マツダが8月8日に公表した技術開発の長期ビジョン「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」。その中で、技術の目玉として紹介されたのが新しいエンジン「SKYACTIV-X」だ。マツダが「世界初の実用化」に成功したという新エンジンだが、どこが画期的なのか。

マツダが世界で初めて実用化する新エンジンは何が画期的なのか(画像はマツダ初のロータリーエンジンを搭載した量産車「コスモスポーツ」、AUTOMOBILE COUNCIL 2017にて撮影)

まずはエンジンの基本をおさらい

SKYACTIV-Xは、ガソリンを燃料としながら、従来からのスパークプラグによる火花点火と、軽油を燃料とするディーゼルエンジンで行われている圧縮着火を組み合わせることにより、排ガス浄化と燃費向上、そして動力性能の向上を同時に実現する新しいエンジンだ。

まず、技術の理解を深めるため、根本的な話からはじめる。

ガソリンエンジンでの火花点火は、ガソリンと空気の混合気をピストンが圧縮したところで、スパークプラグの電気的火花によって着火し、その火炎が燃焼室内を伝播していく(燃え広がる)ことでガソリンの燃焼が完了する。

ディーゼルエンジンの圧縮着火は、空気をシリンダー内に入れておき、ピストンが空気を圧縮したところで軽油を燃焼室内へ噴射して、圧縮された空気の温度上昇によって軽油に火が付くことを利用する。例えば、自転車のタイヤの空気入れを使うと、空気入れが熱くなってくるのは、空気が圧縮されることによって熱を帯びるからだ。その熱を使って軽油を燃やすのがディーゼルエンジンである。人工的に着火せず、燃焼室全体の圧縮と温度上昇でいっぺんに軽油に火が付くので、短時間に燃え尽きるという利点がある。

マツダのエンジンラインナップに新たに登場するのが「SKYACTIV-X」だ

エンジンによって異なる圧縮比に注目

圧縮着火を実現するため、ディーゼルエンジンはガソリンエンジンの2倍ほど高い圧縮比を利用している。一般的に、ガソリンエンジンの圧縮比が10程度であるのに対し、ディーゼルエンジンは20とされている。

また、空気を採り入れる吸気管に、シリンダーへの流入を調節するスロットルバルブが無いので、ピストンが空気を吸い込むときの抵抗がなく、「ポンピングロス」と呼ばれる損失が無いことも、ディーゼルエンジンの燃費の良さに貢献している。ポンピングロスとは、たとえば注射器や水鉄砲の出口を指でふさぐと、ピストンを手前に引きにくくなるが、指を離せばスッと引けることから想像してほしい。

こうしたディーゼルエンジンの利点を、ガソリンエンジンでも実現できないかと考えたのが、予混合圧縮着火(HCCI)と呼ばれる技術だ。つまり、ガソリンでもスパークプラグ無しで、ピストンの圧縮だけで着火できないかという研究・開発である。