早稲田大学は、同大学理工学術院先進理工学研究科片岡淳教授、広島大学大学院理学研究科の高橋弘充助教、宇宙科学センターの水野恒史准教授、東京大学大学院理学系研究科釡江常好名誉教授、名古屋大学宇宙地球環境研究所田島宏康教授ら、日本とスウェーデンのPoGO+(ポゴプラス)国際共同研究グループが、2-16万電子ボルトのX線(硬X線)で、天体からの偏光を高い信頼性で検出検出したことを発表した。この成果は8月10日、英国科学誌「Scientific Reports」のオンライン速報版で公開された。

PoGO+気球実験(出所:早稲田大学ニュースリリース)

地球上には宇宙線と呼ばれる高エネルギー粒子が宇宙から降り注いでいる。宇宙線は銀河系内の超新星残骸やパルサー星雲、銀河系外の活動銀河核などで生成されると考えられているが、加速するメカニズムには未解明な点があり、そのひとつが生成現場における磁場の強度と方向である。

偏光観測は、イメージとして見ることのできない天体の磁場情報やイメージでは空間分解できないようなミクロな構造・物理を調べることができる強力な手段であり、イメージ、タイミング、エネルギー測定とは相補的なプローブであるが、とくにX線やガンマ線の観測では精度の良い偏光観測はほとんど実施できていなかった。

研究グループは、直径100mにも膨らむ大気球を2011~2016年の3回にわたりスウェーデンから放球し、検出器の性能を向上させてきた。人工衛星に比べて気球実験は、新規探索のサイエンスに向いている、最先端の技術を利用できる、経験に基づいて改良を加えられるという利点があり、これらメリットを活かして昨年の3回目のフライトで硬X線の帯域において、信頼性の高い偏光情報を得ることに世界で初めて成功した。この結果は、これまで観測されていた1桁エネルギーの低いX線の偏光情報とおおむね一致するものであった。

硬X線を放射している宇宙線は、X線の場合に比べてエネルギーを失ってしまう寿命が1/3と短く(3年)、「かに星雲」のより中心に近い領域から放射されていると考えられる。今回の偏光の観測結果は、パルサーに近く磁場の向きが整ったままである(偏光度も高い)と予想されていた場所において、すでに磁場の向きが乱れていることを示すものだ。

研究グループは今後、「ひとみ」衛星をはじめ、他の衛星の観測結果や理論研究から、磁場構造などのパルサー星雲の描像が明らかになり、どのように高エネルギー宇宙線が加速されているのか理解が進むことが期待されると説明している。

また、PoGO+グループでは3回目のフライト中に「かに星雲」に加えブラックホール連星系「はくちょう座X-1」の偏光観測も実施していくとしている。この観測結果からも、恒星からブラックホールへ降着する物質の幾何学的な構造を明らかにすべく、データ解析が進められている。