げたで走る兵庫県明石市の板前ランナーが、今月1日にあった「大阪マラソン」でギネス世界記録に挑み、見事に達成してみせた。タイムは3時間58分43秒で、3年前の同マラソンで愛媛県の男性が出したギネス記録(5時間35分31秒)を大幅に塗り替えた。「誰もが絶対無理と思うことをやってみたい」。応援してくれる地元明石への思いが詰まった作務衣(さむえ)に身を包み、33歳の誕生日と重なったレースで会心の結果を残した。(霍見真一郎)
明石市の福浪弘和さん。アニメなどのコスプレ姿でマラソン大会に参加するうちに、丸刈りを生かした「一休さん」を思いつき、2018年2月からげたで走るようになった。
げたで初めて出場した大会では足の裏に水ぶくれができるなどし、完走はしたものの記録は制限時間ぎりぎりの6時間45分。だが、意欲を失うことはなかった。日常生活でも常にげたを履いて足を慣らし、タイムを上げてきた。
そして走り込むことほぼ1年。今年3月のとくしまマラソンで3時間49分を出して自信を深め、大阪マラソンでのギネス挑戦を決めた。
申請には100万円以上かかる上、認定にはスタートからゴールまで全てを見届ける伴走者や録画データも必要になる。カメラ撮影を続けながら、福浪さんのペースに合わせて走れるランナーを探すのに苦労したが、会員制交流サイト(SNS)などでも呼び掛け、レース1週間前に4人の協力者がそろった。
挑戦が神戸新聞の6月14日付夕刊で報じられると、明石で声を掛けられることが格段に増えたという。日頃支えてもらっている地元の仲間に感謝を伝えようと、“勝負ウエア”の作務衣には勤め先の和食店やげたを買う履物店、鮮魚店や青果店など20店ほどの名前を刺しゅうした。
多くの人の協力を受けた挑戦だけに重圧もあり、大会前夜はほとんど眠れなかった。しかし、当日は快晴。沿道の声援も力強かった。途中、カメラのバッテリー交換で3回立ち止まるなど思わぬタイムロスはあったが、それを除けばペースは快調。最後はラストスパートで「サブフォー(4時間切り)」を成し遂げた。
福浪さんは「何かを達成するということがこれまでの人生でなかった。感無量。カランコロンという音など、げたで走る爽快感を広く伝えていきたい」と笑顔で話した。