6・7月にかけて実施したライフハッカーの「キャリア特集ーredesign your career」。
この特集に合わせ、編集者とライターのキャリアについて考えるイベント「編集者・ライターの生存戦略 -(ひとまず)10年後も生き残っているために必要なこと-」が7月5日に開催されました。
それぞれまったく異なるバックグランドを持つ3人のゲストを迎え、複数のテーマで繰り広げられたトークセッション。その模様をレポートします。
登壇者プロフィール
竹村俊助(たけむら しゅんすけ)|Twitter
WORDS(ワーズ)代表。日本実業出版社→中経出版→星海社→ダイヤモンド社→7月より独立。担当作に『週刊文春編集長の仕事術』『佐藤可士和の打ち合わせ』『ぼくらの仮説が世界をつくる』『SNSポリスのSNS入門』『女子高生社長、経営を学ぶ』などがある。
藤村能光(ふじむら よしみつ)|Twitter
ウェブメディアの編集記者としてキャリアをスタート。その後、サイボウズ株式会社で無料グループウェア「サイボウズLive」のマーケティングを担当。自社メディア、サイボウズ式の立ち上げに参画し、2015年1月より編集長を務める。サイボウズ式の運営を手がけるコーポレートブランディング担当の中途採用、絶賛募集中です。
長谷川賢人(はせがわ けんと)|Facebook|Twitter
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科を卒業。2009年に新卒で紙の専門商社へ入社後、2012年に編集者/ライターへ異業種転職。株式会社メディアジーンにて「ライフハッカー[日本版]」副編集長、株式会社クラシコムにて「北欧、暮らしの道具店」編集スタッフを経験した後、2016年9月よりフリーランスへ転向。ウェブメディアを中心に、インタビュー、対談構成、記事広告などを執筆・編集多数。
フリーランスか、会社員か
── 最初のテーマは「フリーランスか、会社員か」。竹村さんは6月末でダイヤモンド社を退職されたばかりですが、独立を決断された背景を伺えますか?
竹村:僕は(コンテンツをつくる上で)自分が感動したものを、一番遠くに飛ばせるメディアを選びたいと思っています。それは本でもいいし、noteやTwitterでもいい。本でもウェブでも縦横無尽に動けるということを考えると、フリーランスという選択肢はアリだなと思ったんです。
もちろん、会社員でもできることはありますが、別の会社から本を出版することはできませんよね。ダイヤモンド社の社員だからダイヤモンド社からしか出せないというのは、出版社にとっても著者にとっても、もったいない。
ウェブがなかったころは出版社に頼るしかなかったけど、今はSNSで編集者個人も発信できる時代です。今までフリーのライターや編集者は、出版社に企画を持っていくときに下請け扱いになりがちでした。
でも、ライターや編集者自身が発信力を高めておけば、「こちらでも拡散しますので、この企画をやりましょう」と、売り込みやすくなると思います。
ということもあって、去年からTwitterやnoteに力を入れ始めました。独立までにフォロワー1万人を目指していたのですが、独立発表時にちょうど到達しました。
── 長谷川さんは、フリーランス歴1年半ですね。
長谷川:仕事をした分だけ売上があがるというのは、フリーランスの醍醐味ですよね。その逆の怖さも然りですが。
ウェブメディアは、仕事はたくさんあるけれど安定したクオリティで任せられる人がいないという状況が続いています。ウェブ編集者あるあるとして、他の編集者に会ったら「どこかに良いライターいない?」から会話がはじまるほど。それに伴ってか、あるいはデジタル領域にかける予算が認められてきたのか、仕事の単価も上がっていることを実感しています。
さらに、フリーのいいところは関われる仕事の幅が広いということ。「会社員だとその出版社からしか本を出せない」と竹村さんが言われましたが、まさにそれで。
僕の場合だと、午前中に日本酒メディアで取材をしてから、午後に声優さんのインタビューをする…というようなこともよくあります。なので、興味が分散するタイプの人にはフリーは合っていると思います。
その一方で、専門性の伴うような大きくて長期の案件に関わりにくい葛藤もあります。藤村さんのように「サイボウズ式を一から作りました」という実績をつくりづらいんです。たとえば、メディアの根幹にまでは関われないとか、予算に全然タッチできないとか。そこで積める経験はまったく違うなと思います。
── その話を受けて、藤村さんはいかがでしょうか?
藤村:僕自身、「フリーか、会社員か」について考えたことはないですね。仕事が楽しかったから、会社にずっと勤めているというのが正直なところなんですよね。
長く仕事をしていると、自分に向いているものと向いていないものがわかってきます。僕は「1つのことに取り組むこと」「短期より長期で価値を作っていくこと」が好きなんだなと、キャリアを通してわかるようになりました。
それがたまたま、サイボウズという会社で続けられているということです。
また、ライターや編集者というのは、上を見上げるとめちゃくちゃすごい人たちがいるので、その人たちにはなれないだろうなという若干の諦めもありました。
── サイボウズの中での異動(マーケティング→オウンドメディアの立ち上げ・運営)は、キャリアプランの想定にありましたか?
