通りに飛び出した男性がレンズを向けるのは、きらびやかな鞍や色とりどりの布で飾られた牛の行列。これは、現在の広島県北広島町で毎年6月の第1日曜日に豊作を祈願して行われる伝統行事「壬生の花田植」のひとこまだ。1978(昭和53)年7月号に掲載された。
飾り牛は田んぼに着くと、馬鍬(まぐわ)を付けて、土をならす代掻きを披露する。こうした田植え行事は昔の農耕文化を今に伝える貴重な遺産だが、明治から大正にかけて、農業の効率が重視されると一時途絶えてしまう。壬生の花田植は昭和に入って地元の商工会の尽力で復活し、第2次世界大戦による中断を経て、戦後に再び復活。1976年には国の重要無形民俗文化財に指定され、2011年にはユネスコの無形文化遺産に登録された。2020年はコロナ禍の影響で中止されたが、町のイメージキャラクターでもある飾り牛は再開を待ち望んでいるに違いない。
この記事はナショナル ジオグラフィック日本版2020年11月号に掲載されたものです。