Appleは2010年のiPhone 4に、A4という自社設計のプロセッサを用意し、以降その発展に注力してきた。その過程では、モーションコプロセッサの内蔵、スマートフォン初の64ビット化、グラフィックスチップの自社設計化、機械学習エンジンの内蔵など、いくつものマイルストーンを通過してきた。

  • A12 Bionicのアーキテクチャ。7nmプロセスルールによる製造で、小型化、省電力化、集積化が進む

iPhone XSシリーズに採用されたA12 Bionicは、スマートフォンとして初めての7nmプロセスによって作られた。TSMCに対して、億単位のオーダーをかけられるAppleだからこそ実現できたとみてよいだろう。

  • TSMC製造のA12 Bionicは、スマートフォン向けプロセッサとして初めての7nmプロセスルールで製造された。モバイル向けでは処理性能の向上とともに、省電力化の恩恵が得られる

一般的にチップの微細化がもたらすものは、デバイスの小型化や省電力化、集積度の向上、そして処理性能の向上だ。中でも省電力化は、モバイルデバイスにとって重要な要素であり、Intelのようなパソコン中心のプロセッサよりもより厳しい電力環境での高速な動作を実現させなければならない。

  • メインプロセッサはA10 Fusion以来の性能コア・効率コアの組み合わせ。今回は処理性能以上に、省電力性を強調している

Appleは今回のA12 Bionicで、どんな優位性を獲得したのだろうか。

A12 Bionicは前世代のA11 Bionicと同じく、性能コア2つ、効率コア4つの構成になっている。しかしグラフィックスは3コアから4コアへ、機械学習処理を行うニューラルエンジンは2コアから8コアへと、大幅な進化を遂げている。

2017年に発売されたiPhone Xですら、今でも十分に通用する処理性能を備えていた。iPhone XのGeekbench 4での処理速度のベンチマークは、2018年にフラッグシップモデルとして登場したSamsung Galaxy S9よりも高いスコアを示している。

  • Geekbench 4でiPhone XS Maxの処理能力を計測したところ。A11 Bionicからの性能の向上早く15%に留まることが分かる

iPhone XSに搭載されたA12 Bionicは、A11 Bionicに対して処理性能で15%、グラフィックスで50%程度の高速化を実現している。ベンチマークだけでなく、アプリを使う上で重い処理についても高い性能を示す。iPhone XS Maxで撮影した2分程度の4Kビデオを1080pに変換しようとすると、手元のデバイスでは40秒以内に書き出しが終わる。昨年のiPhone Xでは45秒かかっていた処理だ。これをAndroidスマートフォンのハイエンドモデルで行うと、2分半から3分半かかってしまう 。

また人気ゲームタイトルのForniteの起動は21秒で昨年から5秒高速化、Pokemon Goも5秒以内に起動し、こちらも2秒以上速くなった。AndroidユーザーがiPhone XSシリーズに乗り換えると、その処理速度に驚かされることになるはずだ。

一方、3Dグラフィックスについては、一部のテストで、Samsung Galaxy S9、Galaxy Note9、OnePlus 6といった2018年モデルのフラッグシップAndroidスマートフォンに軍配が上がる。とはいえ。グラフィックスについても2018年の競合と同等のレベルには達しているので、申し分ないと評価できる。