新型コロナウイルス感染拡大の影響で、中止が決まった選抜高校野球大会。知らせを受け、がっくりと肩を落とした老夫婦がいる。夫は天を仰ぎ、妻はあふれるものを抑え切れない。孫世代の球児たちを思い、悔しさに暮れた。
兵庫県西宮市甲子園網引町の大力食堂は、ボリューム満点のカツ丼が名物。毎年春と夏には球児や高校野球ファンでにぎわう。店主の藤坂悦夫さん(81)と初枝さん(78)は、中止を報じるテレビを静かに見つめ「そこまでしないとあかんか。仕方ない」と肩を落とした。
高校野球シーズンは店先に列ができ、普段の3倍ものカツ丼が出る日も。初枝さんは「コロナの影響でお客が減っていて困るけど、店はがんばればいい。一生懸命な球児の気持ちを考えると胸が詰まるし、わが子のことのように感じる。かわいそう」と涙を拭った。
観戦の合間に毎年訪れる常連客も多く、悦夫さんは「みんなの顔を見られないのがごっつい寂しい。わしも野球やってたから。なんとか開催してあげることはできなかったんやろうか」と絞り出した。(大田将之)
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