藤村:まったくありませんでした。僕自身、大きな目標を定めて、それをブレイクダウンしていくというタイプではないので。今ここが楽しくてやりがいがあって、その仕事がまわりから評価いただけることに、喜びを感じるタイプです。
結果的に流されてきたという側面もあれば、やっていることはずっと、発見した価値を伝えるという仕事なんですよね。その伝え方が、記事コンテンツのときもあればイベント、動画、採用のときもある、という感じです。
ウェブだからできること、紙だからできること
── 紙とウェブの違いはどう感じますか?
竹村:まず、時間軸が違いますよね。紙の場合は1〜2年かけて1冊作るというのが当たり前です。最近作った書籍は3年、4年かけています。ウェブコンテンツとは時間の感覚が違うのかな、というのはありますよね。
どちらがいいというより、目的によって紙とウェブを使い分けたいと思っています。
バズることはなくても、長く残したいものであれば紙として形に残しましょう、広めたいものであればウェブで広めましょうというように、コンテンツによってフローかストックかを見極めることが大切ではないでしょうか。
逆にウェブコンテンツでも、長く残したいものがあれば紙にする、という動きもできたらいいなと思っています。
編集者が考える理想のライターとは?
── 竹村さんが、一緒に書籍を作るブックライターに求めるものはなんですか?
竹村:僕の理想は、おもしろいと思っているポイントが同じ人。 紙の話でいうと、「てにをは」は校正者がなんとかしてくれますし、文章の美しさとかもあるけど、そういう技術的なことよりも、性格や生き方的な部分が大事だと思っています。
一緒に取材をしていても、どうでもいいポイントに食いつくライターさんや、「今いいこと言ったじゃん!」というときに、すぐ次の質問にいってしまうライターさんもいます。いい文章を書くためには、企画の背景をわかっていないといけません。
いいライターはいい編集者でもあると思います。もう少し、編集者視点でライティングできる人が増えていくといいですね。
── サイボウズ式のような、企業のオウンドメディアに携わる 「インハウスエディター」が求めるライター像は、どのようなものでしょうか?
藤村:求めるライター像としては、視座が合う人ですね。視座というのは、ものごとを考えたり見たりする姿勢や立場のこと。
事業会社がやるメディアには、明確に目的があります。サイボウズの場合、ビジョンである「チームワークあふれる社会を創る」や「世界中にチームワークを届ける」という目的に向かって、すべての事業活動を行なっています。
メディアをやるときも同様に、そこに向かっていきたいと思っています。なので、まずはビジョンに共感してもらえることが重要です。
「なぜそれをやっているのか」を理解し、企画をするときも「なぜサイボウズ式でそれを必要があるのか」というのを言語化できる人だと、とてもいい仕事ができると思っています。
長谷川:僕は、「共感力」が備わっているかどうかが大事だと思います。メディアのコンセプトやビジョンを理解できて、かつメディアの基準に合わせてアウトプットできるか。
また、一緒に仕事をする編集者視点で言えば、現場で安心させてくれる人が理想です。たとえば、インタビュー中、ずっと不安な状態は嫌じゃないですか。「あっ、その話をスルーしちゃうんだ」とか、「逆にそこは突っ込むんだ!」とか。編集者ってカメラマンに指示を出したり、構成や取れ高のことを意識したりと、他のことにも気を遣う。
メディアが必要な記事をイメージできていて、かつ仕事を安心して任せられることが大事ですね。
竹村:長谷川さんって、仕事が頼みやすそうな感じがしますよね。フリーランスは、「忙しそうだな、これは頼めなさそうだな」と思われたらまずいなと思います。
長谷川:そこは絶対に大事だと思います。心がけているのは、どんなに忙しくてもスケジュールの確認が来たら爆速で返事をします。
この待ち時間が編集者の心労になることは、僕も経験があるからこそ痛いほどわかる。「予定を聞けば、ひとまず返事がもらえる人」って、頼みやすくないですか?
あと、僕が25歳で編集者1年目のとき、仕事を頼みやすい40代のライターさんがいたんですよ。人当たりがよくて、場数の足りないこちらを見下すこともしない。仕事上で不備があったら教えてくれるんだけど、決して経験を振りかざすこともない。
とにかく安心して一緒に仕事ができる人でした。そういう先輩が何人かいて、今でも仲良くさせていただいているんですけど、この人のように仕事をしていれば、ライターとして息は長くなるよなと実感しました。
だから人当たりの良さは大事だし、「付き合いやすい人でいる」ということは意識してますね。
記事の意図を「言語化」する
── メディアへの「共感力」が大切という話が出ましたが、それはどのように育てていけばいいのでしょうか?
藤村:たとえばなんですが、そのメディアが公開している記事の意図や想定読者、メッセージを自分で言語化してみる、というのはいいかもしれません。
サイボウズ式の場合でいうと、企画の成立条件を「タイトル」「想定読者」「その人になにを言って欲しいか」「なぜサイボウズ式でやる理由があるのか」「企画担当者の想い」という5つに絞っています。
このように、企画の成立した意図を考えてみると、そのメディアでやる理由というのが見えてくると思いますし、共感に近づいていくと思います。
最初は間違っていてもいいので、自分なりに考えて言語化するということを積み重ねるのが大事だと思います。
── スキルより前に、本質的な理解ができている人と仕事をしたいというのは、みなさん共通していますね。
人脈よりも「超正面突破」
── 「人脈」の作り方はありますか?
