独身の間は気楽で、なかなか将来の設計も他人事かもしれません。筆者が若い頃に住宅メーカーでセールスエンジニアとして働いていた時に、住宅雑誌の取材を受けたことがあります。その時の記者の言葉が印象的でした。結婚年齢が比較的低かった当時、独身で30歳に近づくとそろそろ住まいを購入した方がよいのではと思い始めるようです。

しかし、住まいを購入してしまうと、特に女性はこのまま独身を続けてしまう様で、ちょっと躊躇(ちゅうちょ)するといった気持ちになるようなのです。低成長時代になり、資産形成の大切さが認識されてきた現在ではどのように意識が変化したのでしょうか。

  • 独身の不動産購入 - メリットとデメリット

若い時、独身の時はリスクが少ない

若い時代は収入も頭金にする貯蓄も少なく、住宅ローンを組むのはリスクが大きいと考えがちですが、若い世代や独身ならではの利点もあります。収入が少なければよほど節約しないと頭金は用意できませんし、昔から「一人ぶちは食えないけど二人ぶちは食える」と言われるように独身生活は何かと浪費しがちです。でもアリとキリギリスの話にもあるように、先手必勝なのです。子供ができた段階で苦しい思いするよりも、より若い時に頑張れば、その分リスクは少なくなります。

若い世代の住まい購入のメリット

  • 若く、体力もあり、病気等のリスクも少ない
  • うまくいかない事態が発生しても、十分取り返せる年代
  • 親も現役であれば、一時的な支援を受けられる
  • 子供の養育費等がまだ不要で、余裕がある

住まいを購入するときは万一の対策もあらかじめ考えておきましょう。下記は一例ですが、自分のケースをいろいろ考えてみてください。

リスク回避の事前対策

  • 賃貸にしてローンを返せるかどうか、家賃想定額や市場性を調べておく
  • 売却する際は、売却額がローン残高を下回らないか、地域の中古物件状況を調べておく
  • 月々余裕をもって返済できるように、ローンの返済期間を長めに設定する。余裕分は貯蓄し繰り上げ返済をする
  • 万一の場合は一時的に親に頼れるか親と話しあっておく
  • 最初に親に借金して、ローン負担を少なくし、万一の場合に備える。ただし、贈与とみなされないように借用書を作成し、多少なりの利子をつけて返済している履歴を残すことが大切

安易な不動産購入は、大きなリスクがある

若い時代の不動産購入はメリットがあるとは言え、安易に購入することは大きなリスクを伴います。手ごろな値段だというだけで、収益を目的に不良物件を2つも購入した案件がありました。本人は4人家族で1部屋に間借りして暮らしていて、奥さんが働き始めてようやく自分たちが住む物件を考え始めた時に、手持ちの不良物件がなかなか売れませんでした。中古物件を購入するケースもあると思いますが、中古物件の中には違法物件もあります。同じ規模の間取りに建て替えられるとは限りません。盛土や擁壁の強度が不十分と思われる土地も少なくありません。

マンションも同様です。私自身が住まいを購入しようと思ったとき、多くのマンションを見学しました。しかし将来とも資産として、活用できると思った案件はごく僅かでした。現在の住まいは多少高かったのですが、駅近で敷地が広く余裕をもって建てられていていたので、数10年後の今も当時の価格の1.5倍を維持しています。今後建て替え時期が来るマンションが増えていきますが、資金面など簡単ではないでしょう。我が家のケースは、敷地の余裕分をフル活用して、増えた床面積分を売却して建設資金に充当すれば、少なくとも最初の建て替えはわずかな拠出で建て替えられそうです。

不動産は市場価値があってこそ、購入価値があります。特に若く世代や独身世代は、結婚や転勤・転職などで環境が変わりやすく、それら伴い不動産の買い替えや活用が必要となるケースが多いと思います。資産に余裕があり、自分が確実に生涯使い続ける場合であれば市場性は必要ないかもしれませんが、そうでない限り資産価値は十分に検証してから購入しましょう。

身の丈にあった物件からステップアップしていく

最初は無理せずに、現在住んでいるアパートからあまりかけ離れない規模のものからスタートしてみましょう。親元に住んでいる場合は同年代が一般的に借りているアパートを参考にしてください。まずは家賃を節約することからスタートします。親と同居している場合は、家賃相当額を投資するつもりでスタートしてください。余裕ができたときや結婚したら、より広い物件に買い替えたり、賃貸物件としたりして資産形成に役立てましょう。

資産形成だけでなく、「自分の城」があるということは精神衛生的にも意味があります。私もアパートを借りていた時期もありますが、いつも仮住まいのような感じで落ち着きませんでした。苦あれば楽あり!不動産投資は住まいばかりではありませんが、まずは自分が住む、または住むことをイメージしてスタートしてみてください。

■ 筆者プロフィール: 佐藤章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。