ポルシェの新型「911 カレラS」に試乗してきた。その内装は随所がデジタル化しており、いかにも先進的なスポーツカーに乗っているとの感覚を抱かせたが、クルマ自体の乗り味と操作性は伝統の911そのもの。こういうクルマには、運転初心者にこそ乗ってもらいたいと思った。

  • ポルシェの新型「911 カレラS」

    ポルシェの新型「911 カレラS」。価格はオプションなしの状態で1,696万8,519円

意のままに走る最先端のスポーツカー

新型911 カレラSに乗り込むと、まずは内装の新しさに驚かされた。シフトレバーは「レバー」というよりも「スイッチ」的な仕組みだ。メーターが5つ並ぶ運転席からの眺めは従来通りだが、針が動くアナログ的な見せ方のエンジン回転計を含め、全てが液晶画面となっている。右端の画面には、カーナビゲーションを表示させられる。

  • ポルシェの新型「911 カレラS」
  • ポルシェの新型「911 カレラS」
  • デジタル化が進んだ新型「911」の車内

それでも走りだすと、アクセル操作への応答、ブレーキの手ごたえ、ハンドル操作に対する挙動など、全てが運転者の動きと1対1の関係にあることがすぐに分かった。手足を動かした通り、寸分の遅れもなく、あるいは過剰でもなく、クルマは的確に反応を示す。「操る」という言葉がふさわしい感触だ。

一方で、雑な運転をすれば、それも操作した通りにクルマの挙動となって表れる。したがって、正しく、的確な運転操作をすることが常に求められる。速度のいかんを問わずそうした運転感覚であるため、実はこのクルマ、運転の初心者にもうってつけなのではないかと思った。ポルシェ911に乗っていると、正しい運転が身につくというわけだ。これこそが、運転の醍醐味ではないだろうか。

同時に、車体剛性についても、あくまで的確な走りを支える裏方に徹している印象だ。いかにも頑健だというような車体の強さをあからさまに感じることがない。そして、幅が25~30cmもあるような前後のタイヤ(前後で寸法が異なる)が、その幅を十分にいかして接地している感触もある。単にタイヤが接地しているというだけでなく、接地面をいかし切っているという安心感があるのだ。クルマの走行にとって、タイヤがいかに重要であるかを運転者に伝えてくる。

ターボチャージャーで過給されたエンジンは、アクセルペダルの踏み代によって、2段階に加速の勢いを変えた。ちょっと強い加速が欲しい時と、全速力で速度を上げたい時のそれぞれで、運転者の狙い通りの加速を実現してくれる。全力加速させた際も、タイヤの接地感覚が安心をもたらした。

運転席からの視界も良好だ。前方視界はもちろんだが、高速道路などへの合流の際に右斜め後ろを目視しようとした際、昨今では、前後ドア間の支柱(センターピラー)が側面衝突対応のため太くなりすぎ、自分の目では確認できない場合が多いが、911 カレラSは側面後ろ側の窓ガラスも大きく面積を確保してあり、一瞬にして安全確認ができた。あるいは駐車の際に、斜め左後ろを確認する際も、後方の様子を容易に知ることができる。

  • ポルシェの新型「911 カレラS」

    3.0Lの水平対向6気筒ツインターボエンジンを後輪車軸の後部に搭載し、後輪を駆動する「RR」レイアウトを採用。最高出力は450ps、最大トルクは530Nmで、停止状態から時速100キロまでの加速に要する時間(ゼロヒャク加速)は3.7秒だ

さらに、車体の幅が1,852mmもあるにもかかわらず、運転中は車幅を認識しやすかった。まず、前輪の位置は、ヘッドライトのため盛り上がったフェンダーによって常に視界に入る。一方、ミラーでしか確認できない後輪は、フェンダーが横に大きく張り出しているため車線内に入っているか時に心配になり、はじめのうちは確認しながら運転していたが、そのうち、何ら問題ないことを実感できた。以後は、車幅を気にすることなく運転に没頭することができたのであった。

911伝統の姿は、安全確保に不可欠な視認性の保持に役立っているのはもちろんのこと、車両感覚を容易につかませ、運転に集中できる喜びも与えてくれるのだ。

  • ポルシェの新型「911 カレラS」

    ボディサイズは全長4,519mm、全幅1,852mm、全高1,300mm

ポルシェが世界に名だたるスポーツカーであることはいうまでもないが、911を開発するにあたって常に考えられているのは、自動車メーカーにとっての理屈ではなく、運転者にとって何が最善であるかということなのではないだろうか。そんなことに今回、改めて気づかされた。

ポルシェ911の創始者であるフェリー・ポルシェは、「私は、自らが理想とするクルマを探したが、どこにも見つからなかった。だから、自分で造ることにした」と語ったといわれる。それは、工業製品を作る企業の論理ではなく、あくまで乗り手としての言葉であろう。その思想が、今日のポルシェ911に変わらず受け継がれているのである。ここに、911が初代の基本構想のまま伝承されてきた意味がある。

デジタル化され、あるいは電動化されたとしても、ポルシェの真髄は不変であるに違いない。