<出会う>京都のひと

「目で見てもわからないほどの木肌の削ぎを、素手で感じています」

温故知新、職人の手仕事による技が冴える桶づくりの老舗。

おけ庄 林常二郎商店 山本大輔

■100年前の桶から昔の職人仕事を感じる。

大和大路通をはさんで、恵比須神社の斜め向かいに、桶の製造販売を手掛ける老舗がある。店頭のガラス越しに風呂桶から、おひつ、湯豆腐桶、桶をアレンジした金魚鉢、浴槽まで、あらゆる用途に応じた桶が並んでいる。江戸中期創業、桶の老舗である。むかし、この辺りは建仁寺の寺域とあって、250年ほど前の寺の記録に、桶製造を営む記載があった。

現当主の山本大輔さんで9代目になる。

寿司桶や風呂桶、おひつ。「桶づくりでいちばん難しいのは底板です。水が漏れてしまってはいけない」

■29歳から桶職人の世界へ 祖母に習って家業を継ぐ

山本さんが桶職人の道を志したのは29歳。サラリーマンの生活に一抹の疑問を抱いていた時分の転機である。

「頑張って働いても、サボっていても一律の評価しか得ないサラリーマンに違和感がありました。それに対して、この世界は、自分がやったらやっただけの手ごたえがあります。手に職もつけたかった。それになによりおばあちゃんが居なくなったら、この場所がなくなってしまう……、そんな危機感もありました」

おけ庄は、山本さんの母方の実家にあたる。大阪で育った山本さんにとって、京都の祖父母の家は懐かしい帰る場所だ。

祖母にあたるたか子さんは今年90歳。1940年(昭和15年)ごろから、主人庄太郎さんの仕事を手伝った。正太郎さん亡きあとも、83歳まで現役で店の仕事を切り盛りしていた。

「おばあちゃんはすごいです。僕なんか足もとにも及ばない。桶の細かい寸法も、感覚的にわかっている」。

孫である山本さんが家業を継ぐ覚悟を決めてからは、さりげなくも確かな、道を照らす灯台の明かりとなった。

「朝早くから夜遅くまで一日かかりきりになったとして、ようやく1日2個つくれるかどうか」と山本さん。木を切り、形を整えて、削っていく。

■素手で感じる職人の技 昔ながらの手仕事を大切に

60年前は200軒あった桶屋が、現在はたった3軒。プラスチック製の台頭で木桶の需要は減った。祖父母の跡を継ぐべく、孫の山本さんが立ち上がった。

山本さんは滋賀県の桶職人に5年間の修業に入り、祖母の待つこの店を継いだ。小さな手桶から大きな浴槽まで、様々な受注に対応する。材料は木曽産の檜(ひのき)、高野槇(こうやまき)、椹(さわら)など。

「寿司桶やおひつは、椹を使います。お米の余分な水分を吸ってくれるので、ごはんがパラッと美味しくなるんです」。

山本さんのもとには料亭や古寺から修理の依頼が絶えない。さらには古い桶を持参され「これと同じものを作ってほしい」とのオーダーも多い。

基本的に桶づくりの工程は、いにしえより変わらないという。タガを外して解体する工程のなかで、その桶を作った100年も昔の職人と心を通わせる。

「手を動かすことで、その職人の工夫が見えてくる。いい仕事をしている桶は100年後も修理が楽。修理を通じて、時間を超えてかつての職人に教えてもらっている感があるから、おもしろい」。

山本さんは先人の技に学ぶ。今日も店奥の仕事場で、嬉々として桶と向き合う。

(2018年3月10日発行ハンケイ500m vol.42掲載)

店には山本さん他4、5人の職人の桶類が並ぶ。店の奥は作業場になっていて、原木を伐りだす道具から、大小100ものかんなが揃う。

おけ庄

京都市東山区大和大路四条下ル4丁目小松町140-3-1

▽TEL:0755611252

▽営業時間:9時~18時

▽定休:日曜不定休