ライフハッカー[日本版]の書評を執筆し、今年5月に『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社)を上梓した作家・書評家の印南敦史氏が、皆様から募集した「読書の悩み」についてお答えします。前編に続き、後編をお届けします。

読んだ本の内容は覚えられなくてもいい? 「読書」のお悩み相談に、年間300冊以上の書評を書くライターが答えます(前編)

読んだ本の内容は覚えられなくてもいい? 「読書」のお悩み相談に、年間300冊以上の書評を書くライターが答えます(前編)

相談(5):なにを読んでいいのかわからない

「必読書」「名著」「古典」「読んでおくべき…」といった本が多すぎて、なにからどう読んでいけばいいかわからない。

「必読書」とか「名著」などと煽られると、「読んでおかないといけないのではないか…」と焦りを感じたりもしますよね。また、話題になっているということは、なんらかの「理由」があるということ。そういう意味でも、話題になっている本は読んでおくべきだとも言えます。

ただし、そこで意識しておきたいのは、「その読書は自分のためにある」のだということ。必読書であろうがなんであろうが、自分がそれを楽しむことができなければ本末転倒であるわけです。

そこで『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)から、そのことに関する部分を引用してみたいと思います。

極端な言い方をすれば、その読書を通じて自分が心地よくなることができれば、充実感を得ることができれば、その読書は成功したことに等しいのです。仮にその方法が一般的には非常識なものであったとしても、なにひとつ問題はありません。 なぜって、自分のためのものなのですから。(中略) 自分のためのものなのだから、誰にも迷惑をかけることなどないのだから、自分のための読書についてはもっとワガママになっていいのです。(『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』より)

そう考えれば、「必読書」「名著」「古典」などという要素は、あくまで二次的なものだという気がしてきませんか?

相談(6):本が溜まりすぎている

本が溜まりすぎて困っています。今、書庫を建設中ですが、もしそこに入りきらなかったら、どうしたら良いのでしょうか。

書庫を建設中とのことなので、相当の蔵書をお持ちのようですね。それはそれで本との正しい接し方だと思うのですが、僕個人に関していえば、考え方が少し違います。

まず、現実的に月100冊前後のペースで本が増えていくので、すべてを保管しておくことなど物理的に不可能。それにとって置いたところで、読み返す機会は意外に少ないものでもあります。

だとしたら、「処分してしまう」ということも重要な選択肢のひとつになるはず。そこで僕の場合は、3カ月ごとのペースで書棚のメンテナンスを行っています。『遅読家のための読書術』にも書いた、「本棚を整理するためのシンプルなやり方」をご紹介しましょう。

1. 全部、背表紙が見えるようにして本棚に立てる。

2. 本を「古いもの」→「新しいもの」の順に並べる

3. 古いものから優先して「不要な本」をピックアップ

4. 3カ月ごとにこの作業を繰り返す(1年以上開いていない本はひとまず手放す)

(『遅読家のための読書術』より)

なかなか踏ん切りがつかないときは、“いつでも再会できる”ことを意識してください。いまの時代、手放した本でも中古本市場や図書館、電子書籍などで簡単に手に入るということ。よっぽどの稀少本でない限り、探すことは難しくないわけです。

相談(7):読書に新鮮味を感じない

読書を過去の「型」に当てはめてしまい、実用娯楽どちらにおいても新鮮味を感じなくなってきています。

ご自身で答えをお出しになっていますが、新鮮味を感じなくなっているのは、無意識のうちに過去の「型」に当てはめてしまっているからなのでしょう。でも、だとすれば、その「型」を壊してしまえばいいのではないでしょうか?

たとえばそのための手段として、僕は『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』をはじめとする著書のなかで「興味のない本を読んでみる」ことを勧めています。その結果、「意外におもしろかった」と感じることができる場合もあり、だとすればそうした体験が、“読書の鮮度”につながっていくことになるわけです。

とはいっても、別にお金をかける必要はありません。お金をかけなくても、そういうタイプの本に接するチャンスはいくらでもあります。たとえば手っ取り早いのが、新古書店の108円コーナーに並んでいる本を買ってみること。好きでもないものにお金をかけたくないと思う気持ちもわかりますが、108円ならさほどの負担にはならないはずです。失敗したとしても108円分の失敗ですし、もしそこからなにかしら得るものがあったとしたら、108円払ったかいがあったということになります。(『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』より)

大切なのは、“鮮度ある体験”をものにすること。そのためには、視点を変えてみればいくらでも手段はあるということです。

相談(8):読み続ける「習慣」が持てない

読み続ける「習慣」が持てない。

読書習慣を身につけることは、たしかに楽なことではありません。しかも身につかないとなるとどんどん苦しくなっていき、読書すること自体を肯定的に捉えられなくなる危険性もあるでしょう。

でも、読書習慣が持てないのは、心のどこかでいつの間にか「本はこう読まなければいけない」などの決まりごとをつくってしまっているからではないでしょうか?

たとえば「集中して読まなければならない」とか、「せめて1時間以上は読書時間を取るべきだ」とか。

本当は、そんなこと必要ないんですけどね。

早い話、読み続ける習慣が持てないなら、これまで自分を縛っていた既存の「読書の決まりごと」を一切捨て去り、「自分だけのための読書法」を実践してみればいいのです。たとえば僕はこれまでの著作のなかで、次のような読書スタイルを提案しています。

・その本に書かれた内容が、自分の内部を“流れていく”ことに価値を見出す「フロー・リーディング」(『遅読家のための読書術』より)

・自分にとって価値のある1%を見つける「フリー・スクラッピング」(『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』より)

・いろんな場所で読書して、読書と体験を紐づける「シチュエーション記憶法」(『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』より)

詳しくはそれぞれの書籍で確認していただきたいのですが、つまりは

・ 好きなときに、好きな場所で、好きなように読んでみる(『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』)

・ 決して知識をため込もうとせず、書いてある内容を音楽のように頭のなかに通過させる(『遅読家のための読書術』)

・ 自分にとって価値のあるフレーズを見つけたら、ワンフレーズだけでもメモしておく(スマモのメモ機能を利用するのでもOK)(『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』)(『遅読家のための読書術』)(『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』)

・ これからの季節なら海水浴場とか山の上とか、インパクトのある場所で読書し、記憶と連動させる(『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』)

このようなアイデアを活用しまくるということ。読書は「義務」ではなく「権利」なのですから、自分にとって心地よい手段を試してみればいいのです。

── 前編はこちら。「本が最後まで読めない」などの質問に答えています。

>>印南敦史さんによる書評連載はこちら

Image: MIND AND I/shutterstock