開口一番「インタビューは日本語でお願いします!」と宣言したトンガ出身のファウルア・マキシ選手。流ちょうかつ丁寧な日本語に取材スタッフ一同、大感動! そんな彼をラグビーの道へと導いた父はトンガ代表としても活躍した名選手。「父を超える選手になれた」と胸を張れるまでに乗り越えてきた試練とは?

―名選手だった父の死が、僕のラグビー観を変えた
ラグビーを始めたのは7歳。トンガ代表としてプレー経験を持つ父の影響でした。正直言うと、当時はラグビーが嫌いだった(笑)。まだ体が小さかったこともあり、体当たりをするととにかく痛くて。よく弱音を吐いては父から「しっかりしろ!」と怒られていました。

賢い兄に比べて僕は勉強が苦手だったので、なんとなく義務感からラグビーを続けていたんです。そんな僕の気持ちが変わったのが、11歳の時。きっかけは最愛の父の死でした。天国へ行った父のために僕は何ができるだろう?と考えて出た答えは、父がこよなく愛したラグビーを極めることだった。

僕たち家族にとって良き父であると同時に、親戚や村の人々にとっての誇りでもあった。皆の「お父さんのような選手になって」という期待と応援を活力に、ここまでやってきました。父は、 きっと誇らしげに見守ってくれているはず。あ、でも悔しさもあるかな? だって今の僕は、現役時代の父 よりも絶対に強いから!(笑)

―成長したいなら、居心地の良さに甘えていてはだめ!
日本の高校と大学で学べたことを今でこそ心からありがたく感じていますが、来日して1年目はただただしんどかった(苦笑)。のんびりとしたトンガから突然、超スパルタの環境に入ったので……。言葉もまったくわからず毎日ホームシックを感じていた僕をサポートして導いてくれたのが、同じトンガから留学していた先輩でした。

そんな先輩がくれたアドバイスは「どんなに寂しくても、同郷の仲間とは距離を保て」というもの。「言葉も通じて、居心地がいいのはわかる。でもそこで甘えてしまったら成長できないぞ」という言葉に、深く感銘を受けました。高校では通訳がいなかったので、ラグビーの練習は良い日本語の勉強になりました。練習後もルームメイトに助けてもらいながら毎日1時間の自習をノルマにした結果、1年後にはほとんどの会話を理解できるようになりました。

語学力とスポーツ選手としての成長は一見、関係ないように思えますが、ラグビーのようなチームスポーツにはコミュニケーションが不可欠。練習中はもちろんですがプライベートでもチームメートと親交を深めることで、試合の結果に大きな差が出るんです。

言葉には苦労しましたが、日本食は驚くほどすんなり受け入れられましたね(笑)。むしろ、あまりのおいしさに感動! 好きな料理はたくさんあるけれど、なかでもラーメンが大好物。豚骨が一番ですね。クボタスピアーズのチームメートとも、しょっちゅう食べに行っています。

―日本の礼儀は、世界に誇る素晴らしい文化!
クボタスピアーズのチームメートの仲の良さはトップリーグでも際立っているように感じます。ただ仲が良いだけでなく、みな真面目かつ勤勉でメリハリがあるところが素晴らしいんです。年齢や立場の壁を超えてふざけ合いながらも、礼儀はきちんとわきまえる。そんな礼儀こそ、僕が思う日本の素晴らしい文化の一つです。先輩やコーチに対して礼儀を尽くし敬意を払う姿勢は、スポーツ選手の成長に欠かせない精神だと感じています。

またスポーツ施設の充実度やウェア品質、教育と知識レベルの高さはトンガと比べものにならないと思います。とくに感動したのが、食事管理の概念。トンガではラグビー選手はひたすらカロリーを摂取して「体を大きくしろ!」と言われてきました。一方、日本では栄養バランスを整えて健康的かつ効率よく筋力を蓄えられる食事法を教えてもらい、目からうろこが落ちる思いでした。

―トンガの若手育成を担う一員になりたい
僕が抱いている使命のひとつに、日本で学んだ知識を後世に伝えることがあります。そのため1年に1度、トンガに帰国した際に、昔お世話になったコーチに僕の知識を共有しています。

子供たちの練習にも参加するのですが、キラリと輝く才能ある子を発見するとワクワクしますね! 彼らが将来、トンガが誇る選手として世界に羽ばたくためにも、他のトンガ出身選手とともに母国に恩返しをしていきたいです。

ちなみにトンガに帰国するたび、とても楽しみにしているご馳走があるんです。それはズバリ、豚の丸焼き! 僕の村ではほとんどの家が豚を飼っていて、それを自宅の庭でグリルするのが定番。これがもう、絶品なんです!! 豚を食べ尽くされてしまっては困るので、帰国するひと月前から電話で予約しておくほど(笑)。

帰国したその日は決まってこの豚を食べながらパーティーをするのですが、家族と親戚14人ほどで3匹をぺろっと平らげてしまいます。日本のみなさん、ぜひともこの豚の丸焼きを味わいに、いつかトンガを訪れてみてください!

ファウルア・マキシ 1997年1月20日生まれ、トンガ出身。ポジション:ナンバーエイト、185cm/100kg。トンガ代表に選ばれた経験を持つラグビー選手の父のもと、7歳でラグビーを始める。12年に来日し日本航空高校石川に入学。在学中、高校日本代表メンバーに選ばれる。天理大学在学中の16年、日本代表としてアジアラグビーチャンピオンシップに出場。19年、クボタスピアーズへ加入。