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.国際  投稿日:2020/5/5

コロナの陰でうごめく中国


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の安保カレンダー【速報版】2020#19」

2020年5月4-10日

【まとめ】

欧州で、米の指導力欠如への不満と諦観が拡大。米欧同盟弱体化も。

・中国は「力の真空」見逃さず。南シナ海、台湾海峡で軍が活発化。

・米大統領選の観点だけの対応なら、中・露・イランの影響力拡大へ。

 

こんな連休になると一体誰が予想しただろうか。5月6日までの予定だった「緊急事態宣言」は少なくとも今月31日まで延長されるが、地域によっては14日に部分的解除の可否を検討するそうだ。しかし、これまでの接触8割減を要請する基本線は変わらないし、飲食店やエンタメ大規模イベントの本格再開も事実上難しいだろう。

国民のコロナ問題に対する関心は当然高く、各国のメディア報道が感染状況や経済活動再開時期などに集中するのは致し方ない。また、ビジネス界の関心は経済の今後の見通しだ。されば、これらは医師やエコノミストの諸先生方にお任せするとして、今回筆者はコロナ感染の陰で進行しつつある世界各地の嫌な動きをまとめてみたい。

まず、欧米方面から。これまで何度も指摘されてきたことだが、米国のリーダーシップの欠如に対する欧州諸国の驚きと不満は今や頂点に達しつつある。今回の新型ウイルス問題へのトランプ政権の対応ぶりにより、欧州エリートたちの北大西洋同盟の弱体化に対する恐れや懸念は、今や確信と諦観になりつつあるのではないか。

普通だったら今頃米国はG7首脳会議の議長国という立場を最大限利用し、G20諸国も巻き込んで、様々なイニシャティブを発揮していることだろう。欧州諸国も、口は達者だが力がないためか、過去70年間、こうした米国の指導力に内々期待し、それを巧く利用してきた経緯がある。今回はこのメカニズムが全く働いていないのだ。

次はアジアだが、ここでは中国の軍事力のデモンストレーションが顕著だ。まず南シナ海では、3月にスプラトリー諸島で天然ガス関連調査活動を拡大、4月に入りパラセル諸島ベトナム漁船を撃沈拿捕し、更に先日は南シナ海に新たな行政区域を設置するなど、意図的に活動レベルを高めている。

▲写真 中国・習近平国家主席(2020年3月6日) 出典:中国政府ホームページ

また、中国海軍は台湾海峡での活動も拡大している。4月中旬には南シナ海での演習に参加するため空母遼寧を含む艦隊が同海峡を通過している。これに対し、米海軍はコロナ感染で同地域展開中だった空母がグアム停泊を余儀なくされ、横須賀の空母は整備中、今ようやく三隻目の空母が米本土西海岸を出発したところだ。

新型コロナ問題に忙殺される米トランプ政権はアジアどころではないのか。米海軍は最善を尽くしているだろうが、ここでも米国の指導力不足が一種の「力の真空」を作り出している。中国がこれを見逃すはずはない。1991年以来、中国の戦術は一貫している。彼らは米国が他の問題に忙殺された時の「力の真空」を埋めているだけだ。

更に、中東も似たような状況。詳しくは詳細版に譲るが、世界各地での米国の指導力低下は、可能性でも懸念でもなく、もはや現実である。オオカミ少年になりたくはないが、米国大統領が大統領選という観点からのみコロナウイルス問題を捉える限り、ロシア、中国、イランなどの影響力拡大は不可避だ。筆者はこれを「不戦敗」と呼ぶ。

 

〇 アジア

金正恩重体だ、死亡だなどと報じたのは一体誰だ。この3週間でコロナウイルスの自主隔離でもやったのだろうか。いずれにせよ、よくあること、過剰反応は慎みたい。

▲写真 北朝鮮・金正恩委員長(2020年2月29日 平壌) 出典:北朝鮮外務省ホームページ

〇 欧州・ロシア

5月3日のロシアの感染者が過去最多の1万633人、同国の感染者数は世界第7位の13万4686人に。原油安も重なり、憲法改正も延期。プーチン大丈夫か?

▲写真 ロシア・プーチン大統領(2020年4月30日 モスクワ) 出典:ロシア大統領府ホームページ

〇 中東

ラマダン(断食)月でコロナ感染は大丈夫かといった報道もあったが、より懸念されるのは200万人ともいわれる聖地マッカ、マディーナへの巡礼者だ。気が遠くなる。

 

〇 南北アメリカ

トランプ氏が新型ウイルスの武漢ウイルス研究所流出を裏付ける報告書を準備しているそうだ。そもそも、諜報を政治的に利用しようとする動きは常に要注意である。

インドで全土封鎖が5月3日までから再び二週間延長された。インドは人口過密、衛生インフラ不備、国内の人的移動による感染拡散が懸念されているが、これでインド経済は持つのだろうか・・・

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:新型コロナウイルス感染症に関し、記者の質問に応じるトランプ米大統領(2020年4月27日 ホワイトハウス) 出典:flickr / The White House


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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