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【CES 2020】老舗総合家電メーカー「ボッシュ」のIoT家電・AI家電への取り組みを、上級副社長に聞いた

 世界的な総合家電メーカーはたくさんあるが、IoT化やAI化を積極的に行ないながら家電製品同士を連携させ、利便性をより向上させている企業となると、さほど多くはない。今回は、その中でも産業機械や自動車、工具やe-bikeといった分野に注目が集まるものの、実はヨーロッパでは有名な総合家電メーカーでもある「Bosch(ボッシュ)」の家電について、IoT化、AI化に関する取り組みを伺った。

 お話を伺ったのは、ボッシュの家電事業会社で国際デジタル移行担当の上級副社長・Dr. Niels Kuschinsky(ニルス・クシンスキー)氏。氏は、経営コンサルティングや家電業界に携わったあと、Boschでデジタル戦略の策定と構築を担当。現在は、同社やSiemensなどで推進しているIoT家電プラットフォーム「Home Connect」を含む、家電製品のデジタル移行の推進を担当している。

ボッシュの家電事業会社 上級副社長のニルス・クシンスキー氏

複数ブランドで作るIoT家電プラットフォーム「Home Connect」

 ボッシュでは、複数の家電ブランドと共同で「ホームコネクト」というIoT家電のためのプラットフォームを5年ほど前から展開しています。Wi-Fiコネクトの行なえるIoT家電は、各メーカーがそれぞれの規格で展開しても、他メーカーとの互換性がなくなってしまいます。そのため、BoschやSiemens、Neff、Gaggenau、Thermadorといったブランドと共同で、IoT家電を相互に連動させるためのプラットフォーム「Home Connect」を構築し、展開しています。

ボッシュがSiemensなどと展開しているIoT家電プラットフォームプラットフォーム「Home Connect」

 弊社では現在、オーブン、洗濯機・乾燥機、ロボット掃除機などをIoT化しており、累計で30万台程度を販売しました。現在100万台の販売を目指しているところです。また今後は、対応する家電製品を増やしていこうというところで、2020年中には、家電製品全体へ広げる予定です。

 実際にIoT家電でできることとしては、例えば洗濯機であれば、中に入っている衣類が何であるかを見分け、それに応じたコースで洗濯することです。また食洗機には、洗剤の自動補充機能などがあります。ドイツの洗剤はタブレット型をしているため、消費した個数を容易に把握できます。これをAmazonの「Dash Replenishment」という自動注文の仕組みと組み合わせることで、消費に応じて自動注文できるようになっているのです。

 またロボット掃除機ですと、掃除した部屋のマップを自動作成して保存する機能、スケジュール清掃、清掃範囲をあらかじめ指定しておく機能などがあります。いずれのIoT家電もAmazon Alexaに対応しており、音声での操作が可能になっています。また数カ月以内にGoogle Assistantへも対応します。

ドラム式洗濯機「WAWH8660GB」
ロボット掃除機「Roxxterシリーズ6 BCR1ACG」

 またIoT家電は、製品の故障時にも力を発揮します。例えば洗濯機です。小さな子どもがいたら、洗濯機が壊れるのは大変なことですよね。我が家にも小さな子どもが2人いますからよく分かります(笑)。ですが洗濯機がネットに繋がっていれば、機器の状況データを送信することで、故障を把握することが可能です。従来は、サービスマンが来訪し、状況を把握して、部品を取りに帰って、修理するというステップでしたが、これを簡略化できます。それだけではなく、常に機器の状況をクラウドへ送信していれば、故障を予知できる"予知保全"のようなこともできるようになります。

ボッシュの目指す「AI家電」

 AI搭載の家電ということですと、現在はオーブンがあります。そのオーブンでAIがやっていることは、ユーザー好みの焼き加減を自動で設定することです。それまでのユーザーの操作履歴や、利用後のフィードバックをクラウドへ送信し、そのデータを解析することで、ユーザーに最適化しパーソナライズを行なって、その人好みの焼き加減を調整できるようになっています。

 実際には、肉の表面をどのくらいクリスピーに仕上げたいか、中をどのくらいしっかり焼き上げたいか、焦げ目はどのくらいが良いかといったことが指標となります。ですが、最終的に目指しているのは、ユーザーが「ラザニア作って」と音声入力するだけで、その人の好みのラザニアを焼き上げられる、というところです。

