イスラエル企業が対テロ見本市 川崎市許可に市民反発「平和の理念に反する」

【時代の正体取材班=石橋 学】川崎市中原区のスポーツ施設「市とどろきアリーナ」で8月29、30の両日、イスラエル企業によるテロ対策・サイバーセキュリティー製品の展示会が開催される。2020年の東京五輪・パラリンピックを控えニーズが高まる日本市場への参入を図るもの。主催者は武器の展示などはしないとしているが、市民団体からは「本質は軍事産業。会場の貸し出しは平和都市を宣言する市の理念に反する」と疑問の声が上がる。

 「ISDEF Japan」は防衛・安全保障分野の国際見本市を主にイスラエル国内で開催してきたISDEF社が主催する。同社は日本初開催となる今回の目的を「特に東京五輪に向け、国土安全保障とサイバーセキュリティー、安全の分野における最新の技術と機器の普及に注力する」と説明。公式サイトでは、過去に開催した見本市で銃器を展示し、軍人が実演する様子を動画で紹介しているが、「軍隊による武器の展示・デモンストレーションは行わない。防衛博覧会でも武器のイベントでもない」と強調する。

 これに対し、市民団体「川崎でのイスラエル軍事エキスポに反対する会」は「テロ・サイバー攻撃対策の装備であっても殺傷・抑圧を目的とする軍事システムの一角をなすもの。青少年や地域住民が利用するスポーツ施設での展示は極めて異常」と批判。1982年の核兵器廃絶平和都市宣言など市が掲げる理念に反するとし、使用許可の取り消しを求めている。

 17日にはコナミスポーツクラブ、東急コミュニティー、川崎フロンターレ、市スポーツ協会でつくるアリーナの指定管理者と中原区に公開質問状を提出。許可に至った過程などについて、23日までの回答を求めている。

 神奈川新聞の取材に対し、区地域振興課は「金属探知機や監視システムなど、大きなスポーツイベントのセキュリティーに関する催しと聞いている。施設の管理運営上支障を来す内容の場合を除き、許可が原則」と説明。主催者には武器の展示はできないと伝え、無人機ドローンの飛行も断ったという。一方、出展企業と展示の詳細については「未確定と聞いており、現時点では把握できていない」としている。

■武器見本市の常態化に危機感

 市民の不安の背景には、「安全保障」「テロ対策」の名の下、国内外の軍需企業が参加する見本市が公然化、常態化している現実がある。イスラエルが抱える深刻な問題について十分認識、検討された上で公共施設の貸し出しを許可したのか-。市民団体の公開質問状は「武器」に対する抵抗感が薄らぐ風潮への危機感を映し出す。

 安倍政権が憲法9条を具現化した武器輸出三原則を撤廃し、「防衛装備品」の積極輸出方針に転じたのは2014年。翌15年にはパシフィコ横浜(横浜市西区)で国内初の武器商談会が開かれた。公開質問状を提出した「川崎でのイスラエル軍事エキスポに反対する会」のメンバーで、市民団体「武器輸出反対ネットワーク」代表でもある杉原浩司さんは「日常の風景に『武器』が溶け込んでいけば、戦争につながるものを遠ざけるという戦後日本が維持してきた『非戦』の力がそがれていく」と警鐘を鳴らす。

 なかでも、周辺諸国との紛争とパレスチナ人への武力弾圧の問題を抱えるイスラエルとの関係拡大を主導する政府の姿勢は、たがの外れぶりを象徴する。5月にイスラエルのネタニヤフ首相と会談した安倍晋三首相は防衛やサイバー、経済分野で緊密に連携することで一致。第2次安倍政権発足後、日本からの投資額は11億円から1300億円と約120倍に、進出企業も25社から70社と約3倍に膨らんだ。

 「命と引き替えに開発、製造されてきた血なまぐさい『武器』が五輪を口実に堂々と展示される。それが今回の展示会の本質。とりわけ川崎市がなぜ、との思いが強い」。核兵器廃絶平和都市宣言を行い、多文化共生を掲げる市が、その舞台として所有施設を提供する錯誤はどれだけ認識されているだろう、と杉原さんは危惧する。「イスラエルは戦争犯罪を繰り返し、核武装国でもある。スポーツ振興と文化向上というアリーナの設置目的はもちろん、あらゆる市の理念に反している。このまま許可されればあしき前例となり、後世に禍根を残す」

プラカードを掲げ公開質問状を手渡す「川崎でのイスラエル軍事エキスポに反対する会」のメンバー=17日、とどろきアリーナ

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