大日本印刷(DNP)は3月9日、学習支援プラットフォーム「DNP学習クラウド リアテンダント」において、ほぼすべての小学校で日常的に実施されている「評価テスト」の採点結果をAIで自動集計し、ビッグデータとして蓄積・分析するモデルを開発したと発表した。これにより、教員の業務負荷を削減するとともに、蓄積された採点データ(スタディ・ログ)にもとづく児童一人ひとりに向けたカルテや復習用デジタルドリル・教材を提供することで、文部科学省の重点施策「GIGAスクール構想」が目指す「個別最適化学習」の実現を支援するという。

リアテンダントは蓄積されたスタディ・ログを分析し、その結果に基づきさまざまな教材やサービスを提供するプラットフォームサービス。教員がこれまで活用してきた教材や新たな学び方を提案するEdTech教材を提供する企業、塾、大手教育ICTベンダー各社とのオープンなパートナーシップを推進することで「ICTを活用した学習」「個別最適化された学び」の実現を支援するプラットフォームとして、機能強化を進めている。

同社は2月に政令指定都市・中核市を含む7自治体で、小学校の評価テストによるスタディ・ログの自動集計・蓄積・活用に関する実証評価を開始した。実証は、青葉出版、教育同人社、新学社、日本標準など評価テストを発行する主要7社中5社の協力のもと実施した。

実証校の教員からは、テストの集計・入力作業時間が最大で85%削減されたとの声を得ており、学校では蓄積したデータをリアテンダント上で分析することで、児童ごとのカルテを作成し、児童一人ひとりに対応した指導を実現しているという。

同社では、1月に成立したGIGAスクール構想に伴う教育環境のICT化を視野に入れ、リアテンダントで処理したスタディ・ログを分析し、プラットフォームから個々の児童生徒に応じた復習用デジタルドリルや教材を提供する。今回、開発した分析機能の評価をさらに進め、2020年度夏以降に順次サービスを開始する予定だ。

  • 新モデル活用の流れと効果

    新モデル活用の流れと効果

評価テストは、小学生の通知表作成の材料となる各教科の単元・期末ごとに行われるテスト。全国の小学校の8割が、教材会社の提供する評価テストを採択し、実施しており、教員がクラス全員の解答用紙を採点(丸付け、総得点・観点別得点の集計、入力)するにあたり、一般的には手作業で集計した結果を一度紙に転記した後に入力作業を行うため、集計・入力作業だけでも1回のテストでおよそ20分を要する。

年間では1教科で16回程度、4教科では約70回のテストが実施されるため、教員は2000枚のテストを約1400分かけて集計する計算となり、2学期末などには深夜残業での対応となることが多いため、文科省における教員の過重労働対策のなかでも、テストの採点は大きな業務負荷の1つとして捉えられている。

また、文科省の施策として注目を集めている個別最適化学習の実現においても、採点の業務負荷は大きな課題となっており、個々の児童の学力特性を明らかにし、児童に応じた指導を行う個別最適化学習を進める上で、詳細なスタディ・ログ(設問別の正誤情報など)を基とした分析が求められている。

しかし現在では、小学校における評価テストの採点結果は、総得点や観点別の得点管理にとどまるのが一般的で、詳細なスタディ・ログの集計・入力を行うには年間2400分以上の計算が必要となり、これらの実施は多忙な教員の業務のなかでは現実的ではなく、テストの採点結果は通知表を付けるためだけのものとなっており、スタディ・ログに基づく指導まで至らないのが実状だという。

  • 一般的な評価テストの集計結果と、詳細なスタディ・ログの比較

    一般的な評価テストの集計結果と、詳細なスタディ・ログの比較

今回提供するモデルの特徴は、丸付けした解答用紙をスキャナで取り込むだけで、採点記号(〇、×、△)と部分点をAIで自動的に認識・データ化し、従来行っていた採点結果の集計・入力作業が効率化される。

さらに、多くの学校では教科ごとに異なる教材会社の評価テストを活用しているが、リアテンダントは国内で初めて複数の教材会社のテストを共通のプラットフォームで扱えるようにしており、教材会社を問わず評価テストのスタディ・ログの蓄積・活用を可能としている。

加えて、設問別の正誤情報など詳細なスタディ・ログを教員の負荷なく蓄積できるとともに、個々の児童の傾向やクラス間比較などがグラフや表形式によって可視化できるという。通知表作成の効率化だけでなく、従来教員が行えなかった、詳細なスタディ・ログに基づく指導が可能となり、スタディ・ログをもとに児童ごとに優先して復習すべき問題を抽出し、タブレット対応ドリル教材や紙のドリル教材といった異なる復習教材を提供するとしている。