スマート機器と連携するサウンドシステムを開発・提供するSonos。ユーザーの熱い支持を追い風に成長してきた同社だが、古い製品のソフトウェアアップデート打ち切りを巡ってユーザーから猛烈な批判を浴びている。

Sonosは21日、公式ブログと利用者へのメールを通じて「Zone Players」「Sonos Connect」「Connect:Amp」「Play:5(第一世代)」「CR200」「Bridge」のソフトウェアアップデートと新機能追加を今年4月で終了させると発表した。一部は2015年まで販売されていたが、全ての製品がEnd of Sale (EOS)からしばらく経ったレガシー製品である。

  • 50Wアンプを内蔵したワイヤレス音楽プレーヤー「Sonos ZonePlayer ZP100」

    50Wアンプを内蔵したワイヤレス音楽プレーヤー「Sonos ZonePlayer ZP100」

ソフトウェアアップデート打ち切り後、ユーザーには2つの選択肢があった。1つはSonosが提供するトレードアップ・プログラムを用いて、新しいSonos製品を30%オフで購入する。もう1つは、ソフトウェアアップデートの停止でこれから少しずつ機能が限られていくのを理解した上でレガシー製品を使い続けていく。

デバイスメーカーがEnd of Sale (EOS) とEnd of Life (EOL)を示して計画的に製品サポートを終了させるのは通常のことであり、Sonosの対象製品がデジタルオーディオシステム、ワイヤレス機器、スマート機器として製品寿命が特に短かいわけでもない。何も問題がないように思うが、それでもユーザーから不満の声が上がったのは、Sonosの製品がスマートホーム・デバイスであるからだ。

Sonosがソフトウェアアップデートを終了させる理由は、対象製品が備えるチップやメモリー、ネットワーク機能が古く、例えばAppleのAirPlay 2のような新たな技術が出てきた際に対応し続けていくのが難しいから。新機能や新技術を備えた様々なデバイスとの連携を通じて、Sonos製品の体験がどんどん向上していく。ただ、それを実現するには、Sonosのプラットフォーム全体が新しい技術/機能に対応できなければならない。では、プラットフォームの中にレガシーな製品が組み込まれているとどうなるかというと、全体のファームウェアの世代を同じにするためにプラットフォーム全体がレガシーモードで動作する。つまり、レガシー製品のソフトウェアアップデートが終了したら、新しいデバイスも機能アップデートの恩恵を受けられなくなる。それが問題視された。

Sonosを支持しているユーザーの中には、昔の製品から継続的に新しいSonos製品も購入しているユーザーが多い。Sonosの製品サポートが不適切なわけではないし、ソフトウェアアップデート打ち切りの道理もわかる。しかし、より良い体験を盾に買い替えを強制されているようで、ユーザーの心理として納得できない。それゆえに不満が爆発した。

蜂の巣をつついたような騒動に、23日にSonosはCEOのPatrick Spence氏がオープンレターを公開、混乱を生じさせたことを謝罪した上で、5月以降もセキュリティアップデートやバグ修正はレガシー製品にも引き続き提供し、一部のユーザーが懸念していたレンガ化 (製品が全く使えなくなる)が起こらないことを明言した。また、Sonos製品をモダン製品とレガシー製品に分け、モダン製品が最新のアップデートを受けながらレガシー製品と共に同じエコシステムで共存していけるソリューションを提供することも約束した。

過去2~3年の間にサブスクリプション型のサービスが成長し、今年は5G普及の年になる。それとともに成長が見込まれている分野の1つがスマートホームである。Sonosのオーディオシステムがそうであるように、今日のスマートデバイスはネットワークやクラウドを通じて他の様々な機器、音声アシスタント、そしてサービスと連携する。ハードウェア、ソフトウェア、サービスを組み合わせた相乗効果的な体験が肝である。ただ、それら3つを揃えるという観点で言えば、ソフトウェアとサービスはひらすらアップデートで先に進むが、ハードウェアはパーツをアップグレードできるような設計でなければ機能・性能のアップデートは望めない。今回の議論において、デジタルオーディオシステムやスマートスピーカーもプロセッサやメモリーをアップグレードできるようになるべきというコメントが出てきたが、家電デバイスとしてのデザインや価格とのバランスを考えるとデバイスメーカーがそれを受け入れるとは思えない。だから、ソフトウェアやサービスとハードウェアのギャップによる今回の騒動のようなことがこれからも起こり得る。

スマートホーム環境で常に最新の体験を楽しめるモダンな環境を維持するか、それとも古くなっていくハードウェアと共にレガシーな体験で使い続けていくか。選ぶのはユーザーだ。スマートデバイスに関わる企業やメーカーは消費者に対して、その点の理解・浸透に努めなければならない。スマートフォンのようにソフトウェアアップデートを魅力的なものにすれば、様々なデジタル機器でユーザーが納得してハードウェアの買い換えに踏み切るようになるだろう。

ただ、今回の議論では、買い換えを促す仕組みによって廃棄される電子デバイスが増加する問題も指摘された。例えば、進化の途上にあるApple Watch。ハードウェアの成長も目覚ましいため、まだ5世代目だが、新しいモデルを追加したり、買い換えたユーザーが少なくない。時計のライフサイクルとしては、従来の時計に比べて短い。メーカーがスマートデバイスであることを望み、それによって製品のライフサイクルが短くなるなら、「より長く」とは異なるアプローチが必要である。Appleは製品に再生可能な素材を極力採用し、回収した製品をリサイクル処理して新しい製品の素材に用いるなど、廃棄物を出さない持続可能な仕組みに取り組んでいる。リサイクルは重要なことではあるが、持続可能性がデバイスメーカーの将来を左右するものとは見なされてこなかった。しかし、今後もスマート機器の進化を推進する上で、廃棄される際の収集・リサイクル処理・処分の責任をメーカーが負う拡大生産者責任 (EPR)が問われることになるかもしれない。