多国籍情報提供企業であるInformaのハイテク産業市場動向調査部門である英Omdiaは、SiCおよびGaNパワー半導体市場の規模が2021年には10億ドルを超える見込みであるとの予測結果を発表した。ハイブリッドならびに電気自動車、電源供給装置、太陽光発電(PV)インバータなどにおける需要の急増が背景にあると同社は推測している。

Omdiaが発行した「SiC & GaNパワー半導体レポート 2020」によると、SiCおよびGaNパワー半導体の世界市場規模は年々成長し、2018年の5億7100万ドルから2020年には8億5400万ドルへ、そして今後も10年にわたって年率2桁で成長を続け、2029年には50億ドル規模へと成長する見込みだとしている。

しかし、実は今回の市場予測は、2019年版の市場予測よりも約10億ドル少ない規模となっている。これは、2018年以降、ほぼすべてのアプリケーションの需要が鈍化したためであるほか、デバイスの平均価格も2019年に下落しているためである。加えて、今回の予測を作成するにあたっては、新型コロナウイルスの影響は考慮していないとのことで、2021年版のレポートでは、また大きく予測が変わる可能性もある。

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    GaNおよびSiCパワー半導体の世界市場売上高予測(単位:百万ドル) (出所:Omdia)

SiC MOSFETは、すでに複数の半導体メーカーから提供されており、2019年にはスーパージャンクションMOSFET(SJ-MOS)と競合する価格の650/700/900VSiC MOSFETの投入や、サプライヤ間の価格競争の激化など、いくつかの要因によりSiC MOSFETの平均価格が下落したという。

Omdiaのパワー半導体のシニアプリンシパルアナリストであるRichard Eden氏によると、「価格下落により、SiC MOSFETの最終製品への採用は加速する。一方のGaNパワートランジスタとGaNシステムICはごく最近になって市場に登場したばかりだが、GaNパワーデバイスはSiC基板よりも安価なシリコン基板またはサファイア基板上で成長できるため、コスト削減の可能性が高く、価格対性能比の優位性が出しやすいと思われる。そのため、Power Integrations、Texas Instruments、Navitas Semiconductorなどが提供するGaNシステムICの売り上げは今後、急速に増加するとみられる」との予測を披露している。

SiCおよびGaNパワー半導体市場の動向

SiCパワー半同士市場についてOmdiaでは、2020年末までにSiC MOSFET市場はショットキーダイオード市場に匹敵する約3億2000万ドルの市場に成長するものと予測しており、2021年はその勢いがさらに加速するとみている。しかし、SiC JFETについては、高い信頼性、価格、パフォーマンスを達成しているにもかかわらず、SiC MOSFETに比べて、はるかに小さな市場にしかならないともしている。

Eden氏は「エンドユーザーはノーマリーオフのSiC MOSFETを強く好むので、SiC JFETは特殊なニッチな製品という位置付けに留まると思われる。しかし、SiC JFETの売上高は、積極的なサプライヤが少ないにもかかわらず、かなりな速度で増加すると予測される」と述べている。

また、Si IGBTとSiCダイオードを組み合わせたハイブリッドSiCパワーモジュールは、2019年に約7200万ドルの市場となったほか、フルSiCパワーモジュール市場も約5000万ドル規模となったと推定しているが、フルSiCパワーモジュールは、ハイブリッドおよび電気自動車のパワートレインインバータでの採用が増加すると見込まれるため、2029年までに8億5000万ドル市場へと成長することが期待されるという。対照的に、ハイブリッドSiCパワーモジュール市場は、太陽光発電インバータ、無停電電源システム、およびその他の産業用アプリケーションなどで活用されるものの、その成長率についてはフルSiCパワーモジュールと比べるとかなり低いと予測されている。

GaN市場の成長に期待

現在のSiCおよびGaNパワーデバイスは、数兆時間におよぶフィールドでの蓄積されたデータがあるため、新規参入企業でもJEDECおよびAEC-Q101の承認を得ることがたやすくなっており、予期されない信頼性の問題もない状況まできたと考えられる。実際、信頼性は通常のシリコンよりも優れているとOmdiaは見ている。

また、GaNトランジスタやGaNシステムICを搭載した最終製品、特に携帯電話やノートブックPCの急速充電用のUSB Type-C電源アダプタと充電器が各社から量産中であるが、その多くがファウンドリを活用する動きを見せている。これは、標準のSiウェハ上にGaNエピタキシャル結晶成長を施すことで、生産量の増加に応じて潜在的に生産能力を拡張できるとしており、さらなる成長が期待されるとしている。