日立製作所は、2016年から「多様な人材が多様な価値観を持って、生き生きと働き、大きな成果を挙げる」をコンセプトに働き方改革を推進してきた。

テレワークについては、「限られた時間を効率的に活用して最大の成果を挙げる」ことを目的に「タイム&ロケーションフリーワーク」をコンセプトに推進。

2016年以降、働き方を推進するためのIT環境を整え、Skype用のヘッドセットやマイクスピーカー、プレゼンのための液晶ディスプレイを約3万台配布。会議のオンライン化やペーパーレスにも取り組むなど、どこでも仕事ができる環境を整えてきた。

  • 「タイム&ロケーションフリーワーク」コンセプト

テレワーク制度自体は、1999年に制定済みであったが、当初は限られた人の利用であった。今、制度利用対象者は、管理職、裁量労働勤務適用者(主任レベル)、育児・介護を行う人(いずれも総合職が対象)のほか、会社が必要と認めた社員も利用でき、利用可能な社員は全体の約7割にあたる26,000人にのぼる(残りの3割は、工場勤務者、総合職をサポートする基幹職、若手総合職)。

日立製作所 人財統括本部 人事勤労本部 トータルリワード部 働き方改革グループ 部長代理 近藤恭子氏

「制度の対象者は、時間管理を含め、主体的に仕事を進められる人を対象にしています。一律に全員とはしていません。」と日立製作所 人財統括本部 人事勤労本部 トータルリワード部 働き方改革グループ 部長代理 近藤恭子氏は語る。

同社のテレワーク制度の特徴は、コアタイムなしで、1日数時間の勤務も可能(1時間でも大丈夫)な点で、利用回数にも上限はない。メールや電話などによる上司への事前相談のみで利用できるなど、比較的自由度は高い。

同社がテレワークを推進する背景には、グローバル化する中で、ホワイトカラーの生産性をもっと上げる必要性があるとの考えに至ったためだという。

同社は業績が不振であった2008年以降、グローバルで戦える企業に変わるため、人事制度をグローバルで共通にするなど、意識改革を進めてきた。

日立製作所 人財統括本部 システム&サービス人事総務本部 勤労部 労政・報酬グループ 部長代理 鈴木裕之氏

日立製作所 人財統括本部 システム&サービス人事総務本部 勤労部 労政・報酬グループ 部長代理 鈴木裕之氏は、「業務に対して、時間だけでなく場所についてもフレキシブルに決められるように在宅、サテライトと、場所の選択肢を広げられるように取り組んできました」と述べる。

2019年10月時点でのサテライトオフィスは、日立アーバンインベストメントが運営する「Biz Terrace」10拠点と、ザイマックスが運営する「ZXY」54拠点の計64拠点が利用できる。サテライトオフィス開設当初の2016年は月の利用者が3000人に満たなかったサテライトオフィスだが、拠点を増やすごとに利用者も増え、現在では日立グループ全体で月間延べ5~6万人が利用しているという。

  • サテライト拠点

「Biz Terrace」では、オフィスと同等のセキュリティ環境が整えられ、パソコンも完備。社員は手ぶらでいっても利用できる。そのため、こちらのサテライトのほうが社員の人気は高いという。

自宅もサテライトも、パソコンは仮想デスクトップを利用している。セキュリティ(情報漏えい)の関係上、自身が所有するパソコンの利用は認められていない。

サテライトオフィスは、主に出張者の利用を想定した都心型と、社員の自宅近くに設置する「住居近接型」があり、「住居近接型」は、社員の通勤ルートも考慮して設置場所を決めているという。

勤務時間の管理は、パソコンの起動と終了時間を記録しているが、勤務表への記載はあくまで自己申告で必要に応じた残業も可能になっている。

企業によっては、「テレワーク勤務中、社員がサボるのではないか」といった懸念から監視を強める企業もあるが、この点について近藤氏は「社内では検討していません。サボるという前提では制度を作っていません」と語る。

日立製作所 サービスプラットフォーム事業本部 アプリケーションクラウドサービス事業部 働き方改革ソリューション本部 シニアストラテジスト 荒井達郎氏

その理由を、日立製作所 サービスプラットフォーム事業本部 アプリケーションクラウドサービス事業部 働き方改革ソリューション本部 シニアストラテジスト 荒井達郎氏は、「近くにいれば管理できる、遠くにいたら管理できないというは、信頼関係が希薄な状況だと思います。そういう関係のチームがリモートワークしてもうまくいかないと思います。一番大事なのは、信頼関係を強めることで、HRTechの技術を使えば、信頼関係を指数として表現できます。弊社の一部組織では、その値を定点観測することで、数字が悪いチームの場合は、原因となる課題を解決するような取り組みを行っています」と説明する。

テレワークが利用可能な26000人のうち、実際にテレワークを利用したことがある人は1万人程度だが、オフィス以外で仕事するリモートワークの利用者は2万人を越えるという。テレワークの利用頻度は月に2~3回という人が多く、内訳は6~7割が在宅で残りがサテライトオフィスだ。

日立アーバンインベストメントが、サテライトオフィスの利用者に行ったアンケート調査によれば、利用者の4割が通勤時間や移動時間の短縮効果を実感しており、25%の人が隙間時間を利用理由に挙げている。そのため、1日まるごとテレワークというよりは、たとえば、出先近くのサテライトオフィスを利用し、そのまま帰宅するといった、1日のうちの数時間をテレワーク勤務に当てるオフィス併用ケースが多いという。

では、実際のテレワーク導入の効果はどうなのだろうか? この点については、テレワークによって生産性がアップしたのかという評価は、非常に判断が難しいという。業績のアップの要因がテレワークだけでなく、他の要因も複雑に関係しているためだ。

ただ近藤氏は、「社員の意識調査では、エンゲージメントや仕事のやりがい、仕事とプライベートの両立がやりやすくなったという項目がアップしてきていますので、一定の評価ができると思っています」と語る。

鈴木氏も「効果は職種によって異なるので、全体的に図るのは難しいと思います。ただ、時間短縮によってできた時間を訪問や提案に当てているという統計も取れています」と、一定の効果があったと説明する。

同社では、この2-3年である程度テレワーク制度の整備できたので、当面、大幅な制度の拡充は予定していないが、テレワーク利用に消極的な部署では、意識を変えるため、管理職に集中して在宅勤務を行ってもらうなどの施策を実施している。

近藤氏は「テレワークを必要な人が必要なときにとれることが大事なので、無理して全員がテレワークを行う必要はないと思いますが、自分の職場でテレワークを利用したいといった人が出てきたときに、自分は経験していないと判断しにくい面があるので、一度は体験してほしいと思います」と語った。