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.政治  投稿日:2020/10/17

コロナ・経済対策に集中を【菅政権に問う】


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・菅内閣発足1ヶ月、矢継ぎ早に施策を打ち出す菅首相。

・携帯料金値下げに動く大手3社、ハンコ廃止など行革も動き出した。

・一方で日本学術会議問題、中曽根元総理の葬儀問題などで批判も。

 

菅内閣発足1ヶ月となった。

まだ1ヶ月か、と思うほど、矢継ぎ早に様々な施策を打ち出している。

「携帯電話料金引き下げ」、「デジタル庁創設」、「不妊治療への公的支援拡大」の“3大スガ案件”プラス「行政改革」、「地銀再編」などの政策を半ば「公約」としてぶち上げた菅首相、「携帯電話料金引き下げ」では、既にソフトバンクやauが新たな携帯料金プランの導入で最終調整に入っている。無論、docomoも追随するだろう。早速、実績を示せそうだ。

「行政改革」では河野太郎行革相が「ハンコ廃止」に始まり、聖域無くあらゆる行政のムダを平井卓也デジタル改革担当相と二人三脚で省いていく勢いだ。内閣支持率はまあまあだが、政権発足1ヶ月で評価するにはまだ早すぎる。それに、すでに筆者が首をかしげたくなるいくつかの点がある。

▲写真 河野太郎行革相 出典:自民党

 携帯値下げは正しいのか?

まず「携帯電話料金値下げ」だ。今や通信費は電気ガス水道料金と並び、家庭に必須の支出。その負担が減ることに反対する人はいまい。しかし、よくよく考えると自由主義経済において、政府が首を突っ込むのはどう考えてもおかしい。まるで社会主義的産業政策を取っているフランスのようだ。

5Gで他国に遅れを取った日本は、6Gで巻き返しを図らねばならぬはず。その5Gだとて、1年前に買った筆者の5Gスマホは都内でまだ一度も5Gの電波を拾ったことがない。莫大な費用がかかる基地局整備が遅れているからだ。

▲写真 イメージ 出典:ぱくたそ

そうした中、政府の強制的値下げ要請で各社の利益が減ったら、日本の携帯電話産業の国際競争力が削がれることにならないか。そうした懸念は新聞・テレビの論調には見られない。

携帯大手3社がこれまで高い通信費から得られる高収益にあぐらをかき、新規設備投資に遅れを取ったことは大いに反省すべきだろう。しかし、政府のごり押しによって嫌々やる料金値下げで問題は解決しないのではないか。

 

■ 行政改革の本質は?

役所から「ハンコ」を一掃することには大賛成だが、その前にあの文字だらけのパワーポイントを大量生産する非効率はなんとかならないものか。役所のホームページも見るに堪えない。広報する気があるのかないのか、必要な情報が何処にあるか全く分からない。写真や動画もほとんどないに等しい。あったとしても驚くほど低画質で、引用してほしくないのかと思うほどだ。

河野大臣は議員が役所の人間をわざわざ部屋に呼びつけて説明を受けることはオンラインでやればいい、と言っていたが、民間がコロナでテレワークを進めようとしているのに、政府も議員もなにをやっているのか?

民間が働き方改革で残業ゼロに取り組んで久しいが、霞ヶ関は相も変わらず深夜まで煌々と電気がついている。まずやるべきは役所の働き方改革からなのではないか?

そしてなにより本気で力をいれなくてはいけないのは、マイナンバーカードの普及だろう。反対している人には申し訳ないが、税の捕捉は国家として大前提である。国が国民の収入や資産を把握してこそ、迅速で効果的な経済対策が取れるのだ。

一律10万円の特別定額給付金の支給の混乱と遅れを思い出してもらいたい。マイナンバーと自治体の住民基本台帳が連係していないので、速やかに個人の口座に振り込むことが出来なかった。デジタル庁を作る以前の問題だ。

安倍政権時に決まったマイナンバーカードを持っている人を対象に、キャッシュレス決済で最大5000円分のポイントが還元される「マイナポイント」事業も思ったように申込者数が伸びていない。筆者の周りでもマイナンバーカードを持っている人は少数、むしろ持つ事にアレルギーを隠さない人の方が多いくらいだ。

曰く、「個人情報を政府に知られるのが嫌だ」。既にほとんどの個人情報は公になっているのに、だ。マイナンバー制度によって、脱税が防止されたり、役所の業務が効率化される事に反対するのは何故なのだろう?答えは簡単、メリットが国民に全く伝わってないからだ。かつ申請方法がめんどくさい。これをなんとかしないことには物事はすすまない。

いくら反対しても、安倍政権から規定路線として、来年3月からマイナンバーカードと健康保険証の一体化が始まる。2026年をめどに運転免許証との一体化もだ。しかし、こんなペースではとても「改革」とは言えない。菅内閣が本気で「スピード感」を持って「躊躇無く」改革を進めるというなら、マイナンバーカード普及を一気に進めてもらいたい。

 

■ 何故そこにエネルギーを注ぐ?

そして筆者が最も首をかしげるのは「日本学術会議」の人事に手を突っ込んだことだ。「今じゃないでしょ!」と前の記事でも指摘したが、仮に本気で同会議を「お取り潰し」にして民営化しようとしているのだとしても、政治的なダメージを考えたら、今やるのは得策ではないと考える。今や、右左入り交じってどっちに正当性があるか議論が沸騰しているが、臨時国会開会を月末に控えて、野党に攻撃の材料を与えてどうするのか?

▲写真 日本学術会議 出典:Rs1421

そして更に首が90度近くまで傾いたのは「故中曽根康弘元総理の葬儀費用の半分9600万円を国庫から支出する問題」、ではなく、故中曽根元首相の内閣・自民党合同葬を控え、「文部科学省が全国の国立大学などに対し、弔意の表明を求める通知を出した問題」だ。

▲写真 故中曽根康弘元首相 出典:首相官邸

これまでも政府は、元首相の葬儀(多くは、内閣・自民党合同葬)に支出したことがあり、それら過去の葬儀費用と比べて突出しているとまでは言えない。弔意表明の要請も実は過去の首相の葬儀の際に出されていたという。政府は前例に習っただけというが、多くの人が違和感を抱いているのは「このコロナ禍の中で何故?」という心情からだろう。

収入を絶たれ廃業を余儀なくされた中小の経営者や、職を失った非正規労働者やパートの人達、家族を突然新型コロナに奪われ、看取るすら出来なかった人達・・・その苦しみ、悲嘆に何故寄り添えないのか。そして今なお、感染拡大は続いている。

菅首相は就任直後の会見で「モリカケ問題」など一連の安倍前政権における負の遺産の清算について問われ、「客観的に見て、やはりおかしいことは直していかなければならない。今後、御指摘のような問題が二度と起こることがないように、謙虚に、そして皆さんの声に耳を傾けながら、しっかり取り組んでいきたい」と述べた。

菅首相が改革を急ぐのは分かる。成果を早く出したいと焦っているようにも見える。しかし、「急いては事を仕損じる」のことわざ通り、あれもこれも一遍にやろうとしても上手くいくものではない。「二兎を追う者は一兎をも得ず」。まずは、コロナ・経済対策に集中すべきだ。菅首相自身がそう明言しているし、国民の望みもまさにそうだろう。

トップ写真:第1回成長戦略会議に出席する菅首相 出典:首相官邸


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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