人を説得することに関するアドバイスの多くは、相手と比較的対等な力関係にある場合を想定しています。
しかし、ときには上司やそのまた上司、プロジェクトリーダーなど、組織の中で自分より上の階級の人を説得する必要があります。その場合、次のような4つの具体的な戦略が必要です。
- 相手と共通の目標を議論の中心に持ってくる
- 相手に当事者意識を持たせて一緒に考えさせる
- 組織の力関係が及ばない中立的なスペースに移動して話し合う
- 説得を試みた後に取るべき次のステップを考える
このアプローチは職場に限らず、階級が存在するあらゆる組織で効果を発揮します。もちろん、議論の参加者の考え方に多少は共通点があり、それを前提に議論していける限りはですが。
この戦略を構築していくにあたり、Buster Bensonさんが書いた『Why Are We Yelling?: The Art of Productive Disagreement』という本を多分に参考にしました。
本書は、あらゆる種類の文脈における、あらゆる種類の議論に関してアドバイスを提供していて、何らかの合意に至ることなどあり得ないと普通なら思うようなケースも扱っています。著者のBensonさんに、職場でどのように彼のアイデアを応用すべきか話を聞きました。
1. 共通の目標(利益)を話の中心にする
組織の中で誰かを説得するときは、相手と共通の目標(利益)を考えて、それを説得の材料にしましょう。
具体例①:新しいプロジェクトを始めたい
たとえば、あなたが新しいプロジェクトを始めたいとします。
あなたは、このプロジェクトに取り組めると充実感を得られそうな点が魅力的だと思っていますが、上司にとってはどうでしょう。上司にとって部下の充実感はあまり重要ではないかもしれません。
この場合、このプロジェクトを始めたいというあなたの思いは大事にしていいのですが、それを議論の中心に置かない方が賢明です。そのプロジェクトが多少なりとも組織や上司の利益になりそうなら、その点を強調すべきです。
次の実例は私自身の話です。
私は、米Lifehackerでピアノ演奏に関する記事を書きたいと思っていました。理由は、ピアノが弾けるようになりたいと個人的に思っていて、その記事を書いてお金になるなら一石二鳥だと思ったから。
この場合、私が強調すべき点は、「ビデオを使った記事にできること」でした。なぜなら、米Lifehackerは常にビデオを使った記事を増やしたいと思っているからです。
さらに、ピアノを教えるテクニックもカメラで撮影されることにも慣れているピアニストに心当たりがあるので、ビデオ撮影は簡単にセットアップできることも主張しました。
また、このアプローチが米Lifehackerの「ハック」すなわち、楽に手早く、正当に問題を解決するというコンセプトにフィットすることも説明しました。
その結果、『How to Fake Playing Piano』シリーズが誕生したのです。
具体例②:昇給の交渉をしたい
「昇給」のお願いは、片方が得をした分もう片方が損をするゼロサムゲームに見えるかもしれませんが、昇給することで少なくとも「社員を会社につなぎとめられる」点や「社員の士気を保てる」点を強調すれば説得しやすくなります。
また、昇給の見返りとして自分はどのような形で相手のためになることができるかも予め考えてから、交渉に臨む必要があります。
ただし、組織のヒエラルキーの中では、権力がある方が有利です(会社は、社員から給料分以上の見返りを得ることで存続できています)。
とはいえ、なるべく「交渉」の枠組でなく「ブレインストーミング」の枠組みにするように心がけましょう。
そうすれば、交渉の綱引きをした結果として片方だけが一方的に譲歩する事態にならず、双方にとって良い着地点を一緒に探すことができます。
この場合、意見を出し合うことが、将来双方に利益をもたらす新しい可能性を見つけるチャンスになります。
相手と共有している価値、制限、利点、目標を考えつくだけ考えて、共有項にこちらから提案するソリューションを絡めましょう。
自分の力を放棄するわけではなくて、こちらが欲しいものを手に入れると上司も欲しいものが手に入ることを戦略的に指摘するのです。
いつどこで作業を行うのか、何かを自分で決めるときはどのような場合に外部の承認が必要か、指揮系統の中で自分の立ち位置はどこかなど、通常の作業プロセスで想定されるあらゆることを明確にしましょう。
2. 相手に当事者意識を持たせる
Bensonさんは、議論するときブレスト的アプローチを「可能性の声」と呼んでいます。
これは、権力・回避・理性の声を意味します(ヒエラルキー上では、理性の声でさえ有効なアイデアを却下するために頻繁に使われています)。
そして、こちらがこうしたアプローチを取ると、相手も同じアプローチになるかもしれません。ですから、これは上司に監督者ではなく同僚の立場で考えてもらうには最適な方法です。
