古くから霊峰として知られる立山。その頂に見えるのは雄山神社の峰本社だ。開山は西暦701年ともいわれ、「わが国で最も早く開かれた山の一つ」と、作家の深田久弥が名著『日本百名山』に書いている。深田は頂上の社務所に泊めてもらい、夜明けに四方の山々が雲海の上に浮かんでいる光景を眺め、立山が「天下の名峰」であるとの思いを強くした。
1921(大正10)年7月号の特集「日本の地理」を執筆した英国の登山家ウォルター・ウェストンも、立山をはじめとする日本アルプスの風景に魅せられた一人だ。宣教師として日本に滞在していた延べ十数年間に各地の山に登り、その体験をつづって、日本の山々を世界に紹介した。
ウェストンはまた、日本アルプスに氷河が現存するかどうかにも興味を抱いていた。1918年の著書『日本アルプス再訪』では、日欧の研究者の主張を引用しながらおよそ10ページにわたって議論し、21年の特集には「氷河が活動している証拠はまだ発見されていない」と書いている。
氷河の証拠がついに見つかったのは、それから100年近くたった2012年のことだ。北アルプスの立山と剱岳(つるぎだけ)にある3カ所の雪渓が、日本に現存する氷河であると認定された。北アルプスではその後も氷河が見つかり、2019年には7カ所目が唐松岳で確認されている。
この記事はナショナル ジオグラフィック日本版2020年7月号に掲載されたものです。