昨今、推進される働き方改革の実現において、従来から取り組まれているペーパレス化が改めて注目されています。本連載では、ペーパレス化によって実現する働き方改革をテーマに、ペーパレス化についてさまざまな角度で解説していきます。初回は、なぜペーパレス化が働き方改革に寄与するかについてお話します。

ペーパレス化がオフィスワーカーの働き方を変える

近年、ペーパレス化と働き方改革をあわせて耳にすることが増えてきています。働き方改革は、これまでオフィスといった固定的な環境で従事していたオフィスワーカーの仕事のあり方を変えていく取り組みということで、ここ数年注目され始めました。

そして働き方改革を推進する上で、物理的な紙を要求するプロセスが存在してしまうとオフィスという固定的環境から脱却できないため、ペーパレス化も注目を集めています。

ちなみに、もっとも古いペーパレスオフィス構想は、1975年にアメリカのビジネスウィークの記事として発表されています。パソコンがまだ復旧していないこの時代に、すでに将来のペーパレスオフィスの構想に言及していたことは驚きです。

平成29年度版の情報通信白書では、働き方改革とICT利活用という題目で、オフィスワーカーの仕事の在り方について触れられています。

働き方改革推進の背景には、「日本が置かれている、人口減少という構造的な問題に加え、投資不足とイノベーションの欠如を起因とする労働生産性の低迷がある」と述べられています。つまり、オフィスワーカーの労働生産性を向上するために、働き改革を実行する必要性があるということです。

そして、労働生産性を向上させる手段として、ICT(情報通信技術)を活用した柔軟な働き方であるテレワークが注目されています。この時間と場所にとらわれないテレワークを実現するために、重要な要素となっているのがペーパレスなのです。

ペーパレスが実現できれば、これまで回覧や承認などを行うためだけに物理的な制約を受けていた紙のアナログ処理を、デジタル処理化することができます。これにより、オフィスワーカーの生産性向上以外にも、企業の意思決定プロセスの迅速化やコンプライアンスの強化も期待できます。

そして、ペーパレス化において重要なことは、ただ単に紙をデジタル化するだけではなく、プロセス全体をデジタル化し、矛盾が発生しないような仕組み(例えば、悪意を持った者が意図的にデータ操作できない)を築き上げていくことです。

日本のペーパレス化の歴史

実は日本において、働き方改革以前にもペーパレス化が注目を浴びたことがあります。それは、日本政府がe-Japan戦略の一貫として2004年11月に制定し、翌年4月に施行したe-文書法です。

e-文書法は、法令により民間に保存が義務付けられ、電子的な保存が認められていない財務関係書類、税務関係書類といった文書・帳票のうち、近年の情報技術の進展を踏まえ、文書・帳票の内容、性格に応じた真実性・可視性などを確保しつつ、原則としてこれらの文書・帳票の電子保存が可能となることを目指していました。

この法案により、財務・税務関係の帳票類や取締役会議事録など、商法(およびその関連法令)や税法で保管が義務づけられている文書について、紙文書だけでなく電子化された文書ファイルでの保存が認められるようになりました。

また、e-Japanの重点施策として、同時期に政府の申請・届出など手続のオンライン化、内部事務のペーパレス化(電子化)も促進され、電子的な申請や手続きが導入され始めました。日本でe-Japan戦略が策定され議論されていた同じ時期に、米国でもESIGN Actが制定されています。

しかし、企業におけるe-文章法を契機としたペーパレス化の取り組みは、運用面での制約事項や従来の紙ベースの処理の容易性を上回る技術が乏しかったこともあり、積極的に行われることはありませんでした。

当時のペーパレスは、環境対策やコスト削減が目的であり、今日の労働生産性の向上やビジネスの継続性への対策としてのペーパレスとは位置付けが違っていました。それが、2011年に発生した東日本大震災以降に大きく変わります。

東日本大震災時には、交通機関の寸断や電力供給量の制限による省電力の必要性などで、オフィスでの働き方を再考する必要性がありました。しかしながら、ビジネス継続性の観点から働き方を変更したいのに、紙や対面ベースで作られていたビジネスプロセスが邪魔をして、その習慣をすぐに変えることができなかったのです。

この頃よく話題となっていたのが、ビジネスコミュニケーションを対面からオンラインで実現するユニファイド・コミュニケーションです。しかし、ビジネスプロセスの主流が紙やアナログに頼っていたため、e-文書法施行時と同様にペーパレス化が働き方全体を変えることは難しかったのです。

そして、ここ最近、労働人口の減少や他国との経済競争の激化から、生産性向上が期待できる柔軟な働き方の必要性が高まっており、それを実現するためにプロセスをデジタル化するための技術も整ったため、ペーパレス化が改めて注目されているのです。

次回は、ペーパレス化を阻む日本のはんこ文化とペーパレス化がなぜ注目されているかについてより詳細にお話します。


ドキュサイン・ジャパン ソリューション・エンジニアリング・ディレクター 佐野龍也
ドキュサイン(DocuSign)は、電子署名とペーパレスソリューションのプラットフォームです。ドキュサインを使うことで、時間や場所、デバイスに関係なく、クラウドで文書を送信、署名、追跡、保存を可能とし、セキュアな環境の下、業務のペーパレス化を実現します。ドキュサイン・ジャパンは、米DocuSignの日本法人です。