スチーム機能搭載ビルトイン型オーブン「HRG6769S6B」

 また冷蔵庫でしたら、例えば毎週日曜日の朝に買い物へ行く家庭があるとします。必ず毎週の日曜日に行くことがわかってくれば、次の週も行くだろうということで、買い物から帰宅する前の時間に、設定温度をあらかじめ下げておくといったことも行なえます。食材の消費や購入にはパターンがありますから、その行動パターンに合わせて温度設定などができるようになるわけです。

 ボッシュには、2025年には全製品にAIをという目標があります。これは製品にAIを搭載するか、AIを使って製造することを指しており、家電製品の多くはAIを搭載する形になると思います。

冷蔵庫とオーブンの連動で、食材ロスも減らせる「Smart food management」

 今回展示している「Smart food management」システムは、複数の家電が連動する点、冷蔵庫にある食材に応じてレシピが提案される点、食品の無駄をなくせる点がポイントとなっています。システムの概要としては、冷蔵庫の食材を自動認識し、その食材だけを使ったレシピを提案。スマートフォンアプリ上でレシピを選択すると、その調理メニューがオーブンへ送られて、調理を行なえるというものです。

展示されていた「Smart food management」システム

 この冷蔵庫には、カメラを2つ搭載しており、冷蔵庫を閉めたときに中の画像を撮影します。撮影した画像はクラウドへアップされ、PASSIO社の技術を利用して何が入っているかを認識します。このとき個数も同時に認識を行ないます。するとスマートフォンの画面に、前回の認識時から変化した、つまり新しく冷蔵庫へ投入された食材のリストが表示されます。画面のボッシュロゴを押すと食材の登録が完了します。

 冷蔵庫の中の食材リストは常にアプリから閲覧できますし、一般的な賞味期限データも一緒に登録してあります。保存日数に応じて賞味期限も減っていきますので、例えば賞味期限の近いものから使うといったことも可能になります。

写真の左上と、右側の1段目のドアポケット下にカメラがある
撮影された庫内の画像
追加された食材のリスト
食材の登録が完了した
庫内の食材一覧には、賞味期限も書かれている

 次は、レシピ提案です。これはChefling社のもつレシピとその提案機能を利用することで、冷蔵庫に入っている食材だけを利用したレシピを提案できというものです。提案されたレシピは、すぐ調理に反映させてもいいですし、アプリにある献立リストへ登録しておくことも可能です。たとえば1週間に1度だけ買い物へ行く家庭でしたら、買ってきて冷蔵庫に入れるだけで、このレシピ提案と献立リスト機能を使って1週間分の献立リストを先に作成してしまうといったことも可能になります。

 提案されたレシピを選択すると、分量や作り方の手順が表示されます。このメニューをいま調理すると選択した場合は、最初にご紹介したIoTオーブンへ調理メニューが送られます。予熱と加熱の開始は、本体ボタンやスマホ上で行なうことができるのです。

 「Home Connect」プラットフォームは、40ほどのパートナー企業との協業で成り立っています。このような調理家電において最も重要なことは、ユーザーの使いやすさですから、複数のサービスをまたいで利用していても、シームレスな自然な流れで調理を行なえることが重要です。

現在ある食材だけで作れるメニューが画面上部の「Ready to cook」に、下部の「Inyour pantry」にはいまある食材ごとのメニューが表示される
メニューを登録できる献立リスト
メニューを選択すると、分量や作り方が表示される
作り方の最下部には、オーブンの予熱や加熱を開始するボタンが表示されている
「Smart food management」システム・プロダクトオーナーのMark Mueller氏
Chefling 創業者でCEOのJeff Quan Xie氏

IoTもAIも「人々の暮らしのためにある」

 現在ボッシュは、企業スローガンとして「Invented for life」を掲げ、人と社会に役立つ革新的なテクノロジーを提供しています。ボッシュは、モビリティソリューションズ、産業機器テクノロジー、消費財、エネルギー・ビルディングテクノロジーの4つの部門からなります。いずれの部門においても、IoT化やAI化といったデジタル化は"人々の暮らしのためにある"と考えているのです。

 デジタルでつながっているか、AIが搭載されているかといったことは、最終的にはユーザーにとってはどうでもいいことです。ユーザーにとっての使いやすさや安全性が向上する製品をリリースしていくことが最も重要です。ユーザーの暮らしを向上させることが目的ですから、ボッシュにはない技術やノウハウ、情報が必要なことも出てくることもあります。そのためには、今後も他社との協業を積極的に行なっていく予定です。