政府は、2019年12月20日、新たな「デジタル・ガバメント実行計画」(以下、「新実行計画」)を閣議決定しました。2018年1月に最初の「デジタル・ガバメント実行計画」が策定されましたが、その後、「デジタル手続法」が定められるなどの状況の変化があり、今回新たな「デジタル・ガバメント実行計画」が閣議決定されました。

日本経済新聞では、「行政手続き9割電子化へ 政府が新実行計画」 と報じられた「デジタル・ガバメント実行計画」。今回は、その内容を見ていきましょう。

「デジタル・ガバメント実行計画」の概要

2018年1月に策定された「デジタル・ガバメント実行計画」は、以下のような構成でした。

・はじめに
・本計画が目指すもの(To be)
・利用者中心の行政サービス改革
・プラットフォーム改革
・価値を生み出すITガバナンス
・地方公共団体におけるデジタル・ガバナンスの推進
・フォローアップと見直し

これに対し、「新実行計画」は、以下のように構成されています。

・はじめに
・利用者中心の行政サービス改革
・デジタル・ガバメントの実現のための基盤の整備
・価値を生み出すガバナンス
・行政手続のデジタル化
・ワンストップサービスの推進
・行政サービス連携の推進
・業務におけるデジタル技術の活用
・デジタルデバイド対策
・広報等及び国際展開
・地方公共団体におけるデジタル・ガバナンスの推進
・民間手続オンライン化の推進とフォローアップ
・フォローアップと見直し
・別紙1オンライン化等を実施する行政手続等
・別紙2添付書類の省略を実施する行政手続
・別紙3更なる利便性の向上を図る行政手続等
・別紙4マイナンバーカードを活用した各種カード等のデジタル化等に向けた工程表
・別紙5地方公共団体が優先的にオンライン化を推進すべき手続

2018年1月に策定された「デジタル・ガバメント実行計画」は、目次も含めて67ページでしたが、「新実行計画」は、目次、別紙も含めると215ページと、相当ボリュームアップしています。具体的にオンライン化や添付書類の省略を実施する行政手続を、別紙に定めたことにより、ページ数が増加した部分もありますが、本文の構成も、以前に比べて増えており、その内容もより具体的になることで、全体として、大きくページを増やす結果になっています。

(図1)は「新実行計画」の概要を示した図です。

この図では、青でタイトルが表示されている部分が国、緑が地方公共団体、オレンジが民間に係る計画となっています。このなかで、国民や民間事業者に直接関係するところは、「行政手続のデジタル化、ワンストップサービス等の推進等」になりますが、それを支えるデジタル・ガバメント実現では、政府各省庁の既存システムの改廃や、省庁間で情報連携するシステムの構築などが、課題となります。また、個人としての行政手続の多くは、地方公共団体が担うことから、「地方公共団体におけるデジタル・ガバメントの推進」が課題となります。

以下、これらにポイントを絞って、「新実行計画」をみていきましょう。

デジタル・ガバメント実現に向けた課題認識と計画

「新実行計画」では、デジタル・ガバメント実現のためのグランドデザインを、2019年度末をめどに取りまとめるとしています。

ここでいうグランドデザインとは、「中長期的に実現すべき行政サービス像、それを実現するために必要な標準的な業務及び情報システム、統一的な政府情報システムの将来的な在り方、既存業務及び情報システムの移行、データの標準化、情報システム間の互換性、円滑な情報連携、高度な情報セキュリティ対策等についての方針」であり、これをベースに、今後の各省庁の既存システムの改廃や、省庁間で情報連携するシステムの構築を進めていくことになります。

そして、グランドデザインに基づく、政府情報システムの整備・運用を実現するために、全ての情報システムを対象に、政府CIOの下で内閣官房を中心として、一元的なプロジェクト管理を行うとしています。ここには、これまで各省庁がバラバラに進めてきたシステム構築の弊害をなくしたいという考え方が、ベースにあります。

