超純水をぜんぶ抜く理由

2018年9月9日、岐阜県神岡にある東京大学宇宙線研究所付属神岡宇宙素粒子研究施設において、報道関係者向けにスーパーカミオカンデのタンク内が公開された。同研究所は、2018年5月末からスーパーカミオカンデの改修工事を行なっており、タンク内の超純水が12年ぶりにすべて抜けたタイミングで公開が行われたので、その模様をお届けする。

  • スーパーカミオカンデ

    スーパーカミオカンデ

今回の改修工事の目的は、性能向上の関わるものになる。ひとつめは止水補強工事。スーパーカミオカンデでは、1日あたり約1トンの超純水漏れを確認しており、その止水策としてタンク内壁のステンレスパネルのつなぎ目に止水処理を実施した。タンク上から見た場合、2mおきに溶接部があるため、それに合わせて超純水を抜きながら作業を進めてきた形だ。

2つめは循環系統の強化。次期実験からは後述するガドリニウムの追加を予定している。その際、タンク内のガドリニウム濃度と透過度を確保するために、循環速度を60t/hから120t/hの強化を行なっている。

3つめはエラーの生じている光電子増倍管の交換。上記しているように最後にタンクが空になったのは、12年前であり、数百の光電子増倍管を止水作業をしつつ交換している。ちなみに、光電子増倍管は内側に11,129本、外側に1,885本。掲載している写真でも分かるが、よくわかんない光景だ。

タンク内へのアクセスは、底部にあるマンホールから。普段は水没しているトンネルを通って、風除室でクリーンスーツに着替え、タンクの底へと向かった。

  • タンクの構造

    タンクの構造。内側と外側に光電子増倍管があり、よく知られる光景は内水槽のものになる

  • 風除室

    風除室

  • マンホールからタンク内へ

    マンホールからタンク内へ。超純水をすべて抜いたあとは、ここからも作業資材を搬入している

  • 外水槽の中を移動する形で、底部の開口部へと移動

    外水槽の中を移動する形で、底部の開口部へと移動した。足場は脚立と発泡スチロール製のふたつで、手持ち撮影運動会になった

  • 外水槽側の光電子増倍管は直径20cm

    外水槽側の光電子増倍管は直径20cm。また壁と床の先は岩盤だ。高さは2mほどで移動しにくいことはなかった

  • 施設長である中畑雅行氏

    施設長である中畑雅行氏。「これからも世界のトップを走り続けたい」と語っていた

  • 内水槽

    というわけで内水槽。見渡す限り、光電子増倍管だ

  • タンク上部の点検口周辺

    タンク上部の点検口周辺。資材搬入は点検口からゴンドラを使用している

  • 光電子増倍管のアップ

    光電子増倍管のアップ。ドーム型カバーに照明やほかの光電子増倍管が映り込んでいる

  • 内水槽側の光電子増倍管は直径50cmのタイプ

    内水槽側の光電子増倍管は直径50cmのタイプ。あまり真横から並んでいるところを見たことがなかったのでうれしかった

  • 展示されていた光電子増倍管

    展示されていた光電子増倍管。タンク内の色合いは照明に寄るものなので、実際の色としては写真の通りになる

  • スーパーカミオカンデ内部の色合いの違い

    上部、側面、底部ともに同じものが並んでいるのだが、色合いの違いが目立つ

  • 点検口から見たところ

    点検口から見たところ。妙に発光している感じに見えるのは、光がわりとストレートに戻ってきているからと思われるが、底部とは見え方が違っており、面白かった

  • 2018年6月時点の点検口

    こちらは2018年6月時点の点検口。超純水は無色透明だが、反射した照明の波長が青ばかりだったので、こんな感じだった

  • 色の濃いものが1991-1995年製、色の薄いものが2002-2005年製の光電子増倍管

    底部の光電子増倍管に色の違いを確認できただろうか。底部からはなんとなく色の違いはあったのだが、点検口からはより明確だった。色の濃いものが1991-1995年製、色の薄いものが2002-2005年製

超新星背景ニュートリノの観測を本格化

これまでは超純水のみで、陽子崩壊の発生を待ちつつ、ニュートリノの観測を行なってきた。また約295km離れた東海村にあるJ-PARCからのニュートリノビームを利用したT2K実験(Tokai 2 Kamioka)でニュートリノ振動の観測も実施している。2019年以降の実験からは、これにガドリニウムを追加することで、超新星背景ニュートリノの観測性能向上を狙う。

超新星爆発は、宇宙全体からすると、数秒に1回程度の割合で起きており、超新星背景ニュートリノは、人間の手のひらを例にすると毎秒数千個は通りすぎているものだと考えられている。ただこれまでのスーパーカミオカンデの仕様では、年に数回は超新星背景ニュートリノの反応を検出していたハズだが、ノイズにうもれてしまっていたという。

そこで、ガドリニウム濃度を0.01%にして分かりやすい反応を得る。仕組みとしては、もっとも反応しやすい反電子ニュートリノをターゲットとし、反電子ニュートリノがタンク内で反応すると陽電子のチェレンコフ光だけでなく、反応時に飛び出た中性子がガドリニウムにつかまった際に生じるガンマ線でもチェレンコフ光が生じる点を利用している。データ的にふたつのチェレンコフ光が、ほぼ同時に50cm以内に発生するため、判別しやすいというわけだ。

  • エレキハット内部
  • エレキハット内部
  • 光電子増倍管1基ごとからの情報を受け取るエレキハット内部も少しだけ見ることができた。エレキハットはタンク上部に複数配置されており、稼働時には500GB/Dayのデータが生じるそうだ

実験再開は2019年からで、2018年9月以降、順次注水していき、12月には満水になる予定。まずは超純水のみで実験を行ない、折りをみてガドリニウムを追加するとのことで、2019年内もしくは、2020年初頭には新仕様での観測開始となるそうだ。

最後に冒頭カットの壁紙バージョンを掲載しておく。解像度は4K UHDTVとしたので、だいたいの環境に耐えるだろう。スマホの場合は画像の回転で対応してほしい。

  • スーパーカミオカンデ

    スーパーカミオカンデの4K UHDTV解像度(PCの場合は右クリックで画像を保存)。なお、著作権など一切の権利を破棄していないので、個人が楽しむ範囲での使用をお願いする。念のために記しておくとトリミングなどの改変、また配布は禁止であり、個人が所有するPCやスマホの壁紙にする以外の使用を確認した場合は、弁護士を通じて相応の措置を行なう

9月13日追記:本稿初出時、「光電子倍増管」と記載しておりましたが、正しくは「光電子増倍管」となりますので、当該箇所を修正させていただきました。