JOCの山下泰裕会長(写真:AP/アフロ)

 やはり視線の先に見据えているのは「札幌五輪」なのか。日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長が11月30日、東京都内で定例記者会見を開き、報道陣の質問をのらりくらりと躱す場面があった。

 各主要メディアが主に取り上げたのは、来年2月に北京五輪が開催される中国で、同国を代表する女子テニスの彭帥(ほうすい)選手が、同国の張高麗元副首相に性的関係を強要されたと告発した後に消息不明となっている問題について。これに関して問われた山下会長は、「マスコミから得ている情報しか把握していない。その中で発言するのは適切でない」などと明言を避けた。

中国の人権問題には踏み込もうとしない態度で一貫

 さらに新疆ウイグル自治区やチベットなどの人権問題、香港でも民主化勢力が弾圧を受けていると海外の情報機関や専門家から指摘されていることについても意見を聞かれた山下会長は、「マスコミから得た情報しかない。私は世界の国々を回ってきた人間として、人権問題、紛争、差別、虐げられている人がいることに心が痛む。人々が安心して暮らせる社会を常に望んでいるが、中国の人権問題に対して私がここで発言することは適切ではない」と語るにとどめ、慎重な言い回しに終始した。

 米国、英国などが中国の人権問題に強い懸念を示し、北京五輪の「外交的ボイコット」も検討していると伝えられていることに関しても「それぞれの国の立場で国益を考えて行動する。日本は日本の国益を鑑みて政府が対応を考え、協議されるはず。それ以上のコメントは控えたい」と述べ、出場可否の最終決定は日本政府に全てを委ねるとし、質問をほぼ“スルー”で通した。

 山下会長が立場上、踏み込んだ発言がなかなかできないことはよく分かっているつもりだ。しかしながら、これほどまでにどっちつかずの危なげない優等生発言でお茶を濁しているようだとJOC会長としての存在価値そのものが疑われてしまう。特に失踪疑惑の消えていない彭帥選手にはアスリートの命にかかわる問題でもあり、同じ元アスリート出身者ならば、いい意味で一石を投じられるような勇気ある“助け舟”を出せないものかと物足りなさを感じてしまう。ふんわりした言葉で逃げている山下会長の姿勢は中国を喜ばせるだけだ。

 そう考えると、やっぱり、この人の頭の中は中国だけでなく国際オリンピック機構(IOC)、日本政府にもとことん気を使って次の一手に踏み込むつもりで満々なのだろう。札幌市が目指す2030年の冬季五輪・パラリンピックの招致、つまり「札幌五輪」の実現である。