そうした考え方の下、2019年8月1日、以下の「政府共通プラットフォームの構築・活用推進及び政府におけるクラウドサービス利用検討」が、政府重点プロジェクトに指定されています。

○政府共通プラットフォームの構築・活用推進及び政府におけるクラウドサービス利用検討プロジェクト
指定日:2019年(令和元年)8月1日
目的:本プロジェクトは、限られた人材と予算を有効的に活用するとともに、情報システム担当者を含む利用者にとって、利便性、生産性、費用対効果等に優れ、安全・安心に利用できる情報システムの整備・運用を実現することを目的として、政府におけるクラウドサービスの利用等を促進するものである。本プロジェクトでは、その目的の達成に向け、次の取組を行う。
①政府におけるクラウドサービスの利用において、その利点を最大限発揮する観点から、関連する制度、手続、慣習等について政府横断的な整理、調整及び企画立案を行うこと。
②各府省におけるクラウドサービスの利用の集約など政府のITガバナンスを支える基盤として政府共通プラットフォームを整備・運用し、その活用を推進すること。

また、政府横断施策や投資額の大きいプロジェクトについて、一元的なプロジェクト管理によるガバナンスの徹底するプロジェクトも、以下の通り選定され、それぞれのシステムの課題と、それを解決するための今後の開発計画が示されています。

・政府共通プラットフォーム
・登記情報システム
・国税情報システム
・社会保険オンラインシステム
・ハローワークシステム
・特許事務システム

これらをみていくと、政府が実現を目指すデジタル・ガバメントにとって、従来のメインフレームを中核に構築され、長年そのまま更新されてきたシステムが、今や障害になっていることがわかります。

国税情報システムを例にとると、申告や納税の事績を一元的に管理する「国税総合管理システム」(KSKシステム)と、納税者からの申告・申請を受け付ける「国税電子申告・納税等システム」(e-Tax)がメインなシステムとなります。国税分野の手続きをデジタル化、オンライン化したe-Taxは2004年に運用が開始されていますが、その3年前に構築されたKSKシステムは、申告書等の書面提出を前提に、申告書のOCR読み取りなどでシステムが構築されており、その読み取り率の低さなどから、コストがかかることが指摘されてきたシステムでもあります。

「新実行計画」では、国税情報システムのなかでも、特にこのKSKシステムの課題解消に向けて、2026年度をめどに、国税情報システムの刷新、次世代システムの構築を目指し、2020年度から開発に着手する予定としています。この国税情報システムの刷新に6年もかかる予定となっていますが、国の重要な基幹システムとして、スピーディさにかける予定になっているのは、今後問題になるのではないかと思われます。

行政手続のデジタル化、ワンストップサービスの推進

行政手続のデジタル化では、別紙1に新たに「オンライン化を実施する行政手続」が掲載されています。個人として、身近なところでは「旅券の発給申請等」や「ハローワークの求人・求職の申込み等」などが対象となっています。また、事業者としては、「食品衛生営業許可申請等」などの営業許可関連や、「中小企業等経営強化法に基づく申請」などが対象となっています。この別紙には、記載されていませんが、補助金申請のオンライン化として、すでに経済産業省が「jGrants」を開設しており(申請対象となる補助金はまだ設定されていませんが)、これも行政手続のデジタル化の一つとなります。

これらの計画により、行政手続のデジタル化は、進捗することになりそうですが、計画のなかでは、e-Govでオンライン化すると明記されているものもあれば、何も記載されていないものもあり、デジタル化される手続ごとに、やり方が異なるなどということにならないようにしてほしいと思います。

また、登記事項証明書や戸籍謄本等、住民票の写し、印鑑証明書、所得証明書・納税証明書などを対象に、これらの添付書類を省略できるようにするための情報システム整備も、計画されています。実施時期は、これらを添付書類として求めている手続きにより、異なってくる可能性があります。国の手続きについては、ある程度めどがついているようですが、地方公共団体の手続については、これから検討されるようで、ここでも地方公共団体の対応の遅れが気になるところです。

