ポジションは、スクラムで相手に力勝負を挑むフッカー。こわもて!?と思いきや、チャームポイントは「笑顔」という日野剛志選手。その笑顔は、フランスの海外研修のコミュニケーションでも役に立ったそう。そして、外国人選手との仲をグッと縮めてくれたのが『SUSHI』と『SAMURAI』とのこと。フッカーになるまでの歩み、フランスで経験したこと、そして意外な趣味を笑顔たっぷりで語ってくれました。

―フッカーにポジションを変えていなかったらラグビーを続けていなかった
4歳からラグビーを始めて、中学2年生までずっとバックス一筋だったんです。スタンドオフ、スクラムハーフを主に務めていました。でも、小さい頃から体型はぽっちゃりしていたので自分のバックスのスキルにだんだん限界を感じて……。中学3年の時に「フッカーになります」と自分からコーチに言って変更してもらいました。当時、チーム内にいいバックスの選手がいたので、任せようって安心感もあったのかな……。

高校の部活動に所属するようになってから、本格的なフッカーをやり始めました。バックスとはやることが180度違います。バックスに使われたり、支えたりする側になりました。やってみて自分には合っていると感じたので、それからずっとフッカーをしています。

ここまでラグビーを続けてこられたのも、バックスにこだわらずに自分の力が発揮できそうな場所を冷静に判断して、ポジションを変更できたことが大きかった。今思うと、バックスのままだったら1億%の確率でラグビーを続けてなかった。しかも人から言われたのではなく、自分から進んで選んだ道でもあったので頑張れたのだと思います。

―フッカーが自分に合っていると思う理由は
フッカーは、簡単に言えば仲間のために体を張ることが仕事です。僕は我慢強くない方だから、自分のためにはあまり頑張れないタイプ。個人競技だったら、「痛い」とか「キツイ」と感じたら、すぐ諦めちゃうと思うんです。

でもラグビーはそうじゃない。チームプレーだから、自分1人がしんどいからキツイからって逃げると他の14人に迷惑がかかる。これが試合だったら結果として負けてしまうじゃないですか。だから仲間のためにタックルをしたり、スクラムをまとめたりして体を張ってます。

自分がラグビーをやる上での達成感は、15分の1の役割を果たせて、周りの選手のためにこそ頑張り、勝利をつかみとって充実感を得ること。それがいちばんグッときます。勝った後にチームメイトやスタッフ、試合に関わった人たち全員と感謝し合う時間もすごく好きです。分かち合える人数が多いと、喜びもその分大きくなりますから。

―昨年は海外研修として、フランスの強豪・トゥールーズに3カ月半加入。
昨年の8月から約3カ月間、人材交流の一環でプレーしました。フランスでは、毎試合スタジアムが超満員状態なんです。そしてほぼ90%がホームチームのファンなので、ホームの試合でミスをするとブーイングの嵐ですが、いいプレーをすれば褒めたたえられます。華やかな分、厳しい世界だなと感じました。

フランスで日本人がプレーをするのは珍しかったみたいで、街中で握手や写真を求められたり、車のクラクションを鳴らして「(フランスはHを発音しないので)イノ、イノ!」「ジャポーン!」とよく声を掛けられたりしました。スタジアムでの熱量がものすごいのも驚きましたが、ラグビー選手としても愛されてるなって実感することもできましたね。

―フランスでのコミュニケーション方法は
通訳がいなかったので、簡単な英語で会話をしてました。フランス語の授業も受けさせてもらっていたので、あいさつや簡単な言葉はなるべくフランス語を使うようにしてました。

日本人はマジメでシャイなイメージがあるらしく、自分から話し掛けないと向こうもあまり相手にしてくれません。なので自分からなるべくコミュニケーションを取って、「SUSHI!」や「SAMURAI!」「SUMOU!」など知っていそうな単語を毎日言いまくってました(笑)。

外国人の知っている日本文化をどんどん使って、とにかくそれで明るいやつだと思われるようにしたんです。そして、笑顔も絶やさない。それらを心掛けるだけで拙い英語やフランス語でも会話ができて、プレー面でも問題なく意思疎通ができました。

そして、なんといっても「SUSHI」の偉大さを知りました!(笑) すしは外国人のほとんどが好きだったので反応がよかったですし、練習後に「締めてくれ」と言われたので、掛け声で「SUSHI!」と言うとめちゃくちゃウケてくれました。
ある試合の後も、円陣の真ん中に立って何か掛け声をしろと言われたので、手拍子と刀を振る動作に「SAMURAI」という掛け声をつけて、それをまねするように伝えたんです。選手全員がまねしてくれて、スタジアムも盛り上がってくれて本当にうれしかったです。僕のツイッターの一番上に表示されているので、見ていただけると盛り上がりが伝わると思います(笑)。