竹村:ダイヤモンド社だから人脈があって裏口からアクセスできるのではないかと思われることがあるのですが、実際はそんなことなくて。基本的に超正面突破なんです。企業さんのホームページから、代表アドレスにメールを送るということもよくあります。
会いたい人がいたら、試しに手紙を書いてみると、意外と返事があるものです。連絡をするだけなら、ノーリスクで傷を負うことはありません。
新国立競技場のデザインを手がけた隈研吾(くま・けんご)さんに執筆してもらいたいと思い、連絡をしたことがあります。世界的な建築家だから難しいだろうなと思っていたのですが、丁寧にメールを返してくださいました。本はいくつか話が動いているので、ということで断られてはしまいましたが。
毎日小さな実験をして、PDCAを回していく
── 続いて会場からの質問です。編集者視点を持つライターになるために、今日からできることはありますか?
竹村:僕は「企画がうけるかうけないか」「本が売れるか売れないか」「初版で終わるか増刷するか」という視点で、これまで編集者をやってきました。
そういう意味で、「note」はオススメです。どれくらいの人に読まれたか、シビアにわかります。
noteで書いてみて、うけた理由とうけなかった理由を考えてみる。日々試行錯誤することによって、徐々に勘が身についていきます。
まずはTwitterでもいいと思います。Twitterも難しくて、いいことを言ってもいいねがゼロのときもあって。でも、続けていると何がうけるのかというのがわかってきます。毎日小さな実験をしてPDCAを回していくのが、編集視点を身につける上で重要かなと思いますね。
藤村:編集の仕事は、主観と客観を行き来すること、自分が想定した人に意図が伝わっているかというのを意識することが大切だと思います。主観的に書いた記事が、意図通り伝わっていないということはよくあります。
SNSのコメントを見るのもいいんですけど、読者に会って直接話を聞くのもいいですね。参考になるし、次の企画につながることもあります。
長谷川:企画を立てて、誰かと作ることですね。編集者の人が立てた企画に従ってライティングしている人の場合なら、自分が企画を立てる側になってみるのがいいのではないでしょうか。アウトプット先は、それこそ竹村さんがおっしゃるようにnoteでもいいし、メディアに持ち込んでみてもいい。
編集側の仕事をすると、何が足りないのかが見えてくる。とにかく編集側にまわって、打席を増やすことが大事なんじゃないでしょうか。
10年後、どうなっていたい?
── 最後の質問です。皆さんは10年後、どうなっていたいですか?
竹村:僕は、ゆくゆくは出版社を創りたいと考えています。出版社といっても、イベントをやるかもしれない、サロンを作るかもしれない、ウェブをやるかもしれない。ウェブと紙を縦横無尽に行き来できる、新しい形の出版社をやるというのが夢ですね
あとは、おしゃれなオフィスがほしいです。青山あたりで、一階にサードウェーブ的なコーヒー屋さんが入っているような。
5年後がオフィスで、10年後が出版社ですかね。口に出していると割と叶うというのがわかってきたので、ドンドン言っていこうと思っています。出版業界は、幻冬舎の箕輪さんやNewsPicks界隈は盛り上がっていますが、全体的にシュンとしているので、新しいものを作りたいです。
藤村:僕は、10年後は特に考えていません(笑)。というのも、僕はやりたいことがないタイプの人間なんですね。人間は「やりたいことをやる人」と「ありたい姿で今を生きるという人」に分けられるみたいで、僕は後者です。
ありたい姿や自分にとっての幸せがわかっていて、まわりの人からの感謝を自分の中に積み重ねていくということを、これからも続けていきたいです。
ただ、生き方をアップデートしたいというのは思っています。ライター・編集者とは関係ない話なんですが、会社1本で仕事をしていく以外の生き方をしてみたいと思っていて。 今年から副業を始めたのですが、コミュニティに入ってみたり、コミュニティを運営してみたりなど、社会的なつながりを会社や家庭以外に作っていきたいです。
すなわち、自分の社会資本の蓄積をやっていきたい。信頼や人間関係など、お金には換算できない価値、資産を作る。そんな活動をしていきたいですね。
長谷川:僕は10年後、自分がフィットできる会社があれば、必ずしもフリーでいる必要はないと思っています。
インハウスエディターという言葉が使われ始めたのも、まだここ1年くらい。その価値がこのまま高まっていくのであれば、10年後は企業で働いているかもしれません。その土台を今、藤村さんたちが作ってくれていると感じています。乗っかる形で恐縮なんですが…。
また、事業を作りたいという気持ちもあります。フリーの怖さは、「仕事がこなくなるのでは?」ということ。それは自分だけではコントロールできません。だから、自分で仕事を生み出すしかない。 小さくてもいいので、マイビジネスをこれから5年くらいで持てたらいいですね。
Photo: 飯塚レオ