「ワンストップサービスの推進」では、以下のワンストップサービスが計画されています。

・子育てワンストップサービス
・介護ワンストップサービス
・引越しワンストップサービス
・死亡・相続ワンストップサービス
・企業が行う従業員の社会保険・税手続ワンストップサービス

このうち「企業が行う従業員の社会保険・税手続ワンストップサービス」については、この連載でも取り上げてきましたが、2020年度にはマイナポータルを介してオンラインかつワンストップで行うサービスを開始するとしています。

その一方で、従業員の社会保険手続をオンラインで行えるe-Govについて、サービスデザイン思考を導入して、2020年秋をめどに刷新するとしています。

現状、利用率の低いe-Govがどのように刷新されるのか、注目したいところですが、同じ社会保険の手続が、e-Govとマイナポータルと、別々のやり方でオンライン化されていくことは、「新実行計画」が避けるべきとしているシステムの重複となるのではないでしょうか。これらの手続を行う事業者や、手続に対応したシステムを開発しているベンダーが、よりスムーズに対応できるように、これら「企業が行う従業員の社会保険・税手続」の将来的な方向性を示すべきではないでしょうか。

地方公共団体におけるデジタル・ガバメントの推進

デジタル手続法により、地方公共団体の行政手続のオンライン化は努力義務とされています。これを踏まえて「新実行計画」では、別紙5に掲載された、優先的にオンライン化に取り組む手続について、内閣官房、総務省及び内閣府がオンライン化を支援するとしています。

そして、そのためのシステムを個別に整備することは非効率として、「今後は、地方公共団体における情報システム等の共同利用を推進していくべきである。」としています。また、そのための手法として、「業務プロセスの共通化・標準化に加え、複数団体が基幹系システムを共同で利用する自治体クラウドの導入等を推進してきた」わけですが、今後も「自治体クラウド等を中心に地方公共団体における基幹系システムのクラウド導入を推進する。」とし、そのための工程を、総務省が2019年末までに明確化するとしています。 個人にとって、多くの手続は地方公共団体が提出先になります。前項で取り上げたワンストップサービスも、個人に係るものは、地方公共団体が対応していなければ、利用することができないものが多くあります。ここまで、地方公共団体の足並みが揃わないため、マイナポータルの「売り」の一つであった子育てワンストップサービスも、全国一律のサービス提供にはなっていません。

システムの共同利用や、そのための自治体クラウドの利用は、前々から言われてきましたが、それでも地方公共団体の足並みが揃わないのは、業務プロセス・情報システムの標準化が進んでいないからです。

「新実行計画」では、この標準化に取り組むとして、内閣府や総務省などが、標準化に向けた調査を行い、課題を整理し、標準的なクラウドシステムへの移行に向けた作業を進めるとしています。このように、国が主導して地方公共団体の情報システムの標準化を進めることが、「新実行計画」では明記されました。

国が地方公共団体の情報システムの標準化を主導し、その成果をベースに、地方公共団体の行政手続のオンライン化を支援するというのが、「新実行計画」のスタンスのようです。国が地方公共団体の行政手続のオンライン化を支援することで成果を上げるためには、できるだけ速やかに地方公共団体の情報システムの標準化を実現し、システムの共同利用を促進することが何より大事になってきます。

国民や事業者など利用者にとって利便性の高いデジタル・ガバメントの実現に、地方公共団体の果たす役割は大きなものがあり、地方公共団体におけるデジタル・ガバメントの今後の進捗に、注目していきたいと思います。

中尾 健一(なかおけんいち)
Mikatus(ミカタス)株式会社 最高顧問
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。現在は、2019年10月25日に社名変更したMikatus株式会社の最高顧問として、マイナンバー制度やデジタル行政の動きにかかわりつつ、これらの中小企業に与える影響を解説する。