富士通研究所と早稲田大学 理工学術院の高橋真吾教授は12月7日、人間行動シミュレーションの結果から混雑につながる原因を自動で分析する技術を開発したと発表した。

イベント会場や空港、ショッピングモールなど、多くの人が集まる場では、混雑による顧客満足度や売上の低下が問題となることがあり、現状では入退場や支払いなどへの設備・対応人員の増強以外に案内板の設置やクーポン配布による空いている場所や時間に誘導する方法などで混雑の緩和を図っているが、効果的な対策を行うためには、人々の属性と、属性に伴う情報を認知し、どのような行動をとるかを知り、効果的な混雑緩和の手法を採ることが重要だという。

これまで、富士通研究所および富士通は国内外で16件の特許出願を行うなど、精緻なシミュレーションを可能にするエージェントのモデルに関する研究を進めてきたほか、早稲田大学の高橋研究室では組織システム、消費者行動、企業戦略など、さまざまな社会システムの課題解決のためのエージェントベースシミュレーションを開発している。

従来は、専門家がシミュレーションによる大量のデータを分析し、知見やノウハウに基づいた混雑原因と対策の仮説を立て、再度シミュレーションにかけて検証するという試行を繰り返していたことから、原因を分析して施策を決定するまで数カ月要するほか、原因の見落としにより有効な施策を見つけられないなどの問題が起きているという。

そこで、人間行動シミュレーションから、混雑に関係するエージェントの特徴を網羅的に自動分析する混雑原因発見技術を開発した。

  • 空港内の混雑を予測する人間行動シミュレーション画面

    空港内の混雑を予測する人間行動シミュレーション画面

従来は食事をする、A地点での案内板を見るなど、数十以上の項目で表現されるエージェントの属性、認知、行動に関するデータをすべて組合せてエージェントの特徴として表していたため、膨大な組合せパターンが発生していたが、開発した技術は共通要素が含まれる項目を属性、認知、行動の観点からグルーピングした上で、グループごとにエージェントの特徴をクラスタリングすることにより、組合せパターンを減少させることを可能とした。

  • 属性、認知、行動の関係に基づく網羅的な混雑原因を発見

    属性、認知、行動の関係に基づく網羅的な混雑原因を発見

これにより、ある部分で発生した混雑の原因を探りたい場合に、どのような属性の人々に対して、どのような認知や行動を変化させる施策が有効であるかなど、施策に直結する原因を網羅的に発見することができるという。

例えば、複合施設で起きた店舗Aと店舗Bの混雑に対して、店舗Aの混雑は認知に着目すると案内板の集客効果が原因であり、店舗Bの混雑は行動に着目するとレストラン利用客のまとまった来客が原因であると特定できる。そのため、店舗Aの混雑は利用者のもう1つの目的であるATMへ誘導する案内板により、集客を分散させる施策が有効であり、店舗Bの混雑にはスタッフを増員し、処理速度を上げる施策が有効であると判断できるという。

  • 新技術による混雑の原因発見と施策例

    新技術による混雑の原因発見と施策例

効果の検証として、空港の混雑緩和施策分析を目的に2015年に開発した人間行動シミュレーションに同技術を適用。結果として専門家の分析と比較し、約4倍の混雑原因を発見することを可能とした。

保安検査の混雑分析では、旅客が特定のチェックインカウンターで滞留することに起因して保安検査の突発的な混雑が生じることを新たに発見。同技術により発見された混雑原因に基づき施策を導出したところ、専門家分析の結果から導出した施策に比べて、保安検査の待ち人数を6分の1に削減し、施策実施に必要な人員数を3分の2に抑える効果があることをシミュレーション上で確認したことに加え、分析時間も数カ月から数分へと短縮できたという。

今後、同技術を用いてイベント会場や空港、ショッピングモールなどでの混雑に対し実証を進め、デジタルサイネージやテナント配置などの効果も含めて検証していく。

さらに、富士通のAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai」とスーパーコンピュータ技術を活用し、都市の状況をリアルタイムに把握するサービス「FUJITSU Technical Computing Solution GREENAGES Citywide Surveillance」との連携を通じて、混雑の将来予測ソリューションの早期提供を目指す。

また、早稲田大学は混雑に限らず、人間行動を含む社会・市場・組織における複雑な現象を分析し、問題解決を図るためのシミュレーション技法の確立を目指す方針だ。