保護犬から“女優犬”へ スクリーン・デビューしたミノルカちゃん、飼い主の心配をよそに堂々と演じ切る

岡部 充代 岡部 充代

 山の中をさまよっていた野犬から生まれた1匹の犬が、映画デビューを果たしました。名前はミノルカ。茶色い毛並みで大きな耳と黒いマズルが特徴…野犬によくいるタイプです。ミノルカちゃんは認定NPO法人『アニマルレフュージ関西(通称アーク)』から里親さんに譲渡されるも2度脱走。アークに出戻り、その後、『BOYS BE…』などの作品で知られる漫画家・玉越博幸さんの家族に迎えられました。アークに保護されなければ、母犬と一緒に山で暮らしていたかもしれない元保護犬ですが、スクリーンに登場したのですから、もう立派な“女優犬”です。

 出演したのは昨秋公開された『駅までの道をおしえて』(原作・伊集院静氏、監督・橋本直樹氏)。音楽ユニット『Foorin』の最年少メンバーであり、映画やドラマで活躍中の人気子役・新津ちせちゃんが主演を務めたことでも話題になった映画です。それぞれ大切な存在を失った少女と老人の交流を通じて、少女の成長を描いた物語。そこには「ルー」と「ルース」という2匹の犬が大きくかかわっているのですが、ミノルカちゃんは「ルース」役を見事に演じ切りました。

 玉越さんとミノルカちゃんの出会いは2018年春。15年一緒に暮らしたジャックラッセルテリアのジャッキー君を亡くし、まだ立ち直れていない頃でした。家から程近い場所で東京アーク主催の譲渡会があると知り、足を運んだそうです。

「飼うつもりはありませんでした。ただ、犬に触れたら心が楽になるかなと。でもミノルカの目を見たとき、『コイツ、生きてる!』と思ったんです。生命力を感じました」(玉越さん)

 奥様も同じように感じたそうですが、即決はせず、子供2人を交えて明け方4時まで家族会議をしました。

「この先15年、いいことばかりじゃない。それでも責任を持って飼えるのか話し合いました」(玉越さん)

 もう一度ミノルカちゃんに会いに行き、正式譲渡に至ったのはそれから2週間後のことです。

 玉越家に来る前、ミノルカちゃんは預かりボランティアの西岡裕記さん宅で暮らしていました。映画出演の打診は、その西岡さんからあったと言います。

「もともとミノルカを譲り受けたとき、西岡さんの紹介でポスターのモデルをさせてもらったんです。女優の杉本彩さんの団体(公益財団法人動物環境・福祉協会Eva)が毎年、作っている啓発用のポスターの。そのこともあったのか、今度は『監督が野良犬みたいな犬を探している』ということで、うちに会いに来られた。当時のミノルカはガリガリに痩せていて、見た目はまさに“野良犬”。監督のイメージにピッタリだったようで、出演が決まりました」(玉越さん)

 西岡さんはドッグトレーナーで、映画に登場するもう1匹の犬、ルーのお世話係として製作に携わっていたのです。

 撮影初日。玉越さんは不安を抱えながら現場に向かいましたが、ミノルカちゃんがその不安を吹き飛ばしてくれました。

「のびのびしていましたね。素のままという感じでした。それでいて、みんなが『こうしてほしい』と思っていることはちゃんと理解していた。例えば、ミノルカが走ってくるシーンの撮影では、私とカミさんがカメラの後ろから呼ぶんですけど、普通なら4~5回で飽きてしまいます。でも10回くらい頑張ってくれましたからね」(玉越さん)

 ルーちゃんとは最初から相性が良く、適度な距離を保ちながら仲良く遊んでいました。そんな姿を見ているうちに、いつしか「ルーがうちに来たらどんな感じかな」とシミュレーションをするようになった玉越夫妻。すると撮影が終わる頃、監督から思いがけない提案がありました。「ルーを飼いませんか?」

 実はルーちゃん、映画出演のため監督が某所から引き取った後、主演のちせちゃんと一緒に暮らしていたのですが、まだ正式な家族は決まっていなかったのです。ミノルカちゃんのときとは違い、今度は即決。映画で出会ったミノルカちゃんとルーちゃんは、こうして玉越家で一緒に暮らすことになりました。

「ミノルカとルーが来て、家族がリビングに集まるようになりました。子供たちは成人していて、それぞれの部屋にいることが多かったのですが、会話も増えましたね。2匹が家族の懸け橋になってくれています。犬は群れで生活する習性があるからか、家族が集まると喜ぶ。その姿を見てこちらも笑顔になる。いい循環ですね」(玉越さん)

 4月22日、『駅までの道をおしえて』のBlu-rayとDVDが発売になりました。主要サイトでの配信もスタートしています。保護犬から女優犬になったミノルカちゃんのシンデレラストーリーを頭の片隅に置いて、“STAY HOME”のお供にいかがでしょうか。

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