Samsung、スマホの生産を韓国からベトナムに移管

新型コロナウイルスの集団感染が発生して以降、3月8日時点で感染者が7000人を超えた韓国。集団感染の中心となった大邱広域市から北へ50kmほど離れた亀尾市の「韓国のシリコンバレー」ともいわれる「国家産業団地」にあるSamsung Electronicsのプレミアムスマートフォン(スマホ)製造拠点である「亀尾事業所(Samsung Smart City Campus)」で3月6日、同事業所6人目(亀尾市で51人目)となる感染者が確認されたことを受け、Samsungは7日まで事業所全体の閉鎖を行い防疫消毒作業を行い、8日まで感染者の勤務していた建屋の閉鎖を行った。

Samsungは、このところ従業員に新型コロナウイルスの感染者が確認されるたびに当該従業員の勤務する事業所を一時閉鎖し、本人のみならず同社構内の接触全員を自宅待機させる措置を講じているが、大邱および近郊からの通勤者は韓国政府からの要請で自宅待機をさせざるを得なく、工場の稼働などに支障が出始めているという。また、それは亀尾のほかの工場も同様で、労働力不足による稼働率低下や防疫作業のための一時閉鎖を余儀なくされているが、他地域にある工場や本社などからの社員の移動(出張)も禁止されており、人的支援をよその地域より求めることもできない状況となってきている。

こうした状況を踏まえ、Samsungは亀尾事業所で生産していたGalaxy S20シリーズをはじめとするプレミアムスマホ複数機種の生産の一部をベトナムの工場に移管することを3月6日に韓国を中心とした世界各地の複数のメディアが報じている。

このまま海外に事業移転の可能性も

この決定に先駆け、同社の李在鎔(イ・ジェヨン)副社長は予定していたベトナム出張を取りやめ、3月3日に亀尾事業所の視察を実施。同事業所の状況を把握し、今後も一時操業停止の措置が繰り返される可能性が高いを判断したうえで、予定している生産量を確保するために生産の一部をベトナムの子会社に移管することを決定したのではないかと見られている。

移管されるスマホの生産数量は当面の間、亀尾事業所の生産能力の約10%に相当する月産20万台と見られており、Samsungの関係者筋からは、生産移管は一時的な措置で、事態が鎮静化すれば元に戻す予定であること、新モデルの安定供給をスケジュール通りに行うためにはやむを得ない措置である、といった説明が各所になされているというが、地元自治体などからは、そのまま生産が移管された状態で固定されてしまうのではないか、といったことを心配する声もでているという。

すでに同社のスマホブランド「Galaxy」のエントリーモデルなどは中国工場(すでに撤退)、ベトナム工場、そしてインド工場などに移管されており、亀尾事業所はプレミアムモデルのみの生産拠点として規模の縮小が続いてきた。近隣のLG Displayの工場も中国勢の台頭に押され、事業を縮小させており、こうした縮小・撤退といった動きが進めば雇用問題などが生じることになると地元自治体関係者などは危惧しているようだ。

韓国のスマホ業界の関係者によれば、新型コロナウイルスの影響で、韓国内の多くの住民が自宅に引きこもる事態をなっており、スマホの販売店舗に足を伸ばさないこともあり、上位モデルのGalaxy S20シリーズの売り上げは期待したほど伸びていないという。

ベトナムが韓国からの入国を制限

Samsungのスマホ生産の移管先とされるベトナムだが、現在、韓国からの入国者を厳しく規制する対応を行っている。そのため、Samsungはベトナムに2つの生産拠点を有しているが、技術者の支援などが得られないため、生産移管がスムーズに実施できるかどうかは不透明な点が多いと見られている。

そのSamsungのベトナム法人は、3月29日にベトナムの首都ハノイで2億2000万ドルを投じて設立するモバイル研究開発(R&D)センターの起工式を3月29日に挙行する予定であったが中止を決定している(センターの竣工は2022年を予定。従業員は3000名に増員される見込みで、同社の東南アジア最大のR&Dセンターとなる予定)。

現在、Samsungはスマホ生産の過半をベトナムで行っており、その量はベトナムからの輸出額の実に1/4を占めるほどだと言われているが、今回の生産移管とR&Dセンターの立ち上げで、さらに同国に対する依存度は高まる見込みである。こうした動きはチャイナリスクの回避目的によるものだが、一部の部材を中国に依存しているため、現状、入荷が遅れているうえ、新型コロナウイルスのような感染症のグローバルな対応までは考慮されておらず、万全な回避策とならない可能性がでてきたと言えるだろう。

韓国電子産業が恐れる半導体工場への影響

Samsung ElectronicsやSK Hynixなど、大手半導体メモリメーカーの半導体工場でも複数の新型コロナウイルスの感染者が確認されているが、実際の製造ラインに従事する従業員ではなかったため、3月8日時点までの状況では製造ラインの停止には至っていない模様である。

ある韓国電子産業の関係者は、「韓国での感染者がさらに増加し、防疫制御不能な状態に陥るようなことになれば、製造ラインの作業者からも感染者が出てくるだろう。そうなれば、製造ラインの停止や閉鎖が必要になってくる」と危機感を隠さない。韓国の半導体工場の多くが大邱から200kmほど離れたソウル近郊にあり、そちらはまだ感染者はそれほど多くないため、まだそうした危惧が現実のものにはなっていないほか、企業側も工場の製造ラインの稼働に従事する作業スタッフ以外を在宅勤務に切り替えるなどの対応を行っており、感染リスクの低減に努めている。日本も感染者の増加は続いているものの、工場を閉鎖・停止させるといった事態については、回避できており、今後の日本企業の取り組みが注視される。