―フランスへ行って変わったことは
受け身だった性格も大きく変わって、もう一人の自分が出てきたような感じでした。フランスでは自分の意見をハッキリ言わないと物事も進まないし、僕のことも相手に知ってもらえないので、思ったことはしっかり伝えて自分からガンガン行けるようになりました。

その地で生きて行くために、“オープンにならないといけない”っていう感情が出て、日本では絶対やらないような行動なども積極的にできてしまうんです。新しい自分を見た気がします(笑)。

プレー面では、外国人選手に対しての苦手意識がなくなりました。フランスでは全員が外国人選手なので、苦手と思っていられない(笑)。以前日本でプレーをしていた時は、外国人だからって警戒心を持ったり、“やりづらいかも…”みたいな苦手意識を持っていたりしたんです。だけど“みんなラグビー選手だ”っていう気持ちに変わりました。当たり前のことなんですけどね。

―海外研修をしてからこそわかる“外国人”という環境
フランスから帰国して、チームにいる外国人への接し方も変わりました。文化も言葉も環境も違う中で、僕もチームメートから話しかけられるとすごくうれしかったので、特に新加入の選手には自分から話し掛けてあげたいと思ってます。誰かが少しでも気に掛けるだけで、その人はふさぎこまずにオープンになれると思うので。

また、グランド外でも普段からこまめにコミュニケーションをとっているとグラウンド内でも意思の疎通ができやすくなります。お互い気を使わずにバッと言えるような関係がベストなのは日本人同士でも同じことですよね。

僕は3カ月半という短い期間の研修だったので、フランスではこれからっていうときに帰国してしまったのが残念でした……。でもとてもいい経験ができたので、行ってよかったと心から思っています。トゥールーズの選手の何人かとは今でもSNSなどでつながってるので、たまにメッセージのやり取りをしています。

―オフの過ごし方は意外にもサーフィン!?
ラグビーのシーズンが始まる前は、夏でも冬でもたまにサーフィンをしに行くことがあります。チームのクラブハウスから海が近いので、サーフィンをやっている先輩に影響されて興味を持ったんです。ここ1〜2年、気分転換にヒューって感じで波に乗ってますよ(笑)。

サーフィンってすごく体幹を使うのでバランス感覚がよくなると思うし、水をかいて進むので肩も強くなって、ラグビーにもいい運動だと思ってます。夏に行く時は腹筋も頑張ります。ぽちゃっとしたおなかのままだとやっぱり恥ずかしいので、ラグビーとサーフィン兼用の腹筋になるよう引き締めて行ってます(笑)。

オフの朝も気分転換の時間です。ゆっくり起きて、コーヒー豆をひいて、自分でドリップする……。この余裕のある時間の使い方と、コーヒーの香りをかいでリラックスしている瞬間が好きです。いつもはインスタントだったり、カフェで買ったりしてるので、ぜいたくな時間を過ごせているなと感じられます。

―最後に、日野選手的、ラグビーの観戦ポイントを教えてください
ルールにこだわらずに、タックルなどのボールを持ったコンタクトもそうですしスクラムを組むところなど、いろんな局面での身体がぶつかり合う音を聞いてみてください! テレビは試合全体を見られる良さがありますが、身体同士がぶつかり合う音は生観戦でしか体験できないポイントです。観戦に来てくれた会社の人にも「ガンガンぶつかる音がすごかった」と言われたことがあります。

実際にプレーやってる僕らはあまり聞こえていないんですけどね。アドレナリンが出て気持ちがハイになってるんだと思います。でも、人の試合を見てると痛そうに感じる。「うわ〜、よくあんなに激しく行くな〜」って(笑)。そんな感じで楽しんでもらえたらうれしいです!

日野剛志(ひの・たけし)1990年1月20日生まれ、福岡県出身。ポジション: フッカー(HO)、172cm/100kg。4歳の頃、幼稚園の友達(井手くん)に誘われ、中学までラグビースクールに所属。筑紫高校を経て、同志社大学に進学。卒業後の2012年よりヤマハ発動機ジュビロに所属。17年スーパーラグビーのサンウルブズで出場。2016-17 ベストフィフティーン受賞。日本A、日本代表 に選出経験あり。