東京は上海に勝てるのか? モーターショービジネスを考える池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)

» 2015年01月23日 04時00分 公開
[池田直渡,Business Media 誠]

 2015年は東京モーターショーの開催年だ。東京モーターショーは現在隔年で開かれている。前回の2013年からは会場を交通の便のいい東京ビッグサイトに移し、平日夕方からの入場料金を設定するなど、大幅なテコ入れが行われている。これは、台頭著しい上海モーターショーへの対抗策だ。

東京モーターショー

 日本自動車工業会(JAMA、参照リンク)は「世界の5大国際モーターショー」として「デトロイト」「ジュネーブ」「フランクフルト」「パリ」「東京」を挙げている。しかし、これはまったく現状に即していない見方だ。「東京」をなんとしても組み入れたいのに「上海」が入っていないという時点で、手前味噌と言わざるを得ない。

 JAMAが何と言おうが、このまま行けば今後の国際格自動車ショーは「世界3大国際ショー」へと収束していくだろう。「デトロイト」「ジュネーブ」「上海」の3つだ。残る「フランクフルト」「パリ」「東京」は有力自動車生産国のドメスティック(国内)モーターショーとして情報発信を続けていくことになる。

モーターショービジネスの構造

 国際格のモーターショーとは、世界中の自動車メーカーが一斉に集って、メディアやその地域の顧客にアピールをするビジネスの場である。そのため、ターゲット市場に魅力があることが大前提だ。「お祭りだから」という牧歌的な意見を耳にするが、企業が億単位の巨大予算を組んで取り組む事業である以上、最終的にビジネスに結びつかないようではコストをかける意味がない。

 一例としてデトロイトモーターショーを考えてみよう。前回のコラムで説明したとおり、「デトロイト」は堅実なビジネスコンベンションとしての地歩をほぼ固めた。その背景には米国のマーケット規模と構造がある(参考記事)

 米国は中国に次いで世界第2位の販売台数を持っている。いかにも魅力的だ。しかし、実は販売台数だけ見ても本当のマーケットとしての魅力は分からない。大事なのは輸入をどれだけ受け入れているのかなのだ。

 世界中の自動車メーカーが米国まで出向き、大金を投じて製品アピールをしても、米国の自動車マーケットが米国メーカーの自給率100%だったら何の意味もない。一度や二度で米国マーケットへの橋頭保が築けなかったとしても10年もやってみて構造が変わらなければ「予算の無駄遣い」という指摘が出てくるのはビジネスとして当たり前だ。

 実際に米国の自動車マーケットはどの程度の魅力があるのか。これを調べるため、世界の自動車販売台数と生産台数の差を調べて表を作成してみた。下の表は2012年の国別自動車生産台数から販売台数を引いた差を多い順に並べた一覧だ。参考資料として、生産台数と販売台数のランキングも掲載しておく。

2012年の国別自動車生産台数から販売台数を引いた差(著者作成、クリックすると全体を表示)
2012年の国別自動車生産台数と販売台数(著者作成、クリックすると全体を表示)

 自動車販売の統計はさまざまな機関から出ており、数字にはかなり差がある。今回参照したのはJAMAの数値だ。日本貿易振興機構(JETRO)のデータでは商用車などを含めてどの国の数値ももっと大きい。例えば中国の自動車販売台数はJAMAの調査では1550万台だが、JETROの調査では2000万台となっている。今回JAMAのデータを基にしたのは、モーターショーについて考えるなら車種を乗用車に限っておきたいからだ。

 表を見て分かる通り、米国の販売台数は世界第2位だが、生産台数では韓国に僅差で負けて第5位。結果として10万台以上の生産または販売規模を持つ世界34カ国の中で、台数ベースの輸入超過は310万台とナンバー1である。米国は世界最大の自動車輸入国なのだ。

 もちろんからくりがないわけではない。米国の自動車メーカーはカナダやメキシコなど近隣諸国に多くの工場を持っており、輸入車の中には米国国内ブランドのクルマも多い。ただし一方で、日本やドイツなどの国外自動車メーカーが米国工場で生産したクルマが、米国の自動車生産にカウントされてている。

 それだけ養分の豊富な米国市場と言えども、弱肉強食の資本主義の世界なので、やはり誰もがたやすく参入できるわけではない。実際にフランスとイタリアの量産メーカーは米国市場参入に失敗して撤退したという経緯がある。だからこうしたメーカーはデトロイトモーターショーにほぼ出て来ない。例え世界最大の自動車輸入国だろうと、彼らにとって魅力のないマーケットとなれば用はないのだ。

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.