IR誘致 どう動くのが「得策」か コロナ影響、難しい判断迫られる自治体 国の方針見えず対応に苦慮 開業延期の懸念も

IR誘致を目指す地域の事業者公募状況

 カジノを含む統合型リゾート施設(IR)誘致を巡り、長崎県は、IR設置・運営のパートナーとなる事業者の公募を今夏にも始める方針だ。ただ、新型コロナウイルスなどの影響で国の整備手続きは遅れ、誘致を目指す自治体の準備にも支障が出ている。先行きが不透明な中、どう動くのが「得策」なのか-。県は難しい判断を迫られている。
 「長崎県は(開業効果が高い)一番バッターを目指すべきだ。いつ公募を始めるのか」。6月19日の県議会一般質問。事業者公募の時期を明確に示さない県幹部に、田中愛国県議がいら立ち交じりに迫った。県議はIRの誘致先となっている佐世保市が地盤だ。
 県は昨年12月、同市のハウステンボスに誘致を計画するIRの規模などをまとめた実施方針素案を発表。今年春ごろに公募を始め、秋ごろに選定するスケジュールを示した。だが昨年末にIRを巡る贈収賄事件が発覚。国は1月の基本方針策定を先送りし、新型コロナの感染拡大でさらに後回しとなっている。
 誘致を目指す自治体側にも影響が出ている。本県や大阪府・市、和歌山県、横浜市の4地域でもコロナ禍で人の移動が制限。海外に拠点を置く事業者との調整が難しくなり、準備作業が滞った。
 IRを取り巻く状況を考慮し、国は今後策定する基本方針で自治体側に対し、事業者との接触ルールや感染症への対策を新たに求める公算が高い。県はこれを見極める考えだが、場合によっては方針決定を待たず、見切り発車で公募を始めることも視野に入れる。
 パートナーとして有力視されるのが、県にIRコンセプトを提案した3事業者。現時点ではいずれも応募する意向を示しているが、「勝算がない限り本当に手を上げるかどうかは分からない」と関係者は懸念する。
 実際、昨年12月に先陣を切って公募を始めた大阪府・市は、世界屈指のIR事業者「MGMリゾーツ・インターナショナル」(米国)など7者程度が関心を示したが、ふたを開けてみれば応募は1者。4者程度が競合するとみられた和歌山県も名乗りを上げたのは2者にとどまった。
 こうした中、国は自治体から整備計画の申請を受け付ける期間(来年1~7月)を延期するべきかどうか検討を開始。2020年代半ばとする開業時期を延ばす可能性も出てきた。
 ただ、これが本県の誘致計画にどう影響するかは分からない。ライバルと目された北海道や北九州市などは「準備期間が限られている」などとして誘致を見送った経緯がある。時間的余裕が生まれることで「復活するのではないか」とある県議は警戒感を隠さない。
 県IR推進課は「スケジュールに大きな変更があれば公募の時期の再考もあり得る。国の動きを注視している」とする。早く事業者を選定して整備計画を練り上げる時間を確保するか、国の方針決定をぎりぎりまで待つか-。県は対応に苦慮している。

長崎IRの誘致先となっているハウステンボス=佐世保市(小型無人機ドローン「空彩4号」で撮影)

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