクの平均コストは3,800ユーロ/リットルで、世界で最も価値のある物質の1つだといえます。 8リットル相当のカートリッジインクは、2012年のアウディA4と同じ額になります。

「Document」が発表されたのは、エドヴァルド・ムンクの「叫び」がオークション史上最高額の約1億2千万ドルで落札されたのと同じ年のこと。富裕層の人たちによる、資産の蓄え場所としてアートが利用されることについて物議を起こしたのもこの頃です。

Antonelliさんは、100ドル札のデジタル偽造ができる「#MONEYBRICK」、Facebookで人気を噛みしめたい人が無限にクリックできる「bliss」ボタン、「Power Balance」ブレスレット付き"インフューズド"ボトル「Poland Spring」、壮大な映像にナレーションがついたエイリアンの物語「Closer.mp4」などを発表。

Closer.mp4 from Anthony Antonellis on Vimeo.

Antonelliさんは、ネットアートについて認めてもらうために、若かりし頃から奮闘したことについて次のように振り返っています。

「有益かどうか」を判断された学生時代

インターネットアートの世界に入る前は、フォーマルな新しいメディアの探求でない限り、デジタルテクノロジーとファインアートを混在させることはできないと思っていました。

90年代の子供の頃は、プログラミング、ウェブデザイン、GIFやアートワークを作るのにハマっていました。高校時代には、アーティストの友達と一緒に校内でアートクラブを設立したりして。クラブの資金調達をしようとするなかで、アニメーションGIFポスターを作って学生を呼び込もうとしたのですが、ウェブサイトに掲載することは許されず、「有益なキャリアパス」がある学生クラブのみ宣伝すると告げられたんです。

大学でも、改ざんの可能性があるため、ポートフォリオにデジタル画像を含めることはできないとのことでした。ペインティングの教授は、デジタル作品で著者や帰属を証明する方法はないと言い切ったのを覚えています。私はSCADにコンピューターアートの専攻で入学しましたが、コンピューターアートのクラスは1つも履修していません。すべては、ピクサーのアニメーターを送り出すこと、またはスポーツ番組のグラフィックを作成することに向けられていたからです。

パブリックアートを勉強していた大学院まで、大きく前進したことはありませんでした。それから本当にうんざりしていたのは、Google アートプロジェクトのサイトやほぼすべての美術館のウェブサイトなど、オンラインでの作品の表示に広く使われているフォーマットで、フラットで動かず、悲しい美術館の壁のレクリエーションだったこと。

論文アドバイザーには、インターネットが仕事を経験するための有益な媒体であると説得するために何度も話をしたものです。


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Gif: Anthony Antonellis (Poland Spring Power Balance)

逆境を乗り越える

古き良き頃のGoogle+で、GIFを使ってコミュニケーションをとることから始めました。そこでLorna Millsをはじめ多くの素晴らしいアーティストとも出会いました。

当時は大きなGli.tc/hムーブメントがあって、Rosa Menkman、Jon Satrom、Nick Brizは大きな影響を持っていました。Glitchは、テクノロジーがどのように機能するかをよりよく理解するための手段として、テクノロジーの誤動作を利用、公開、採用することを目的としていました。そのため意図された目的を無視したり、間違った目的で使ったりすると第四の壁を破ることになります。

最初のアーティストグループにオフラインで会ったのは、キュレーターがインターネットカフェのすべてのステーションを借りて、各コンピューターにさまざまなアートワークを表示する展示会であるAram Barthollのインターネットカフェ「Speed Shows」のひとつに参加したときのこと。カフェではビールやアルコール類も売られていたので特に人気があり、ギャラリーのオープニングのような状態にもできます。putitonapedestal.comもそのひとつでした。それは、「GIFを向上させる唯一の方法は、関係機関が見慣れているものを見せる」というアイデアでした。

私は、2011年からインターネットの展示データをnetartnet.netにアーカイブするようになりました。ただ、関係機関は多くのネットアーティストや新しいメディアアーティストへのアクセスを制限し始めました。netartnet.netを消すように伝達されたことも。

putitonapedestal.comを立ち上げてからは、自分で視聴回数が確認できたり、視聴者と交流することができたりするようになりました。ギャラリーに絵画を置かせてもらってもやり取りできるのはその場にいるあいだのみ。展覧会を通じて私の作品を見たのは、数百人ほどかもしれません。オンラインでは、すべてのWebトラフィックが表示されます。サーバーがオフラインになるほど多くの人が来てくれることも。

その後、もっとインターネットにフォーカスするようになりました。かつてと同じ方向、されど新たなオーディエンスとエンゲージメントとともに。

私は、学部を卒業してすぐに素晴らしいギャラリーで働き、素晴らしい作品や展覧会に参加することができました。しかし、それと同時にその裏側にあったキャッシュやブローカーなど、アーティストとして目にするべきではないけれどギャラリーアーティストを目指すなかでおそらく知っておくべき世界も目の当たりにしました。それは考えるほど腹が立つもので、「アートの世界」は、アーティストやオーディエンスのためではなく、単にアートマーケットのようだと思いました。ミュージアムやギャラリーにとってはサバイバル術か何かなのかもしれません。でも、見返りが得られない作品には興味がないと言われているような感じがありました。それは、ゆっくりとした着実な道のりなのかもしれません。コレクターもミュージアムも学者も安全な道を好み、リスクを抱えようとしません。

過去10年ほどで、これまでのムーブメントやアートワークは認められつつあると思います。ネットアートは美術学校のカリキュラムでも議論されており、特殊なコースに限定されたものでもなくなっています。徐々に、美術教育の他の領域(高校など)にも流れ込んでいくはずです。そして、若きアーティストたちがネットアートの有効性について議論しなければいけないこともなくなり、あらゆる機会に恵まれることを願っています。