平成30年7月豪雨の影響で運休していた「SLやまぐち号」の再開が決まった。一方、真岡鐵道の蒸気機関車2台のうち1台の放出を検討中、野辺山SLランドの閉園など、先週はSL関連の報道が目立った。鉄道観光で人気のSL列車について、最近の動きをまとめた。

  • D51形200号機に牽引される「SLやまぐち号」

JR西日本は8月31日、運休中の「SLやまぐち号」について、9月29日から運転再開すると発表した。山口線新山口~津和野間を走る「SLやまぐち号」は2018年の運行を3月24日から開始。5月までD51形が牽引し、6月からC57形の牽引で運行する予定だった。しかしC57形の車軸に不具合が見つかったため、D51形が7月1日まで代行した。

もともとD51形は7月15日から北陸本線の「SL北びわこ号」として運行予定で、整備の必要もあることから、7月に京都の梅小路機関区へ回送された。「SLやまぐち号」はC57形の修理が完了した後、7月21日から運行再開予定だった。そこへ平成30年7月豪雨による土砂災害等が発生。山陽本線の広島県の東西県境付近が不通となった。

回送中だったD51形は広島で閉じ込められてしまい、京都にも行けず、新山口にも戻れなくなった。C57形も西へ向かえない。「SLやまぐち号」は運行不可能になってしまった。その後、山口県側の不通区間だった柳井~下松間が9月9日再開予定とされ、新山口方面へつながることから、D51形の回送が可能に。整備期間を経て9月29日から運転再開することになった。9月29・30日の指定席券は9月4日10時から販売開始され、以降の運転日の指定席券は通常通り、運転日1カ月前の10時から販売される。

D51形で運行予定だった「SL北びわこ号」は、修理を終えたC57形が夏季期間の代役を務めた。8月27日、滋賀県は公式サイトで「SL北びわこ号」の秋の運行計画を発表。C57形が引き続き担当し、9月9日から11月4日までの日曜日のうち、のべ7日間で運行するという。

山陽本線は10月中に全線復旧予定となっているけれど、その後も引き続きD51形が「SLやまぐち号」、C57形が「SL北びわこ号」を担当するようだ。ただし、11月25日は「SLやまぐち号」でD51形・C57形の重連運転が予定されている。C57形にとっては今年3回目、ほぼ半年ぶりの「SLやまぐち号」となりそうだ。

  • C12形が牽引する真岡鐵道「SLもおか号」

一方、こちらもSL関連の気になるニュース。YOMIURI ONLINEが8月31日、「真岡SL『2台運行は困難』1台廃止し譲渡検討」と題して報じた。真岡鐵道は現在、C11形・C12形の蒸気機関車2台を保有している。このうち劣化が進んだC11形を譲渡する意向だという。劣化が進んでいるとはいえ、全般検査を終わらせたばかりで走行は可能だ。

全般検査はクルマに例えると車検にあたる。安全走行に問題のある部品は交換したり修理したりする。C11形は老朽化が進み、全般検査を通す費用が1億4,500万円になり、負担が大きい。そもそも2台のSLを保有している理由は、長期に及ぶ全般検査期間中も「SLもおか号」を走らせるためだった。その「SLもおか号」の乗客も減少傾向にあり、SL列車の収支は厳しいという。

「SLもおか号」は通年で土休日を中心に運行。夏休みなど学校が休みの時期も走っている。真岡鐵道がC11形を「放出」した場合、C12形が全般検査を受けたり故障したりすると運休になる。通年運行は諦めることになるだろう。蒸気機関車をテーマとした展示施設「SLキューロク館」もあるだけに、SL列車の減便はもったいない。しかし、背に腹は代えられない。

C11形は修理代に手間がかかるとはいえ、営業運転は可能だ。そこで譲渡先が気になる。蒸気機関車は鉄道ファンだけでなく、こどもたちにも人気がある。観光の目的にもなる。動く蒸気機関車があれば欲しいという鉄道事業者はいくつか思い浮かぶ。

たとえば、愛知県の名古屋臨海高速鉄道あおなみ線。以前から名古屋市長がSL列車を走らせたい意向を示しており、JR西日本からC56形を借りて試験運行も実施した。本格運行にあたっては大井川鐵道から蒸気機関車を借りるという構想もあったと聞く。まだSL運行に関心があるなら、小型の蒸気機関車であるC11形はちょうど良いかもしれない。

鳥取県の若桜鉄道もSL運行をめざしている。現在はC12形を圧縮空気で走らせている。C12形のボイラーを修理してSL列車を本格運行する構想があるけれども、すでに動くC11形があれば、すぐにでもSL列車を運行できるだろう。いすみ鉄道の前社長も現職時代、いずれSL列車を走らせたいとブログに綴っていた。観光の目玉としてSL列車を走らせたい鉄道事業者は多そうだ。

そんな中、「本命は東武鉄道」と筆者は予想する。東武鉄道の「SL大樹」はJR北海道から借り受けたC11形を使用しているけれども、不具合が発見されるたびに入念な整備を行うため、稼働率が下がっている。下今市駅の機関庫は2台分のスペースがあり、客車は2列車分、保安設備を搭載する車掌車も2台ある。同型機のC11形だから整備のノウハウもあり、受け入れやすいだろう。

蒸気機関車2台の体制となれば、故障時の予備にもなる。2台とも調子が良ければ、1台は野岩鉄道・会津鉄道経由で会津若松方面へ往復できるかもしれない。会津若松駅では「SLばんえつ物語」が発着するから、日光・鬼怒川から会津若松を経て新潟(新津)までの「SLゴールデンルート」が完成する。実現するなら乗ってみたい。

  • 野辺山SLランドの蒸気機関車362号機は譲渡先を募集中

蒸気機関車の譲渡といえばもうひとつ。ベルギー製の小型蒸気機関車も譲渡先を募集している。8月31日をもって閉園した野辺山SLランド(長野県)で走っていた蒸気機関車と客車、その他資材一式である。

野辺山SLランドは個人が運営するミニ遊園地で、ここを走る蒸気機関車362号機は台湾のサトウキビ運搬鉄道で活躍したという。石炭ではなく灯油で水を温め、蒸気で走る。鉄道事業ではなく遊具ではあるけれども、日本一標高の高い場所を走る蒸気機関車として知られ、避暑地の野辺山地域では人気のアトラクションだった。

蒸気機関車362号機だけでなく客車や線路なども含め、取扱いは栃木県日光市の「せんろ商会」となっており、同社サイトにて車両・遊具の譲渡に関する問い合わせも受け付けている(野辺山SLランドへの譲渡関係の問い合わせは不可)。まとめて引き取れば、遊覧鉄道を建設することもできる。こちらも理解ある引き取り手が見つかってほしい。

今年はJR東日本の「SLばんえつ物語」を牽引するC57形が不具合を起こし、代わってディーゼル機関車を使った「DLばんえつ物語」が運行されることになった。京都鉄道博物館の動態保存SLが走る「SLスチーム号」は、酷暑による運転士の健康影響などに配慮し、減便されている。どうやら2018年は「SL受難の年」となってしまったようだ。