Bensonさんの「可能性の声」は、「私たちに欠けているものは何ですか?」「今あるもので他に何ができますか?」「誰を会話に参加させたら新しい意見をもらえるでしょうか?」といった問いかけをします。
社内権力の点でこちらが不利な場合、こうした質問をすることで相手を脅かさずに現状について質問することができます。
このような「可能性」に関する質問はすべて、「私たち」に何ができるかを尋ねています。両方の当事者が一緒に答えを探せるようにしているのです。
不利な立場にある場合、質問することが大切です。「なぜこの意見に至ったのですか?」とか「私たちは一緒にどのような結果に到達できますか?」という形で質問しましょう。
質問をすると、上司は正直に情報をシェアしやすくなります(レバレッジはこんなふうに利かせましょう)。
上司は、自分の意見を理解してくれていると感じれば協力的になり、お互いのためになる解決策を考えてくれる可能性が高くなります。お互いに相手が気に入る解決策を見つけ合えるようになれたら理想的です。
3. 職場の力関係がなくなる場所に移動する
同僚と仕事帰りに飲みに行ったことがあるなら、職場を出て中立的な空間に移動する効果がわかるはずです。
バーに行くと、すぐに会話の種類や方向性が変わります。店内の装飾、音楽、アルコールが力関係を変えるのです。職場から出て別の場所に行くと、これと同じ効果があるので職場の精神的な重圧を持ち込まずにすむでしょう。
ですので、組織の上層部を説得したいときは、普段の権力の力学が強く発揮されるオフィスや職場から出て話しあうようにしてみましょう。
完全に職場から出られたら理想的ですが、それが無理なら平等な立場で考えを共有できるスペースを職場の中で見つけましょう。
普段ブレストを行うスペースなら、円卓と同じ形の椅子が揃っていて物理的にも平等意識を感じさせ、ブレストで交わされるような言葉で会話できれば、会社からの告知のような一方的な話は避けられるはずです。
精神的な影響も考慮して適切なタイミングを選びましょう。大きな締切や緊張を強いられる会議の直前は避けてください。飲食すると有利になるか害になるかも検討しましょう。
感じ良く、オープンな会話をしたことがあるなら、それは、いつ、どこで、何をしているときにできたのか思い出しましょう。そして、できるだけそのときと同じ方法を再現してください。
4. 次のステップを考える
上司と話し合う前に、考えつく限りの質問の答えを自分で考えましょう。そこから、自分は本当は何を求めているのか良く考えてください。
自分の望みを吟味して、なぜそれを望むのか自問すると、根本的に望んでいるものがわかってきます。
たとえば、あなたが現在取り組んでいるプロジェクトを止めてしまいたいと思っているとします。なぜそう思うのでしょうか?
- 手ごわいプロジェクトだから?
- プロジェクトを進めるにはサポートしてもらった方が良いから?
- もっと時間が必要だから?
- こんなプロジェクトは意味がないと思うから?
もしかしたら、本当に求めていることは「もっと明確な目的意識」だったり「プロセスの改善」ではないでしょうか。
何らかの合意に達したら、議論の後半にかけては「共通の目標に到達するためにより良い道を見つけたら、自分の裁量でその道を選んでいいですか?」と尋ねることをBensonさんはすすめています。
これは現実的な質問であり、さらに、誰も「NO」とは言えない質問でもあります。
そして、それまでの会話を協力的なブレストに持ち込めたら、あなたががする質問はすべて「お互いが望むことは実現可能か」という質問に化けてしまいます。
たとえその答えが「NO」であっても、それはそれで意味はあります。
その場合は、もしかしたら転職した方がいいのかもしれません。あるいは、もっと社内権力の強い人に相談すべきかもしれません。
こちらのリクエストに応じてもらえなくて、共通の目標を達成する許可さえもらえなかったら、次のプランを立てましょう。無駄な戦いはせず、現実が分かって良かったと思うのです。
Bensonさんの本は、交渉、ディベート、生産的な議論に関して多くのアドバイスを提供しています。日常的な人間関係の問題から大がかりな政治的紛争まで、さまざまな対立を幅広く扱っています。
説得の成功は、この本が探求する多くの結果のうちの1つにすぎません。
また、この本を読むと、思い通りになること以上の価値を見つけることで「勝てない」議論に折り合いをつけることができるようになります(でも、読者の皆さんには物事が思い通りに行うようにと願っていますよ)。
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Image: Dmirty Guzhanin(1, 2, 3) Doyata/Shutterstock.com
Source: Buster Benson
Nick Douglas – Lifehacker US[原文]