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タレント揃いに見えても中学時代の実績はほぼゼロ。無名の逸材を次々と伸ばす近大泉州の育成方針【前編】

2020.07.15

 プロ注目左腕の中尾純一朗(3年)に最速145㎞/h右腕の斎藤佳紳(3年)、高校通算34本塁打の主将・山口竜平(3年)と投打に注目選手が揃う近大泉州。昨春には大阪桐蔭と対戦し、敗れはしたが、1対3と善戦した。

 7月18日に開幕する令和2年大阪府高等学校野球大会でも上位進出が期待されている。激戦区の中で存在感を示している彼らはどのようにして力をつけてきたのだろうか。

清水雅仁監督に選手にかける、魔法の言葉

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ノック中の様子

 岸和田市にある近大泉州は旧校名の泉州時代に1983年春と1986年夏に甲子園に出場した実績を持つ。藤井康雄(元オリックス)、谷中真二(元西武など)などプロに進んだOBも多数おり、取材前には有力選手を集めて、強化を進めているという印象を抱いていた。しかし、清水雅仁監督の話を聞いて、その考えは一掃された。

 「ウチは中学時代に実績のない選手ばかりです。行くところがなくて、『ここに行け』と言われた子が多い。山口は中学時代に公式戦は1試合しか出ていないですからね」

 エースの中尾も中学時代はごく普通の軟式野球部の一塁手。華々しい結果を残した中学生は他校に流れてしまうのが現状だ。そんな中で中学時代に日の目を浴びることのなかった選手に声をかけ、練習で鍛えることによって、強豪校とも対等に戦えるチームを作りあげているのだ。

 練習では3年生がエンジ、2年生が紺、1年生が白と学年ごとにストッキングの色が分かれているが、シートノックを見ていると、確かに3年生と1年生では明らかに技量が違う。3年生は2年かけて着実に実力を伸ばしているのが見て取れた。

 しかし、2年間で大きく実力を伸ばすのは簡単ではない。ある程度は伸びる素質を見抜く必要があるだろう。清水監督は中学生のどのようなところを見ているのだろうか。その問いについてこう答えてくれた。
「最初は『野球好き?』って聞きます。『野球が好き』って言ったら、『試合出たい?』と聞く。そこで『出たいです』と言った子は『ウチに来て、試合に出て』と誘います。それしか言いません。『野球が好きなので、野球をやらせてください』『試合に出たいです』という子が来て、『じゃあ、努力しなさい』と言うだけです」

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近大泉州の強さの源泉

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実践練習中の模様

 野球が好きだから努力する。努力して結果が出るから、より野球が好きになる。このサイクルで近大泉州の選手たちはメキメキと力をつけてきた。この日も全体練習が終わってから多くの選手が自主練習に励んでいた。こうした日々の取り組みが近大泉州の強さの源泉となっている。

 そんな彼らだから休校期間中も自主練習を欠かさなかった。5月下旬に全体練習を再開した際には、指揮官の予想を上回る仕上がりを選手たちは見せていたという。

 「思っていたより練習しているなと思いました。練習していなくて、『なんやコイツら!』と言う用意をしていたんですけど、その必要はなかったですね。ここに入って、バッティング練習をしたら、内野までしか飛ばなかった子が外野の頭を超えるようになったんですよ。それで野球が楽しくなってくる。ですから、バットを振りたくて仕方がなかったと思います。どこかムズムズしていたと思うんですよね」

 確かに練習を見ていると、選手たちはイキイキしているように感じられた。この日はシートノックで遊撃手の旭野嘉音(3年)が華麗な守備を見せ、シート打撃では4番の山口が逆方向に本塁打を放つなど、レベルの高さを見せつけていた。独自大会での目標は4強入りだが、投打が噛み合えば、十分に到達できそうな気配を感じる。

 昨夏は4回戦で敗退。新チームでは1年秋から4番を打つ山口が部員間の推薦で主将に選ばれた。投手も1年秋から公式戦のマウンドを経験している中尾と斎藤が残っており、戦力的には充実していた。

秋はブロック大会突破(8強入り)を一つの目標に掲げてきたが、3回戦で東海大仰星に敗北。中尾から斎藤の継投で1失点に抑えるも、打線が援護できず、完封負けを許してしまった。

 今回はここまで!次回は秋の大会終了後の取り組みについて迫っていきます。次回もお楽しみに!

(取材=馬場 遼


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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